第20話 見送りに
<大森林>から戻ると、店はテオに任せて、私は作業場でポーション作りに集中する。
1本作るのも10本作るのも、魔法を使うから掛かる時間はあまり変わらないの。ただ、最後の瓶詰だけが1本ずつ手作業で……ふう~、出来た。
バッグにある魔力草で、マジックポーションも作ろうかな。錬金術の本を確認しながら丁寧に、失敗しないように……。
「テオ~、ポーションは30本で良いかな? お店用にも残しておきたいの」
「アリス、昨日20本渡したんだろ? 追加で30本なら十分だぞ」
そっか、テオの言う通りね。
「それと、前にテオが採って来てくれた魔力草で、マジックポーションも2本作ったんだけど、MPの回復量が分からないの……どうしよう?」
だから、いくらで売るか悩む。相場は、MPと言われる魔力量を100回復して金貨2枚らしい。
「じゃぁ、そのことを伝えて魔力草代の金貨1枚だけもらえばいい。アリス、俺が採ってきた魔力草だろう? ああ、俺が作ったことにするんだな……」
うん。ポーションはテオが作っていることになっているから、マジックポーションもそうなるよね。
「アリス、そろそろバラすか? あの3人なら大丈夫だろう。アリスが回復魔法を使えることも知っているし、エリオット様は秘密を守ってくれているからな」
「うん、テオがそう思うなら良いよ」
隠しごとをしないほうが楽だしね。
◇
ガチャ、チリンチリン~
お店を閉める頃、アルバート様が来た。
「いらっしゃいませ~」
「アルバート殿、お待ちしてました」
テオは、店の扉に閉店の札を出してカギを閉めた。アルバート様との話の途中でお客さんが入って来たら困るからね。
「テオ殿、今回は無理を言って申し訳ない」
「いえ、協力出来て嬉しいですよ」
アルバート様をテーブルに案内して、自家製ポーション30本と淡い青紫色のマジックポーション2本を並べた。
「これは……」
「アルバート様、試作品としてマジックポーションも2本作ったんですけど、MPの回復量を調べてないんです」
回復量は商業ギルドに持って行けば調べてくれるけど、ギルドに1本渡して更に検査費用を取られるの。回復量が書かれた証明書をもらえるんだけど、2本しかないから勿体ないよね。
「おお! マジックポーションは、宮廷魔術団が買い占めて数が足りなかったから助かる。ん……試作品を作ったのはアリスなのか?」
そうですと頷き、アルバート様にMPの回復量が分からないので魔力草の代金だけもらうと伝え、それと……ポーションも私が作っていると打ち明けた。
「えっ、ポーションはアリスが作っていた……テオ殿ではなく?」
「ああ、前は俺が作っていたが、今はアリスが作っています。アリスがエリオット様に聞かれた時、子供の自分が作っていると知られると、面倒なことになると思ったから俺が作っていると言ったそうです。俺は、それが正解だと思ったんで、アリスが成人するまでそのままで良いかと考えてました」
マジックポーションもというのは面倒なんで、本当のことを話すことにしたと言うテオの言葉にアルバート様が目を見開いている。
「アルバート様、隠していてごめんなさい……」
「そうか……。いや、アリス、テオ殿の言う通り、私もそれが正解だと思うから気にしなくていい。しかし、アリスには驚かされてばかりだな……フフ」
アルバート様が微笑みながら私を見る。
「アルバート殿、エリオット様とロペス殿にも、次に会った時に俺から話します」
「テオ殿、2人には私から伝える。他言はしないから安心して欲しい」
「アルバート殿、そう言ってもらえると助かります」
アルバート様は明日の準備があるからと、手早くポーションを黒いバッグに入れて帰って行った。
テオに、アルバート様が持っていた黒いアイテムバックは初めて見たと言ったら、アイテムバッグは騎士団ではみんなに支給されているらしく、黒いカバーを付けているのは騎士団のだと分かるようにしているんじゃないかと教えてくれた。
そっか、私の……母さんのアイテムバックは、逆に普通のアイテムバッグと同じに見えるように白いバッグの中に入っているんだ。
◇◇
翌日の早朝、ゴーレムの討伐部隊が出発する。テオと一緒にエリオット様たちやレオおじいちゃんを見送りに大通りへ向かった。
西門へ続く大通りには見送りに来ている人でいっぱいだ。ガヤガヤしている中、騎士団の騎馬隊が見えて来た。うわ~、騎士団の白い装備が目を引く!
「テオ、あの白い装備カッコイイね~」
「アリス、あの白い鎧は騎士団の証だ」
「へぇ~、あれは
普段の白い騎士団の服も良いけど、白い鎧は初めて見た……カッコイイな。思わず手を振ってしまう。
テオが、先頭の馬に乗っている大柄な騎士様が、第一騎士団の隊長だと教えてくれた。その直ぐ横に副隊長のエリオット様、後ろにアルバート様が続く。ロペス様は……水色の髪が目立つのですぐに分かった。騎士団の後ろの方にいた。
そして、騎士団の後を、間を開けて宮廷魔術団の騎馬隊が進む。先頭はレオおじいちゃんだ! 怖そうな顔をしているけど、優しいんだよとみんなに言いたい! 黒いローブを着て真っ赤なマントを羽織っている。その赤いマントには金色でキレイな刺繍がしてあって、とっても目立っている。
他の魔術師はローブもマントも黒だ。マントには金色の刺繍がしてあるけど……全身黒はちょっと怖いな。
「テオ! 宮廷魔術団の先頭はレオおじいちゃんだよ」
「ああ、レオ様が宮廷魔術団のトップだからな」
トップって隊長……じゃなくて、魔術団だから団長? レオおじいちゃんは、宮廷魔術師で1番偉い人だったんだ!
「おお、アリス! 見送りに来てくれたのか!」
レオおじいちゃんが手を振る私を見つけて、嬉しそうに隊列を抜けて来た。
「この前の火の曜日は、アリスのお茶を飲みに行けなくて残念じゃ……そうじゃ、アリスもわしと一緒に行くか?」
えっ、ゴーレムの討伐に?
「レオ様、アリスに旅はまだ厳しいです」
テオが直ぐにお断りした。だよね。
「そうか……仕方ないのぉ」
「レオおじいちゃん、帰ってきたらお話を聞かせてくださいね」
「勿論じゃ! 帰ったら直ぐにアリスの茶を飲みに行くからの~」
レオおじいちゃんと話していると、一人の宮廷魔術師様が難しい顔をして、こっちに来た。
「マルティネス様、騎馬隊が進んでおります。お戻り下さい」
「五月蠅いわい! リアム、お前は……いつも、いつも邪魔をするな!」
あぁ、この人が、レオおじいちゃんが言っていた『うるさいヤツ』なのね。シルバーの長い髪で、青い目の人。ほっそりしていて、年齢はアルバート様ぐらいかな? 全身真っ黒でちょっとコワイ。
「アリス、すぐに片付けてくるからのぉ」
「レオおじいちゃん、行ってらっしゃい!」
手を振りながら、とびっきりの笑顔で見送った。
◇◇◇
朝晩、ストーブがいるほど寒くなって来た頃、『騎士団が、ゴーレムの討伐が終わって帰って来る』という話を市場で聞いた。
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