第22話 学園のススメ

 翌日、店を開けるとエリオット様達が来てくれたので、カウンター横のテーブルに座ってもらった。テオはまだ寝ています。


「エリオット様、おかえりなさい。アルバート様もロペス様も、おかえりなさい」


 3人とも元気そうで良かった~。


「ああ、ただいま。アリス、あのマジックポーションの回復量は凄かったよ」


「エリオット様、あのマジックポーションを使ったんですか?」


「ああ、マルティネス様に1本使ってもらったんだけどね、MPが200も回復したと喜んでいたよ」


 えっ、そんなに回復したんだ。レオおじいちゃんとリアム様から、どこの錬金術師が作ったのかと聞かれたけど言わなかったそうです。


「アルバート様から聞いたけど、アリスがマジックポーションを作ったんだって?」


「はい、ロペス様。前にテオに作り方を教わったんです。今回、テオが魔力草を採って来てくれたので作ってみました」


 もし、マジックポーションを作って売るなら……商業ギルドで証明書を作って、MPが200も回復したなら金貨2枚以上の値段をつけないといけなくなる。でも、店に並べても売れないだろうな~。だって、庶民にはマジックポーションなんて必要ないからね。


 テオがまた魔力草を採って来てくれたら、錬金の腕を上げるために作るけど、売らずにバッグに入れておこうかな。


「アリスが作っている自家製ポーションだが、HPが100も回復する。ダンジョン産ポーションの倍だ。テオ殿の言う通り、アリスが作っていることは言わない方が良いだろう。マジックポーションのことも、ここにいる3名しか知らないからね」


「はい、エリオット様……」


 えっ、自家製ポーション……そんなに回復するんだ。常連さんは痛み止めとして買う人ばかりで、ダンジョン産のポーションより効果が良いって聞いていたけど、HPの回復量はテオの作ったのと同じくらいだと思っていた。


 店にある商業ギルドの証明書は、私がテオに預けられた後に、テオが作ったポーションの証明書だからね。


「ところでアリス、メニューを変えたのかい?」


「はい、エリオット様。寒くなったのでシチューを加えました」


「そうか。アリスは、薬屋を辞めても食堂が開けるね。フフ」


 えっ、薬屋をやめないですよ? あぁ、たとえ話か。


「副隊長、食堂を開くのもいいですが、アリスは効果の良いポーションを作れるのに、薬屋を辞めるのは勿体ないですよ」


「アルバート様、私も食堂が良いと思いますよ」


 ロペス様まで……みんな好きなことを言っている。今のままの薬屋で食べていけるから食堂はしないですよ。それに、


「あの~、私、12才になったら冒険者になるんです」


「「「なんだって!」」どうして冒険者なんかに……」


 どうしてって……あぁ、薬屋を辞めるんじゃなくて、自分で薬草を採りに行くには、12歳で冒険者になる必要があるんですと説明した。


「ファ~、賑やかだな……おっ、エリオット様、アルバート殿にロペス殿まで、皆さんお揃いで、いらっしゃい!」


 テオが起きて来て、ゴーレム討伐の話を聞きたいとエリオット様達と話し出した。


 もうお昼だけど、話は終わりそうにないな。テオはまだ何も食べていないし、エリオット様たちはいつもお昼を食べてくれるから、みんなに目玉焼きサンドパンとシチューを出した。

 

 これだけだとテオには足りない。エリオット様達も、いつもサンドパンを2個は食べてくれるから、おかわり用のサンドパンを大皿に並べて出しておく。


 食事が終わると、エリオット様が私をじっと見て話があると言い出した。何だろう……あらたまって言われるとチョットこわい。


「エリオット様、込み入った話か?」


 テオの声が少し低くなった。


「ああ、テオ殿、他人には聞かせたくない話だ」


「分かった。客が引くまで少し待ってくれ」


 店内には数人のお客さんがいる。テオは席を立って、店の扉に休憩中の札を出しに行った。



 最後のお客さんが帰ったので、テオの隣にイスを持って来て座ると、エリオット様が優しく微笑んでから話し出した。


「アリス、アリスは回復魔法が使えるだろう?」


「はい……」


「アリスの魔力が、作る薬に影響しているんだと思う」


 えっと……水に魔法を掛けているんです。


「副隊長、錬金術師の魔力が、作る薬に影響することがあるのですか? それとも、アリスが回復魔法を使えるから影響するのか……」


「アルバート様、ポーションで使う薬草がアリスの魔力に反応していると……有り得ますね」


 アルバート様、ロペス様まで……。水に魔法を掛けていることを言った方がいいのかな? でも、ポーションに使う水には聖魔法も掛けているから……聖魔法が使えることは秘密だから言ったらダメだよね。


「エリオット様、何が言いたい?」


 テオがイライラし出した。


「テオ殿、きっとアリスの魔力は多いのだろう。それが作用して良質の薬が作られるんだと思う。もし、アリスの能力を知られたら……テオ殿の言う通り、アリスを狙う者が出て来るかも知れない」


 魔力の多い子供がさらわれるって話はテオから聞いたことがあるけど、自分のステータスを知らないから魔力が多いかなんて分からない。


「だから、他言無用でとお願いしている……」


「テオ殿、他言はしない。だが、アリスは今のままより、学園に身を置く方が安全だと思う。魔術科は1年早く入ることが出来るからね」


「<リッヒ王国学園>か……」


 たしか……貴族が通う3年制の学園だよね。騎士科に、警備兵になりたい庶民が入れるクラスがあるって聞いたことがあるけど、魔術科にも庶民が入れるんだ。でも、貴族が通う学園には行きたくないな。


 エリオット様が言うには、<リッヒ王国学園>の魔術科には11歳になる年から入学できる年少科があるそうです。


「魔力の強い子供が魔法の制御の仕方を覚える為と、魔力の強い庶民の子供を保護する為にね。後は、魔法が使える騎士科志望の子供が、1年だけ魔法を学ぶために入るんだ」


「しかし、学園に入ると多くの貴族にアリスの存在を知られてしまう……」


「テオ殿、確かにその通りだが、アリスを……今は隠しておけるが、ポーションのことや回復魔法の使い手だということを知られる可能性はある。あの時……、ダンジョンで誰かに見られたかも知れないからね」


 エリオット様は、それなら早めに学園に入って監視の目を増やす方が安全だと言う。


「アリスは、回復魔法を使えるから学園に入れるが、他の貴族が手を出して来ないように推薦状を添える」


 腕を組んでジッと黙っていたテオが、ゆっくりと話し出した。


「……この際だから言っておくが、アリスは、多少だが4属性魔法も使えるぞ」


「「「なっ!」」何だって、テオ殿……」

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