討伐部隊
第19話 討伐部隊
ダンジョンの閉鎖が解かれると、テオはまたダンジョンへ行くようになった。
でもね、テオはあの事故で私を泣かせたのがこたえたのか、週に3日くらいダンジョンに行くけど日帰りで帰って来る。ダンジョンに行かない日は店に出て、エリオット様とじゃれているの。ふふ。
店が休みの日は私とのんびり過ごしている。私は朝早く市場に行って、テオが起きて来たらお昼を食べに屋台に行ったり、一緒に魔道具を作ったりしているの。
そろそろ、冬の準備もしないといけない。雪はめったに降らないけど、寒くなるからストーブに使う
◇◇◇
休み明けの火の曜日、テオはダンジョンに向かった。今日は、珍しくエリオット様が来なくて、代わりにアルバート様が来られた。
「アリス、テオ殿に自家製ポーションを大量に注文したいのだが、お願い出来るだろうか」
「アルバート様、いらっしゃいませ。どれぐらいの数がいるんですか?」
アルバート様はいくらでも買い取ると言う。なんでもアルバート様の実家、<王都リッヒ>の北西にあるデイル伯爵領で、ゴーレムと言う魔物が大量発生したそうです。その討伐に、宮廷魔術師の部隊とエリオット様が副隊長をしている第一騎士団が向かうことになったとか……。
出発は2日後で、取引のある薬屋に声を掛けてポーションを買い取っているそうです。
「アリス、マジックポーションは置いているか?」
「置いてないです……」
あれは、作るのに魔力草がいるのよね~。魔力草はなかなか見つからないそうで、買うと高いの。魔力草1本で作れるから試しに作ったことはあるけど、テオが飲んじゃってMPがどれだけ回復するか調べてない。
前にテオがお土産にくれた魔力草が、少しだけバッグに入っている。薬草もポーション数本分ならあるけど……今から商業ギルドに薬草を買いに行っても在庫がないだろうな。作っただけ買い取ってくれるなら、他の薬屋が買い占めていると思うからね。
「アルバート様、テオは夜に戻ってくると思います。明日の朝から薬草を採りに行って、昼からポーションを作ってもらいますね」
私もテオと一緒に薬草を採りに行こう。数がいるなら、2人で行く方がたくさん採れるからね。
「ああ、よろしく頼む。アリス、今あるポーションを出来るだけ多く売って欲しいのだが良いかな?」
「はい。今、在庫は……20本あります」
店に並べているポーションと、バッグに入っているのを合わせて20本、アルバート様に渡した。アルバート様はどんどん黒いバッグに詰め込んで行く……あっ、黒いから気付かなかったけど、これもアイテムバッグなのね。
「明日、店が閉まる前に来るから、テオ殿によろしく伝えてくれ」
アルバート様はそう言って店を出て行った。
予備のポーションが無くなった……作らないと。作業場でバッグにある残りの薬草を出して、ポーション作りの準備をしながら、薬とお茶コーナーのお客さんの相手をする……時間が経つのが早いなぁ~、あっという間に店を閉める時間だ。
あれ? 火の曜日なのにレオおじいちゃんが来なかった。あぁ、レオおじいちゃんは宮廷魔術師だから、討伐の準備で忙しいのかもね。
夕方、テオが帰って来たので、アルバート様の話を伝えた。
「テオ、騎士団の方にはお世話になっているから、私も手伝いたい。私も一緒に薬草を採りに行く」
「分かった。アリス、一緒に行こう。しかし、ゴーレムの討伐かぁ~。大変そうだな……」
テオが言うには、ゴーレムは岩みたいな魔物で、剣などの物理攻撃はほとんど効かないから、魔法が無ければ逃げろと言われている魔物だそう。それで、宮廷魔術師の部隊も一緒に行くのね。
「テオ、アルバート様は、マジックポーションも欲しそうにしていたよ」
「魔力草は、なかなか見つからないからな~」
冒険者ギルドで、魔力草は金貨1枚で買い取ってくれるの。1枚がよ! それを商業ギルドで買うと、金貨1枚と銀貨1枚もするのよね~。その高価な魔力草も、もう商業ギルドにはないんだろうな。明日、見つかればいいけど。
「レオおじいちゃんも行くのかな?」
「ああ、レオ様も行くだろうな」
レオおじいちゃん、無理をしないといいけど……。
◇◇
翌日、朝早く起きて、お店の扉に『臨時休業』の張り紙をした。店の外に出ると空気が冷たい……もうすぐ冬だね。
「アリス、そろそろ門が開くから行くぞ」
「はい!」
ここ<王都リッヒ>には、東西南北に門があるの。北門を出て北に行くとダンジョンがある森があって、その向こうには大きな山がいくつもそびえ立っているそうです。西門を出ると見渡す限りの草原で、東門を出ると<大森林>へと続く道があるんだって。
南門から出ても広い草原があるらしいけど、街の南側は貴族街と呼ばれ――王族が住むお城と貴族の屋敷が並んでいる――王族と貴族しか南門を使えないそうです。エリオット様のお屋敷もこの貴族街にあるの。
「うわ~~! テオ、外は広いのね~」
「ああ、世界は広いんだぞ!」
街の外に出たのは2回目。1回目は……テオを探しに北のダンジョンへ向かった時。テオのことで頭がいっぱいで、外の様子なんて覚えてないけど、今はすごくワクワクしている。ふふ。
「アリス、<大森林>に行くぞ」
「はい!」
ここから<大森林>まで、歩いて2時間ほど。テオが言うには、そこまで行かなくても道端に生えていたりするけど、<大森林>で採れる薬草の方が、質が良くてたくさん生えているんだって。
途中で見つけた薬草を採りながら森に着くと、うわ~、あちこちに青々とした薬草が生えている。
「アリス、俺から離れるな。奥の<魔の森>には近付くなよ」
「了解~!」
<大森林>の奥に行くと、石の柱がいくつもあって、そこから奥は<魔の森>と呼ばれているそうです。強い魔物がいる森で、ベテランの冒険者でも危ないんだって。
昼までには戻りたいから黙々と薬草を採る……ん? 草の合間に何かが見えた。
「テオ! この黄緑のブヨブヨしたのは……魔物の本の1ページ目に書いてある……」
「ああ、そいつはスライムだ。アリス、試しに倒してみろ」
テオにスライムの倒し方を教えてもらい、持っている短剣でスライムの真ん中にある核みたいなのを狙う……透けて見えているんだけど、なかなか当たらない。触手みたいなのが伸びて来るのを避けながらテオに聞いた。
「テオ~、これ魔法で倒す方が良いんじゃないの?」
「アリスの魔法だったら一発で倒せるが、短剣のスキルを上げたいだろう?」
そうか! スキル上げなのね。
「うん、上げたい!」
結果、スライムを倒すのにかなり時間が掛かってしまった。テオが、魔物を倒した後は魔石があるか調べるんだと教えてくれる。魔石は、弱い魔物だと10体倒して1~2個の確率で取れるんだって。スライムの魔石は安いけど、冒険者ギルドで買い取ってくれるそうです。
スライム以外の魔物が出てきたら、テオが倒してくれた。ウサギを倒した時、テオは解体してモモ肉だけをバッグに入れている。ふふ、それ美味しいのよね。
「アリス、そろそろ戻るぞ」
「は~い」
薬草はたくさん採れたけど、魔力草は見つからなかったな。こんなに見つけられないのなら、魔力草の買取り価格が高いのも分かるな。
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