第4話 ―真相―

―エルジオン シータ区画 <セバスちゃんの部屋>―

ベッドやイスは反磁性で浮き、果樹の模型や観葉植物があちこちに置いてあるのは この時代の人間ならではのインテリアだろう。

彼女手作りの合成兵士のレプリカや、研究データと思われる図や文が辺りにある数枚のパネルに映し出されている。

ピンク髪のツインテールにエンジニアジャケットを羽織っているこの少女は正に、稀代の天才である。



「あら、エイミ達じゃない そんな子供まで連れて、今度はどんな面白いものを持ってきてくれたの?

つまらなかったら承知しないからね。」


「セバスちゃんもそんなに変わらないだろ……。」


「このペットロイド、プログラムに不具合があるみたいなの。

ちょっと見てくれない?」


「あら、今流行りのペットロイドじゃない!

不具合って、どんな?」


「ゼノ・ドメインが暴走して停止しちゃうみたいなんだけど。」


「な、な、な……何よそれーーー!!!

すっっっっっごく面白そうじゃない!!!

そういうのは早く持ってきてよね!!!」


「釘を刺しておくけど、試したらアンタをEGPDに突き出すからね!」


「ちぇっ、エイミったら石頭なんだから……。

ところで、分解は――」


「ダーーーーーーーーメッッッッッ!!!」


腰に手を当て、きっぱりと言い張るエイミ。


「――はぁ、分かったわよ それじゃちょっと待っててちょうだい

解析してくるわ。

くつろいでて良いわよー!」


セバスちゃんは自身の研究室へ向かう。


「わたしのママはどうなっちゃうの?」


「大丈夫よ、もう悪い合成人間どもに狙われないようにするの。」


「ホント?」


「ええ、本当よ。」


「ありがとう!」


「だけど、アイツ逃げたけど マーマレードに関係なく襲ってこないかな?」


「うむ、根に持ちそうな性格でござったな。」


「大丈夫じゃないかしら、さっきEGPDだけじゃなく、政府直属の捜査機関COAにも言っておいたから。

今頃捕まってるわよ。」


「そうだと良いけど……。」




―工業都市廃墟 <某所>―


「お前か、部下にEGPDに成りすまさせ、挙句の果てにエルジオンに攻め入ろうとした奴は。」


「おまえは……COAか!

ック、こんなパワーアップじゃ意味がない!もっと、もっとだ!」


妖しいオーラに包まれる合成兵士。


「無駄なあがきはよせ。」


「グォオオオオ!!!!!

……クックックック、これで終わりだぁ!!!!!」


――――――

交差する二人、合成兵士は無言で倒れ、消えてしまう。

ズレた手袋を直し、本部へと報告する、白いジャケットを身につけた澄ました金髪の男の周りに白と黒の飛行型ドローンが舞う。


「―――…これで、完了 っと。

急にこんな仕事が俺に回ってくるとはな……。」


『司政官からの命令だから何事かと思ったけど

楽々チンだったねー!』


『ポンコツ静粛に願います。

まだ敵が潜んでいるかもしれません。』


『ががーん!』


「まあ、たまたまこの近くにいたからだろう……。今日はもう一件ある、残りの敵はEGPDに任せよう。

クロック、レトロ 行くぞ。」


『はぁーい、今日は忙しいなぁ。』


『今のところアナタは何もやっていませんが。』


『それはレトロも一緒でしょー!』


「気を引き締めてかかれ。次は大物だぞ。」


スタスタと涼しい顔で去る男に続く、おどけた様子の白と生真面目な黒のドローン。

遠巻きに見ていたEGPD隊員達は舌を巻いていた。


「あ、アレが噂のCOAのエージェントか……。」


「あんな澄ました顔で合成人間をやっつけちまったな。」


「周りを飛んでる奴は一体なんなんだ?えらい人間らしい雰囲気だったが……。」


「どんなに強ければCOAに入れるんだ?」


「まさかお前、COAに憧れてんのか?

やめとけやめとけ、おまえじゃ殉死も良いところだ。」


「何だと!?今に見てろよ~!」


「ハッハッハ、ほら くだらない事言ってないで、さっさと仕事をするぞ。」





―エルジオン シータ区画 <セバスちゃんの部屋>―


「それにしても、どうしてマーマレードの欠陥を知ったんだろう?」


「そうね、そもそもシリアルナンバーでさえ知ることは難しいのに……。

まあ、いいわ これ以上のことはわたしたちの専門外だし

今はマーマレードちゃんの無事を祈りましょ。」


「無事って……釘を刺したんだからセバスちゃんも流石に変なことはしないと思うけど。」


「どうかしらね、あのセバスちゃんよ……。

もしかしたらマーマレードちゃんが合成人間みたいな見た目になって帰って来るかもしれないわ。」


「えーーーーー!ぜったいにいやよ!!!」



作業を終えたセバスちゃんとマーマレードがやって来る。


「さってっと、解析完了~!!!

……アンタ達、失礼なこと考えてなかった?」


マーマレードはそのままの姿で帰ってきている。


「え!?そ、そんなことないわよ!

ね、サイラス!」


「そうでござる!」


「ああ、まさかマーマレードちゃんが無事に――もごごもごもご!」


「(こ、このバカアルド!黙ってなさい!)」


急いでアルドの口を塞ぐエイミとサイラス。


「ふ~ん、まっいいけど!

