第10話 警備3日目
今日はテオがいるから……まだ寝ているけど、いつ起きて来てもいいように食事の準備をしておこう。
その後、店内を掃除してから店の扉を開けに行くと、知らない騎士様が店の前に立っていた。ロペス様より年上の騎士様。
「おはよう。ここが、『テオの薬屋』で間違いないだろうか?」
「はい、そうです。騎士様、おはようございます……」
「今日は、私が警備にあたる。よろしく」
ロペス様じゃないのね。明日も来るって言っていたのに、何かあったのかな?
「朝早くから、ありがとうございます。でも騎士様、今日はテオが……錬金術師の先生がいるから大丈夫ですよ」
「あぁ、エリオット副隊長から、先生がいても警備するよう言われている。私はアルバート・デイルと言う。しかし……聞いてはいたが、君が店番をしているのか?」
そっか、テオがいても警備してくれるんだ。この騎士様はアルバート・デイル様……家の名前があるから貴族ね。
「はい、そうです。私はアリスと言います。デイル様、よろしくお願いします」
デイル様に頭を下げる。
「あぁ、アリス、私のことはアルバートと呼んでくれ」
「えっ、はい……アルバート様」
アルバート様は20歳前後かな? エリオット様と同じ位の年に見える。背が高くて、赤い髪で茶色の瞳のイケメン騎士様。
貴族の男性はイケメンばっかりなのかな? それとも、騎士団がイケメンしか入れないとか……エリオット様はキラキラのイケメンで、ロペス様もキレイな顔をしていた。
「あの、アルバート様。お店の中で座っていてください。お願いします」
「ああ、ロペスから聞いている。フフ」
ほら! 笑顔もイケメンだよ。店の前に立たせたら、近所のおばさんやお姉さんが集まって来て……『アリス、なぜ店前で立たせているの!?』と、絶対に私が怒られる! それは避けないと。
アルバート様にも、カウンター横のテーブルに座ってもらった。
「アルバート様、ロペス様に何かあったんですか?」
「特に何もないが、どうして聞くのだ? あっ……」
アルバート様が、何かに気付いたように眉毛を上げるけど、アルバート様よりロペス様が良かったなんて思っていませんよ。勘違いしないでくださいね。
「昨日、ロペス様は明日も来ると言って帰られたので、何かあったのかと思ったんです」
「えっ……そうか、ロペスは今日も来ると言っていたのか。フフッ」
「はい……」
うん? アルバート様が笑っている……私、何か変なことを言ったかな?
「ハハハ、すまない。本当は毎日交代するはずだったのだが、ロペスが珍しく『自分が行きます』と言うので、2日続けて警備を頼んだんだ。だが、流石に3日続けては報告に困るので私が来たのだよ」
えっ、毎日違う騎士様が来るの? 気を使うなぁ。
「そうなんですか。じゃあ、明日も違う騎士様が来られるんですね?」
「明日、誰が来るかは騎士団に戻らないと分からないな。毎日違う騎士だと気まずいかい?」
「い、いえ! そんなことないです……」
うぅ、アルバート様はするどいな。心を読まれたみたい。
ガチャ、チリンチリン~
振り向くと、お客さんは近所のおばさんだった。
「いらっしゃいませ~」
「アリス、傷薬を1つ頼むよ」
「は~い、いつものでいいですか?」
「ああ、いつもので頼むよ。今日もテオはいないのかい?」
「テオは、昨日遅かったからまだ寝ていますよ」
みんなテオのことを聞いてくる。テオも男前だから、近所のおばさん達に可愛がられているのよね~。おばさんが、アルバート様に気が付いて一瞬固まった。
「あっ、ああ……そうなんだね。アリスは、文句も言わずに店番するなんて偉いね~」
おばさんが話しながら、チラチラとアルバート様を見ている。ふふ、イケメンでしょ?
ガチャ、チリンチリン~
おばさんの傷薬を用意していると、金糸を使った高級そうな黒いローブを着た人が入って来た。ほとんど白い髪を後ろに撫で付けた、ちょっと怖い顔をした年配の……おじいちゃん。
あごに白い髭が生えていて貴族の偉い人に見えるけど、エリオット様の話を誰かから聞いて来たのかな? 魔法使い……それとも、また嫌がらせに来たどこかの錬金術師かな?
「いらっしゃいませ~」
「うむ、ポーションを1つ貰えるかな」
あっ、ごめんなさい。普通のお客さんだった。
「はい。お客様、そちらで少しお待ちください」
カウンター横のテーブルにはアルバート様が座っているので、入口近くにある2人掛けのテーブルで待ってもらうようにお願いした。
「うむ……」
ローブのおじいちゃんは、私を見てちょっと驚いている。子供が店番をしているとは思わなかったのね。
おばさんに薬を渡して見送った後、ローブのおじいちゃんの所に行って必要なポーションの確認をする。勘違いのおわびに、とびっきりの笑顔を添えて。
「お待たせしてすみません。お客様、ポーションはダンジョン産のポーションですか? それとも自家製ポーションですか?」
「うむ。自家製ポーションを1つ貰おう。いくらかな?」
「はい。1本、銀貨3枚と銅貨3枚です。すぐに用意しますね」
「ふむ、安いのぉ」
カウンター奥の棚にある自家製ポーションを紙袋にいれて、ローブのおじいちゃんの所にもどり手渡した。
「代金ちょうど頂きます。ありがとうございました。あっ! お客様、次回また自家製ポーションを買っていただけるなら、使用済みの空ビンを持って来て下さい。ビン代の銅貨3枚が割引になりますから、よろしくお願いしますね」
「うむ……」
席を立つローブのおじいちゃんを笑顔で見送る。
「ありがとうございました!」
「うむ!」
ローブのおじいちゃんは、ニコニコと機嫌よく帰って行った。怖い人かと思ったけど、口数の少ない普通のおじいちゃんだったな~。アルバート様を見るとニヤニヤしている。
「アルバート様、お知り合いですか?」
「ああ、仕事でご一緒することもあるのだが、私から声を掛ける訳にはいかないから控えていた。供も連れずに……フフ、こっそり来られたのだろうね」
貴族には爵位って言うのがあって、上位の貴族には下位の貴族から話し掛けないのがマナーなんだって。ややこしいね……庶民で良かった。あのおじいちゃんは、やっぱり偉い人だったんだ。
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