第7話 『鑑定の儀』

 週末にポーションを届けることになったので、テオにお願いして薬草を多めに採って来てもらっている。私が採りに行けたら良いんだけど、冒険者登録が出来るのは12歳からなのよね~。あっ、その前に教会に行かないと……。


 教会には『鑑定の儀』って言うのがあって、10歳になったら誰でも1回だけ無料でステータスを調べてくれるの。お布施を払えばいつでも調べてくれるそうだけど、無料で調べてくれるのを逃すのはもったいないよね。


 私、色々と魔法を使えるけど自分のステータスは知らない。『鑑定』のスキルを持っている人は、10歳頃から成人する15歳までには自分のステータスを見られるようになるんだって。


「あのね、テオ。私、今月で10歳になるでしょ? 誕生日が来たら教会で『鑑定の儀』を受けようと思っているの。『鑑定の儀』は無料だよね?」


 自分が持っているスキルが分かれば、出来ることが増えると思うの。スキルを使って経験を積むと、スキルのレベルが上がることもあるんだって。


「ああ、無料だがアリスは見てもらわない方が良いと思うぞ」

「えっ、どうして?」

「アリスは聖魔法が使えるだろ? それが教会に知られると、聖女になれと五月蠅うるさく勧誘されるぞ? アリスには俺がいるから問題ないが、孤児なら教会に連れて行かれる」


 ……聖魔法が使えるだけで聖女になれるの?


「それは聖魔法のランクが高い人だけじゃないの? 嫌だ……テオと一緒にいたい。教会になんて行きたくない……聖女になんてなりたくないからね!」


 テオと離れるのはイヤだ!


「ぐうっ、アリス……アリスを教会なんかに渡さないからな! だから、『鑑定の儀』は止めておけ……。わざわざ教会に、アリスが聖魔法を使えるって教える必要はないだろう? 他にも変なスキルあったら困るしな」


 テオは自分の胸を抑えながら言うけど、


「変なって、どんなスキル?」

「う~ん、魅了とか?」

「……私、そんなの持っていないと思うよ。ねえ、テオ、胸を抑えているけど痛いの? ポーション飲む?」

「いや、大丈夫だ……(アリスが、可愛いだけだ……)」


 テオ、聞こえているよ~。嬉しいけど、他の人に聞かれたら親バカって言われるからね。ふふ。


 教会に行くのは止めよう。自分のステータスやスキルを知りたいけど、大好きなテオと離れるのはイヤだからね。



 ◇◇◇

 最近、騎士様のお客さんが増えた。きっと、エリオット様の体調が良くなって、この店のことを聞いたのかもね。お客さんが増えたのは良いけど、中には変な人もいる。


「エリオット副隊長が、アリスが可愛いと五月蠅うるさいので見に来たが、子どもではないか! 副隊長はそういう趣味だったのか……」


「あの……」


 いえ、違うと思いますよ。お客じゃないなら帰ってと言いたかった。


 今日も騎士様が店に入ってくるなり、


「何にでも効く薬があると聞いたが、1本いくらだろうか?」


「えっ? そんな薬は置いていません……」


 こんなやり取りになった。何にでも効く薬ってエリクサーのことかな? そんなの置いている訳がない。お昼からも似たようなことが……身分の高い人と、こういうやり取りをすると疲れるので、今日は早めにお店を閉めて薬を作ろう。


 作業場で傷薬を作っていたら、勝手口の方で誰かの気配がする……あれはテオかな? テオが早めに帰って来た。と言っても3日ぶりだけどね。


 台所に行くとやっぱりテオだった。


「テオ! お帰り~」

「おう! アリス、店をもう閉めたのか?」

「うん……」


 テオに、変なお客さんが来たから早めに閉めたと答えた。


「それは、災難だったな~。アリス、大丈夫だったか?」

「大丈夫。いざとなったら火魔法を見せて『帰れ!』って、言うから」

「う~ん、それも逆に危ないぞ。子供の脅しなんて怖くないからな。騎士の客が増えたのか……」


 足元に魔法を放ったら怖がると思ったんだけど……あぁ、店の中で火魔法は危ないかな。火事になったら困るし、水浸しもいやだな~。土魔法も後の掃除が大変そう……残るは風魔法……。


「アリス、騎士のほとんどは貴族だ。貴族の客が増えたら他の薬屋がねたんで嫌がらせをしてきそうだな」


 他の薬屋が? 考えてもいなかった。


「そういうこともあるのね。そうなったら、お店を閉めて常連さんだけのポーション販売でもいいけどね」

「何っ! 顧客だけの固定販売か……アリス、強気の商売だな~」


 2人が食べるだけなら、常連さんの売り上げだけで食べていけるもん。ふふ、コツコツ貯めているしね~。


「それにね、私、12才になったら冒険者登録するからね」

「アリスは冒険者になりたいのか……薬屋はどうするんだ?」

「薬屋は続けるよ。冒険者登録したら、成人していなくても一人で薬草を採りに行けるでしょ?」


 今は、テオに薬草を採って来てもらっているけど、自分で採りに行って薬草を売ることも出来る。テオも自由に狩りに行けるから、今より余裕が出来ると思うの。


「アリスが冒険者登録したら、俺とパーティーを組むからな!」

「えっ! テオ、薬草を採りに行くだけだから一人で大丈夫だよ」

「ソロはダメだ! 一緒に行くからな」

「う、うん……」


 テオは変な所で過保護だよね。私をほったらかしにしてダンジョンに行くのに……。

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