それより!解析したけど、ぜーんぜん危険なものじゃなかったわよ!!!」


「え!?どういう事よ!」


「いい?まずは、この子のシリアルナンバーは777-Lucky型。」


「すごい運が良くなりそうな番号だな……。」


「この子に裏コードを入力する って言うよりも、飼い主設定であるそこの少女がこのペットロイドを再起動すると ゼノ・ドメインが暴走を起こすような誤作動を起こすの……。」


「そ、それで?暴走してどうなるのよ?」


「なんとね……!」


固唾を呑んでセバスちゃんの次の言葉を待つ4人。



「すべてのペットロイドが再起動しちゃうってだけよ!!!」


少女を含めた4人が驚愕する。



「なっ!そんな事だったの!?」


「はあ、まあこれはこれで面白かったわ。こんな事もあるもんなのねー。

安心して、プログラムは直してあるから。」


「そ、そう……ありがとねセバスちゃん。」


「それにしても、ゼノ・ドメインが暴走……ってどこ情報よそれ?」


「ああ、この猫をさらった合成人間が言ってたんだ。」


「ペットロイドを狙う合成人間!?

あんたらまた随分とおもしろ可笑しい旅でもしてんのね。」


「まったくよ!

ソイツが言うにはゼノ・ドメインが暴走して停止するって言ってたけど……アレ何だったのかしらね。

とにかく人騒がせなヤツ!」


「きっと変なところを聞きかじって勘違いしたのね……。

ところで、サンプルは?」


「「サンプル?」」


「さんぷる?」


首をひねるアルドとエイミ。

と、サイラス。


「サンプルって何よ?」


「もっちろん、合成人間のパーツとかあるんでしょー!?

早く出しなさいよー!!」


「そんなのあるわけないでしょ!?

それに逃げられちゃったし!」


「ちぇ、なーによ!

次はもっと刺激的なの持ってきてよね~!」


「はいはい。」


適当にあしらうエイミ。

セバスちゃんの部屋から出て行くアルド一行。

エルジオン シータ区画の路上で話し合う4人。



「はあ、何だかドッと疲れが増したわ。」


「まさか、そんなに大した事じゃなかったなんてな。」


「まあまあ、この子の大事な家族を取り戻せたでござるし。」


「うん、みんなありがとう!

あっ、父上、母上!」


この少女の両親と思しき貴族然とした見た目の二人組が歩いてくる。


「アレ?マーマレードちゃんが見つかったのかい?」


「うん、この人たちのおかげなの!」


「あらあら、それは感謝を申し上げなくてはね

この子がご迷惑を……。」


「いえいえ!良いのよ、そんな手間でもなかったし!」


「エイミを怒らせたときはどうなる事かと……うっ!?」


「余計なことを言わないの。」


「ふふ、ありがとう。

それにしても、マーマレードちゃんが見つかっちゃった ってことは

この子はどうしましょうか。」


「にゃあ」


そう言う母親の影から一匹の猫……型アンドロイドが現れ、一同は目を疑う。

マーマレードとは違い、少し色味の濃い橙色に深緑色の脚が特徴的だ。


「ハッハッハ、良いじゃないか 新しい家族として迎えよう。

名前はどうしようか……。」


「そうねぇ……。」


「パンプキン!パンプキンにしましょ!」


「なんか嫌な予感がするぞ……。」


何かを感じ取ったアルド。



「パンプキン、良い響きね パンプキンちゃん!」


「にゃあ」


「パンプキンのパパね!」


「うっ!もう少し変わったあだ名にすれば良いのに……頭がおかしくなりそうだ。」


「拙者もでござる……。」


「わたしもよ……。」



「それでは、皆さん この度はありがとうございました。」


父親が最後の挨拶をし、歩いて行く親子。


「お姉さま、ありがとー!

それに二人もカッコよかったよー!」


「ハハ、元気でなー!」


「もう、お姉さまって 調子狂うわね」


「ぶええっくし!

……ズビ なんだか寒くないか?」


「まさかアルド、風邪でもひいたでござるか?

まあ、あんな雨の中じゃ無理もないでござる。」


「へぇ、アルドって風邪ひくの?」


「どういう意味だ。」


雲の上に浮かぶ未来都市 エルジオンの平和(?)を守ったアルド一行

次の旅へと足を向けるのだった。




―工業都市廃墟 <某所>―

暗がりの中で紅い目を怪しく光らせながら会話する合成兵士たち。


「どうやら、アイツがやられたようだな……。」


「フ、我ら四天王の中でも最弱……。

人間ごときに後れを取るとは、我らの面汚しめ。」


「奴は エルジオンに住んでいる、とある親子の猫型アンドロイドのプログラムに欠陥があることを知りそれを利用したらしいな……。

見たところ、そのプログラムを起動すると ゼノ・ドメインが暴走するという話だったが。」


「眉唾物だな……。」


「しかし、今度は違う猫型アンドロイドが発見されたと 我らの同志から報告が入っている。

どうやらそれを利用すれば、エルジオンのあらゆる機能が停止するみたいだが。」


「フ、今度はこの私が出向こう……。

今度こそ、人間どもに我々の恐ろしさを思い知らせてやるのだ!」


「そうか、確か……と言ったかな?

そいつを探せば良いらしい」


紅い光が一つ消える。



「ところで、いつから俺たちは四天王になったんだ?」


「……アイツの好きにさせておけ」


「ぐはあああ!?」


「早い帰りだな……どうした――――」


「――COAだ、投降してもらおう。」


「な、何故ここがっ!?

ぐわあああ!!!!」


『いつもは違うお仕事だけど、こういうのもたまには良いね!』


『ポンコツ静粛に願います。

制圧しますよ。』


『合点承知のスケ!』



「フン、人間一人で……。

!?

ぐわあああぁあああ!!!!!!!」


「なんだこの強さは!?

ぐわああああああああああああああああ!!!!!!!」


――Fin.




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ママを取り戻して! ロック @Rock_AE

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