第2話 ―雨天決行―
―廃道ルート99―
その名の通り、今はもう使われていない道路。
街灯や電光掲示板は光を失い、道路にはそこら中にひび割れや窪みが出来ている。
下には広大な土地に廃れた建造物が連なり見える。
――ざあざあと降り頻る雨
廃道を歩いた先、濃いこげ茶に所々黒色のぶちが特徴的なオス猫のコタロウが呑気に散歩している。
そこに、目を皿のようにして探す少女がいた。
「一人でこんなところにいたら 危ないじゃないか。」
「……ママを早く助けないと。」
「俺が行くよ。」
「え?」
「早く助けないと なんだろ?」
「わ、わたしの事、うたがわないの?」
「当然だろ!エイミもああ言ってたけど、きっと来るよ。」
「……ふ、ふん!どうかしらね!」
あからさまに高飛車な態度をとってしまう少女に対し、顔が綻ぶアルド。
「だから、エルジオンで待っててくれないか?
どんな相手かも分からないし、子供が付いてくるには危険すