第3話 ―マーマレード―

―工業都市廃墟 <エリアA>―

廃道ルート99を抜けた先にある、今はもう合成人間たちのアジト。

端末や筐体が並んでいるが、画面にはひび割れや同じ画面を映したまま動かないものばかり。

あちこちにある観葉植物もそのまま捨て置かれている。


辺りを警戒しつつも歩く3人。



「おっと、そこで止まってもらおうか。」


「むむ!」


合成兵士が歩いてくる。


「約束を守ってもらえて 嬉しい限りだよ。」


「今度ばかりは ほろぐらむ ではなさそうでござるな!」


「その様子だと、やっぱりどこかで見てたようだな!

この子に何をするつもりだ!!」


「まあまあ、そう怒らないでくれ。

危害を加える気なんてないんだから。」


「何が目的だ!」


「ママは!?わたしのママはどこなの!?」


「お探しのものは、コイツの事かな?」


「にゃあ」


そう言う合成兵士の影から、オレンジの様に明るい蜜柑色の猫型アンドロイドが表れる。


「ママーーーーーーーーー!!!」


「ま、ママぁ!?」


「まま とはあの猫のからくりの事でござったか……。

むむ? つまりこの女子は このからくりに育てられたという事でござるか?」


「ちがうわよ!わたしのペットロイドのマーマレードちゃん!

一緒にエルジオンを散歩してて、目をはなしたすきに いなくなってたの!

急にいなくなるなんてありえないんだから!!!」


「だから さらわれた って言ってたのか……。」


「父上に相談したら、新しいのを買えって……。

母上だって、わざわざカタログまで持ってきて!!

ママも家族なのに!替えなんてきかないんだから!」


「な、なんだか頭がおかしくなってきたぞ。」


「ククク、さあ!こっちへ来るんだ!

こっちへ来て、このボタンを押すのだ!!!」


「そんなこと させないぞ!!!」


「おいおい、何故お前たちに連れてこさせたか まだ分かっていないようだな。」


「なんだと?」


「まさか、本当にただこの少女を連れてきてもらうだけだとでも?

何度も言っているが、俺は用心深いんだよ……クク。

計画を知ってしまったお前らには、ここで消えてもらう!!」


周りから無数のサーチビット、斧を持った合成兵士が表れる。



「な、なんだこいつら!?今までどこに!!」


「アルド!やるしかなさそうでござるぞ!!」


抜刀したサイラスに続き、アルドも腰に佩いた大剣とは違う剣を抜く。

次々に迫り来るサーチビットや合成兵士を退ける二人。



「おいおい、くれぐれもその少女に傷をつけてくれるなよ!」


「っく!おまえがやらせてるんだろ!!」


「流石に、この数は厳しいでござるな……!」


「一体、どこから湧いてくるんだ!?

キリがないぞ!」



既に目と鼻の先のところまで合成兵士がきている。

しかし、アルドとサイラスは周りの敵で手一杯となっていた。


「さあ!こっちへ来るんだ!」


「あ、う……。」


「っく、この隙に連れ去ろうなど、やはり卑怯な奴でござるな!」


「だから、用心深い と言ってくれよ……。」


「行っちゃダメだ!!!」


「ママがどうなっても良いのかな?ククククク。」


「っく、コイツ!!!」


「さあ、こちらへ……さあ!!!」


「う、ううぅう……。」


合成兵士が震える少女へと手を伸ばしている、その時――

一陣の風が吹き荒れた。

辺りにいた、サーチビットや合成兵士たちは爆発四散していく。



「せいっ!!!!!」


「ぐっっ!?

ぐはぁあああああああああああああああ!!!!」


拳による強烈な殴打の後、直ぐに吹っ飛ばされる黒幕の合成兵士。


「「エイミ!!」」


「ふぅ、ったく何してんのよ 二人して。」


「来てくれたんだな!」


「ハッハッハ、拙者は信じていたでござるよ!」


「調子良いんだから。」


「ところで、どうしてここが?」


「全部アイツに聞いたわよ。」


そう言いながら、後方を指さすエイミ。

その先には、倒れたEGPD隊員がいた。


「え、ええ!?」


「なんと大胆な……!しかし、こんな事をしでかして良いのでござるか?

拙者ら、追われる身とならんでござるか?」


「平気よ、ソイツ 偽物だから。」


煙に包まれ、みるみるうちに人の姿から合成兵士へと変える。


「なんと面妖な!」


「そもそもEGPDが動かないなんておかしいと思ったのよ。

そしたら廃道ルート99に向かうサイラスを尾けてる怪しい影を見つけたわけ。

手足の運動も兼ねて話を聞いてみたら、洗いざらい吐いてくれたわ。」


「き……気をつけてください、ボス。

この女 かなりやり手です……パタッ。」


「手足の運動……お主もアレを喰らった同士でござるな……。」


サイラスは勝手に敵に同情し、黙祷する。

砂ぼこりが晴れ、激高した合成兵士が叫ぶ。


「グ……良いのか!?

