第15話 テオが帰って来ない

 座って待っていると、緊張した顔のロペス様が駆け込んで来た。


「エリオット副隊長、戻りました!」


「ああ、ロペス、何か情報を掴めたか?」


「はい。冒険者ギルドに確認した所、昨日、街の北にあるダンジョン内で崩落事故が起きたそうです」


「何!」


 崩落って……壁がくずれたってこと?


「ギルド職員の話では、複数の魔物に追われた冒険者パーティーと、それを助けようとした冒険者達が入り乱れての戦闘になり、その戦闘中に……床が」


「床が崩落したのか……」


 えっ、床……


「はい。ギルドでは、ダンジョンの壁や床に負荷が掛かったのではないかと話していました。今、職員がどの程度の事故なのか、情報を集めに現地に行っているそうです」


「……副隊長、その場にいた冒険者だけではなく、下の階にいた者達も巻き込まれた可能性がありますね」


「あぁ、そうだな……」


 アルバート様の言葉にエリオット様が頷く。テオがその場所に……いたの? 


「エリオット様、ダンジョンへ行きたいです! 早くテオの所へ行かないと……」


「ああ。アリス、すぐに向かおう。アルバート、ロペス、付いて来い」


「「ハッ!」」



 抱きかかえられる様にエリオット様の馬に乗せてもらい、北門を抜けダンジョンへ向かった……門から出られた。


「アリス、馬から落ちないように、鞍にしっかりつかまるんだ。大丈夫、テオ殿は腕利きの冒険者だ。きっと、帰る道が崩れた瓦礫でふさがれているんだよ」


「エリオット様……」


 そうだといいな……テオ、無事でいて。


 ◇

 北の門を出て、そのまま北へ向かって走って行く。真っ直ぐに……馬の足音だけが聞こえる。どれぐらい走っただろう……目の前に森が見えて来た。


「アリス、あの森の奥にダンジョンがある。もう直ぐだよ」

「はい……」


 森に入って、しばらく走ると開けた場所に出た。


「アリス、あの洞窟がダンジョンだ」

「あれがダンジョン……」


 奥に……切り立った大きな岩山に丸い穴が見えた。その入口近くに多くの人がいる。ギルドの職員さんらしい人や、ケガをしているのか座り込んだ冒険者の人達。見回したけど、テオは……いない。


「テオ殿はいるか? 誰か、テオ殿を見た者はいないか?」


 馬から降りると、エリオット様とアルバート様がみんなに聞いて回っている。私はロペス様のそばで、テオを見逃していないか、もう一度探す。


「アリス、テオ殿は魔物との戦闘の場にはいなかったようだ。下層で巻き込まれたか、道が塞がれているのかも知れない。今から崩落現場に行くが、ダンジョンの中は危ないからアリスはここで待っていて欲しい」


「エリオット様、もしもテオが……持っているポーションでは足りない程のケガをしていたら……早く、テオの所に行かないと! エリオット様、一緒に連れて行ってください。お願いです……ダメなら一人で……」


 手が震えてきた……早く、テオの所に行かないと!


「アリス、一人で行かせられないよ。分かった、私の後ろを付いておいで。ロペスはアリスを護衛してくれ。アルバート、行くぞ!」

「「ハッ!」」


 エリオット様とアルバート様が、ギルド職員に崩落した場所をダンジョンの地図を見ながら話しているのが聞こえた。


 ――崩落現場は14階の中央付近、かなり大きな崩落だったようで15階にいた冒険者も巻き込まれた可能性があります。聞き取りが終わったら、負傷者が残っていないか確認に向かいます――


 ギルド職員との話が終わると、エリオット様はこっちを見て「アリス、行くよ」と言って、アルバート様とダンジョンへ入って行った。


「アリス、副隊長の後を注意して進むからね」

「はい。ロペス様……よろしくお願いします」


 エリオット様とアルバート様が魔物を倒しながら進み、ロペス様と私が後からついて行く。私は、遅れないように自分に強化魔法をかける。


「アリス、大丈夫かい? 事故現場はかなり先だから、疲れたら遠慮なく言ってね」


 ロペス様が優しく声をかけてくれる。


「大丈夫です。ロペス様、ありがとうございます」


 どんどん下の階へと進む――ウサギの魔物やゴブリンと言われる緑色の肌をした人型の魔物を倒して――しばらくすると、前を歩いていたエリオット様が振り向いた。


「アリス、このクリスタルを触って。帰り用のワープを通しておこう」


「ワープ? はい……」


 大きな白っぽいクリスタルを両手でふれると、何かが流れて来た。これがワープ・クリスタル……そう言えば、ここのダンジョンは10階毎にワープが出来るって、テオが言ってた……。


 あっ、エリオット様たちはワープで10階まで移動できたのね。私がついて行くと言ったから、ワープが出来ずに1階から……ごめんなさい。足手まといにならないように、もう一度、自分に強化魔法を掛けた。


「アリス、大丈夫かい? 疲れたら、直ぐにロペスに言うように」


「アリス、疲れたら遠慮しないでロペスに背負って貰うといい」


 エリオット様とアルバート様が気遣ってくれる。


「はい、ありがとうございます。まだ大丈夫です」


「……アリス、背負わせて欲しいんだけど良いかな?」


 隣にいるロペス様が私に目線を合わせるようにかがんで、小さな声で話し掛けて来た。


「(アリスを背負わないと、後で2人に怒られるからお願いだよ)」

「え! ロペス様、お願いします」


 そっか、子供だから歩くのが大変そうに見えたのかな。強化魔法をかけているから疲れないんだけど……。


 ロペス様に背負ってもらって、エリオット様たちについて行く。14階まで降りて、床がくずれた場所が情報と同じか確認するそう。


 しばらく進むと、大きな穴が見えた……馬車が5~6台並ぶ大きさだ。ここの床が落ちたの? テオがこの下に……心臓がバクバクしてきた。




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