第24話 ロペス様の治療



 数日後、午前中に来られたエリオット様が、店を閉める頃にまた来られた。


「いらっしゃいませ。エリオット様、どうしたんですか?」


「ああ、アリス。折り入って話があるんだよ」


 エリオット様が、私に話なんて珍しいな~。学園の試験は受けると言ったから、その話じゃないよね。店を閉めてテーブルに案内すると、エリオット様はゆっくり話し始めた。


「実はね……ロペスの魔法の威力が落ちてしまったんだよ」


「えっ? そんなことがあるんですか……?」


 ロペス様は、討伐から帰って来ると魔法の威力が落ちていて、治癒士に診てもらったら、体内の魔力の流れが悪くなったんだと言われたそうです。


 治癒士に回復魔法を掛けてもらったけど治らなくて、その後、聖女様にも診てもらったけど、『魔力の流れが悪い』のは呪いでも病気でもないから聖魔法では治らないと言われたとか……。


「アリス、治せなくても良いから、一度ロペスを診てやって欲しいんだ」


 ロペス様が困っているなら治してあげたいけど、回復魔法を掛けても効果が無くて、聖女様が呪いでも病気でもないって言うなら、聖魔法は効果ないんだろうな……あっ、エリオット様は聖女様が解けなかった呪いを私が解いたからこの話を持って来たのか。


「分かりました。でもエリオット様、私には回復魔法か聖魔法をかけることしか出来ないですよ。期待しないで下さいね」


「アリス、十分だよ。引き受けてくれてありがとう。ロペスには、診て貰うだけだと言うからね」


「はい、お願いします」


 後日、開店前にロペス様を連れて来ることになり、テオにも話を伝えると「聖魔法のことは言わずに、強めの回復魔法を掛けると言えばいいんじゃないか」と言われた。なるほどね。



◇◇◇

 今日はエリオット様がロペス様を連れて来る日。テオもダンジョンには行かず、朝から起きて店にいてくれる。準備中の札を掛けたままカギを開けて待っていると、約束の時間より少し早くエリオット様達が来た。


 ガチャ、チリンチリン~


「テオ殿、アリス、無理を言ってすまない。今日はよろしく頼む」

「おはようございます」


「いらっしゃい! ハハ、エリオット様、無理って程じゃないですよ」

「エリオット様、ロペス様、いらっしゃいませ」


 エリオット様はロペス様に何も言っていないみたいで、店の中を見回した後、キョトンとしている。


「(アリス、いつも俺にしてくれるように魔法を掛ければ良いさ。アリスは医者じゃないんだから、治らなくても気にしなくて良いからな)」

「テオ……うん、分かった」


 隣でテオが、みんなに聞こえないように耳元でささやく。私の緊張をほぐそうとしているのかな? ふふ、ありがとう。


 エリオット様とロペス様に、4人掛けのテーブルに並んで座ってもらい、私はロペス様の正面に座った。


「ロペス様、すみませんが手を出してもらっても良いですか?」


「えっ……アリスが診てくれるのかい?」


 ロペス様に、にっこりと答える。


「はい。でも、魔力の流れの治療なんて知らないから……ちょっと強めの回復魔法をロペス様の身体に送ることしか出来ません」


 聖魔法も掛けるなんて言えないから、テオの言う通りぼかして言った。ロペス様は「そうか」と言って、ぎこちなく手を出す。治癒士の回復魔法を受けても効果がなかったのに、10歳の子供に回復魔法を掛けてもらうとは思わなかったですよね。


「アリス、治癒士には、体内を流れる魔力がどこかで詰まったんだろうと言われたよ」


「えっ、詰まる……」


 もしかして……討伐でケガとかして、汚れや異物が体の中に入ってしまって魔力の流れを止めている? じゃあ、浄化魔法が効くかも……ロペス様の手を両手で包んで、『ロペス様の魔力の流れが良くなりますように』と願いながら、ゆっくり浄化魔法と回復魔法、最後に聖魔法を掛けていく。


「あっ、アリスの魔力……温かくて気持ちいいね……」


 ロペス様の身体が淡く光って、それが膨らんで弾けるように消えた。ん~、私にはロペス様の魔力の流れが良くなったのか分からないな。


「良くなっていればいいんですけど……」


 ここで魔法を使って確認してもらえないので、ロペス様に後で魔法の効果がどうだったか教えて下さいとお願いした。


「分かった。アリス、ありがとう」


「早速、騎士団の訓練場に戻ってロペスの調子を見てみるか。アリス、手間を掛けたね」


 エリオット様はそう言うと、サンドパンを買って帰って行った。


「じゃあ、アリス。俺はもう1回寝て来るから、昼飯の時に起こしてくれ」

「テオ……」


 これから寝るの?


 ガチャ、チリンチリン~


「アリスーー!」


 お昼前にロペス様が飛び込んで来た。


「ロペス様、どうでした?」


 ロペス様の慌てぶりに聞かなくても分かるけど、ふふ。


「アリス、凄いよ! すっかり魔法の威力が戻って、以前より威力が上がっているぐらいだよ!」


 ロペス様が嬉しそうに言うから私も嬉しくなるな。以前より威力が上がっているのなら、元々魔力の流れが少し悪かったのかな? きっと、浄化魔法が効いたのね。


「ロペス様、治って良かったです。ふふふ」


 ロペス様は、エリオット様から、今回の治療のことは誰にも言わないように口止めされていて、「ある日突然治っていた」事にするそうです。


「アリス、本当にありがとう。それで治療費だけど……」


「ロペス様、治療費なんて私には分からないので、テオと話してもらって良いですか?」


 テオを起こして、2人で話をしてもらった。ロペス様から何度もお礼を言われて、困ったことがあったら何でも言って欲しい「アリスのことは守るからね」と言ってくれた。


「アリス、ロペス様が治って良かったな!」

「うん、良かった。ふふ」


 テオは治療費をいくらにしたんだろう?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る