こっちには人質がいるんだぞ……!」


「もしかして人質って、この子の事かしら?」


エイミの影からマーマレードが表れる。


「にゃあ」


「ママぁ!!!」


急いで駆け寄る少女。


「人質って言うより、猫質ねこじちね。

今度はさらわれないようにしっかり見ておくのよ。」


「あ、ありがとう……!!」


「い、いつの間に!?

っく、おのれぇえ!!!」


「この子のペットロイドのマーマレードちゃんは、とても特殊なシリアルナンバーでプログラムが異常な動作を起こすみたいね。

それを知ったあなたは自分の部下を送り込ませて、EGPDに成りすませ さらう機会をうかがっていた。」


「そっか、EGPDなら見られたりけられたりしても怪しまれないもんな。」


「ええ

本当は、このペットロイドを盗んで そのプログラムを起動するだけだったけど……。

裏コードが無いと起動できない仕組みだった

それを入力すると、ゼノ・ドメインが暴走して、停止。

その間にエルジオンを攻めるっていう計画だったみたいだけど?」


「なるほど……本当に全部吐いたというわけだな。

そこの少女がエルジオンから離れたと報せが入り、隙を衝いてさらうしかない……

と思ったが、そこの人間とカエルが中々離れてくれないものでね。

更に、裏コードがその少女自身だった というわけだ。

しかし、どうしてEGPDに紛れていたソイツが、俺の仲間だと?」


「簡単な話よ ある少女のが連れ去られちゃったみたいなんだけど って聞いたら

そんな猫型アンドロイド知らないな って自白してくれたわ。

用意周到に計画し EGPDに紛れ込み、こんな小さな子を巻き込んで

あまつさえ危険にさらすなんて……。

アンタみたいな卑劣なヤツ、この拳で打ち砕いてやる!!!」


「……クックククク!なるほど、それは想定外だったな

だがEGPDは連れてきていないようだな、感謝するよ。

俺は臆病でもあるんでね、あまり大事にはしたくない。

そして、これはまだ知らないだろう!!!」


懐から紫色に光る謎の端末を取り出す合成兵士。

それを自身へ取り付けると、たちまち妖しいオーラに包まれる。


「ククククク、グワッハハハハハ!!!!!

EGPDを呼んでいないのが不幸中の幸い!

