ロペス・ラミレスのつぶやき

 魔法を使える騎士は、剣以外に魔法の訓練もするんだが、ゴーレムの討伐から帰って来てから魔法の威力が落ちた。以前の半分ほどの威力しか出ない……何故だろう。


「ロペス、調子が悪いのか?」

「アルバート様……」


 アルバート様に魔法の威力が落ちたことを話すと、治癒士に見てもらうようにと言われた。治癒士は、宮廷魔術師を引退した回復魔法を使える騎士団専属の医者だ。


「ふむ、これは魔力の流れが悪いようだね。何所か詰まったのかも知れない」


 生まれつき魔力が多いのに生活魔法しか使えない者や、急に魔法が使えなくなる者は、体内の魔力がスムーズに流れていなかったり、どこかで詰まっていると言われているそうだ。


「……治りますか?」


「残念ながら回復魔法で治ったと言う記録はない。一応、回復魔法を掛けてみるが、治らなければ聖女様に見てもらうしかないな」


 回復魔法では治らないのか……。


 治癒士に回復魔法を掛けてもらい、その後、訓練所で魔法を使ってみたが変わらなかった。アルバート様に報告すると、聖女様に診てもらうことになった。


 ◇◇

 教会に行き、女神像に参拝した後、客室に通された。飾り気のない簡素な部屋だ。


 しばらく待っていると、ドアがノックされ白いローブを着た初老の司祭と聖女様が入って来た。2人は正面に腰かけ、初老の司祭が声を出した。


「ロペス・ラミレス殿、お待たせいたしました。本日は治療のご要望でしたね」


「はい。魔法の威力が落ちてしまい、治癒士に診てもらったら魔力の流れが悪くなったのだろうと言われました。司祭殿、それを聖女様に治療して頂きたいのです」


「魔力の流れ……それは呪いや怪我ではないので、残念ですが聖女の聖魔法では元通りにすることは出来ません。それでもと、聖魔法を望まれる方はいらっしゃいますが、治った方はいらっしゃらないのです」


 何だって、聖女様でも治せないのか……司祭の横に座る大人しそうな聖女様がこちらを見ている。


「聖女様、そうなのですか?」


「はい。申し訳ございませんが司祭のおっしゃる通りです。多少は良くなったと言ってくださる方もいらっしゃいますが、元のように魔法の威力が回復することはないようです」


 気休め程度と言うことか……変に期待を持たされるより、ハッキリと言ってもらえて有難いと思うべきなのだろうな。


 聖女様の治療を諦めて騎士団に戻り、先ほどの話をアルバート様に報告した。


「そうか……分かった。副隊長に報告しておく」


◇◇◇

 それから数日して、エリオット副隊長に呼ばれた。


 副隊長の執務室に入ると、机で書類を見ていた副隊長が、私の顔を見るなりアルバートから話を聞いたと、ソファーに座るように促された。


「ロペス、私の知り合いに会ってみないか? もしかしたら、魔力の流れを改善してくれるかもしれない。知り合いに話をしたら、期待しないで欲しいと言われたが、やってみる価値はあると思う」


「はい……」


 聖女様に出来ないと言われたのに、治療出来る人がいるとは思えないんだが……副隊長が、私の為に伝手つてを頼ってくれたのは有難いな。


「ロペス、近いうちに行こうと思うが、良いかな?」


「承知しました。副隊長」


「ロペス、このことは誰にも言うな」


「……はい」


 それは、アルバート様にもと言うことだろうか……。


 ◇◇◇

 数日後、エリオット副隊長の供をして、朝一番に向かった先は『テオの薬屋』だった。まだ準備中の札が掛かっていたが、副隊長は気にせずに店の中へ入る。


 ガチャ、チリンチリン~


「テオ殿、アリス、無理を言ってすまない。今日はよろしく頼む」

「おはようございます」


 ああ、ここで副隊長の知り合いと待ち合わせなのか。


「いらっしゃい! ハハ、エリオット様、無理って程じゃないですよ」

「エリオット様、ロペス様、いらっしゃいませ!」


 アリスがニッコリと笑顔で迎えてくれた。テオ殿もカウンターで手を上げている。店の中を見回したが、2人の他には誰もいない……まだ来られていないようだ。


 副隊長といつものテーブルに座ると、アリスが私の正面に座ってニッコリと笑う。


「ロペス様、すみませんが手を見せてもらっても良いですか?」


「えっ……アリスが診てくれるのかい?」


 副隊長を見ると、言われた通りにしろとあごを上げる。副隊長が言っていた知り合いとは、アリスのことなのか? アリスが回復魔法を使えるのは知っているが、騎士団の治癒士でも治せなかったのに……。


 アリスに言われた通りに手を出すと、アリスが両手で包むように受け止めた。そして、回復魔法を掛けているのか? アリスの魔力が流れて来るのが分かる。更に追いかけるように、温かくて優しい魔力が……。


「あっ、アリスの魔力……温かくて気持ちいいね……」


 アリスが「良くなっていれば良いんですけど……」と言いながらにっこりと微笑み、魔法の効果がどうだった後で教えて下さいと言う。


「早速、騎士団の訓練場に戻ってロペスの調子を見てみるか。アリス、手間を掛けたね」


 副隊長は、治療が終わったとばかりに機嫌よく店を出る。何だか、変な感じだ……。


 ◇

 エリオット副隊長と騎士団に戻って、魔法の訓練場に行き、的に向かって水魔法と風魔法を撃ってみた。


 ブクブク……ヒュッ――ドッバシャ――ン!!

 シュルルル、シュシュッ――バア――ン!!


 えっ!? まさか、威力が戻っている……。


「ロペス、どうだ?」

「副隊長! 元に戻りました。治りましたよ!」


 凄い! 魔法が元に戻った。心なしか、以前より魔力の威力が上がったようにも思える。


「そうか、治って良かった。ではロペス、今回の件について話があるから私の執務室に付いて来い」


 副隊長が、ニッコリと意味ありげに笑った。


「はい、副隊長……」


 執務室で、今回の治療の件は秘密にするように言われた。アリスのことは誰にも言うなと……誰かに聞かれたら、「ある日、突然治っていた」と答えるようにと。もし、過去にそういう事例は無いと言われれば、作るんだと言われた。


「副隊長……承知しました」


 テオ殿から、アリスの魔法の能力を隠しておきたいと言われているそうだ。魔力の高い子供がいると知られれば、アリスの身に危険が及ぶから……確かにその通りで、囲い込もうとする貴族や、魔力の高い子どもを狙う誘拐組織があるのも事実だからな。


 副隊長がアリスに学園を勧めるのも分かるが、学園の中も危ない……妹にアリスを見守るように言ったが、くれぐれも変な虫を付けないように言っておかないとね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る