ここでお前たち3人を潰してしまえば良いだけの事!」


「い、いったい何が起きているんだ!?」


「最終手段だ!これはあまり使いたくなかったんだがな……。

まあいい!俺の力は今 数倍にも跳ね上がっている、覚悟するんだな愚かな人間ども!!!」


斧を振り、臨戦態勢を取る合成兵士。


「危ないから、少し下がっててくれ。」


「う、うん……。」


アルドに促され、少女はマーマレードと共に物陰に隠れる。


「どこまでも 用意周到な奴ね……。

アンタ達、準備運動はもう済んだでしょ。

フルスロットルで行くわよ!!!」


グローブを付けたエイミも戦闘態勢を取り、アルドとサイラスも続いて構える。


「先ほどは ほろぐらむ とやらに一本取られたでござるからな……。

今度こそ、刀の錆となるでござる!!!」


「さあ、反撃開始だ!!」




「円空自在流・蒼破!」


素早く斬り付けた後に地面から上へと滝のような水が打ち付けてくる

サイラスブレイブストームの斬撃。


「チャージスタンス!」


エイミはその場でグッと力を溜める。


「ウェポンテンペスト!」


合成兵士の斧から突風が吹き荒れ、3人は傷を負う。


「竜神斬!」


上から下へと力強く叩き斬る、アルドドラゴンベアラーの技。


「ブラストヘヴン!」


爆風を纏わせた拳を敵へ叩き付け、殴り飛ばすエイミゴッドハンドの強烈な一撃。

よろめきながらも、力強く斬り付けようとする合成兵士。


「無為・涅槃斬り!」


目にもとまらぬ速さで横薙ぎ、袈裟懸け、逆袈裟に斬り、三角形の斬撃を残すサイラスの刀。

エイミの前に入った事で、サイラスは合成兵士の斧を喰らう。


「ぐおぉ!!!」


「竜神斬!」


「トリプルダウン!」


ワンツーパンチを繰り出し、バク宙しながら下から上へと蹴り上げるエイミの打撃。

合成兵士は斧の強烈な一振りをエイミに当てる。

ガードをするも傷を負うエイミ。


「無為・涅槃斬り!」


「竜神斬!」


攻撃を受けつつも力任せに斧を振り下ろす合成兵士――





――の、動きが止まる。

時空を斬り裂き割り込むアルドの腰に佩いた大剣オーガベインの能力。


「エックス斬り・改!」


袈裟懸けに斬り、逆袈裟に斬り付ける熱を帯びたアルドの剣。


「無為・涅槃斬り!」


「トリプルダウン!」



「エックス斬り・改!」


「無為・涅槃斬り!」


「トリプルダウン!」



「エックス斬り・改!」


「無為・涅槃斬り!」


「トリプルダウン!」

……


3人はそれぞれ連撃を繰り出していく、斬り裂かれた時空が一つに繋がるまで。



時空が一つに繋がった瞬間、合成兵士はたちまち膝をつく。


「グッ……何という強さだ……!

この拡張パーツを使っても尚、勝てないというのか!?」


「もう終わりだ、観念しろ!」


「まーまれーどちゃん をさらった罪、そしてこの女子を危険にさらした罪は償ってもらうでござる!」


「しっかりと計画を立てたというのに……一体どこでしくじったというのだ!」


「さて、どこでしょうね。」


「こっ、このままでは終われない!

お前たち、覚えておけ!!!」


煙のように消える合成兵士。


「あ!待て!!

っく、逃げられた……まだあんな力が残されてたなんて。」


「まあ、良いではないか、無事 まーまれーどちゃん を取り戻せた事だし

万事解決でござる!」


「そうね エルジオンに戻りましょうか。」


物陰から少女とマーマレードが出てくる


「あ、そう言えば!

ほら、ちゃんとエイミも来てくれたじゃないか。

何か言う事があるんじゃないのか?」


「オバサンだなんて言って、ごめんなさい。」


「いいわよ、もう気にしてないわ。」


「お姉さま……。」


「え?」


「ん?」


「む?」


「お姉さまと そう呼ばせてください!」


「え、ええ!?どうしたのよ急に……。」


「さっそうと現れて ものすごいパンチで敵をふっ飛ばす……。

とってもかっこよかったです!お姉さま!!!」


エイミの周りをはしゃいで回る少女。

しばらくゆかいな時間が流れる。


「ちょ、ちょっと!やめてよ、恥ずかしい……。

アルド達も、何とかしなさいよ。」


「とか言って、まんざらでもなさそうじゃないか。」


「うむ お似合いでござる。」


「このこぶしで うちくだいてやる!

しゅ!しゅ!!」


「や、やめなさい!もー!」


「ふるすろっとるで 行くわよーーー!!!」


「もーーー!恥ずかしいからやめてーーー!!!」


「ハハハ すっかり気に入られちゃったな!」


「わたし、お姉さまに弟子入りしたい!

わたしもお姉さまみたいなとっても強くてカッコイイ ハンターになる!」


「もう!持ち上げ過ぎよ!!!

それに私、弟子は取らないの。」


「か、カッコイイ~~!!!

そんなところにも シビれる~!!!」


「んもう、調子狂うわね!」


「良いじゃないか慕ってくれてるんだし。」


「そうでござる、それに少しくらい指南しても良いのではござらんか?

エイミのパンチは山の怪ゴリラを彷彿とさせる強烈な一撃でござったな。

戦士を育てるのも、年長者たる者の使命でござるよ。」


「サイラス……。」


思わず顔が引きつるアルド。

エイミは怒りの炎に包まれている。


「む!?え、エイミ!?」


「アンタねぇ……。


もう許さないんだから!!!!!」


「あ、アレ!?ちょ、ちょっと落ち着くでござ……

ぬあああああ!!!!」


「待ちなさーい!!!!!」


「まちなさーーい!!!」


アルドはサイラスの安らかな眠りを祈り

エイミは逃げるサイラスを追いかけ、少女はエイミの真似をする。

敵のアジトにいる事をしばし忘れるのであった。



―そして工業都市廃墟が揺れ、ホコリが舞う。




「ふぅ、ったく!

サイラスは無神経ね!」


「むしんけーね!」


「真似をしないの!もう!!!」


「えへへ、ごめんなさーい!」


「さて、あとはこのペットロイドの事が気になるから エルジオンに戻ってセバスちゃんに見てもらいましょ。」


「ああ、そうだな。」


「拙者も、このコブを引っ込めたいでござる。」


「それは自業自得だと思うけど……。」


アルド一行は、エルジオンへの帰路につく。

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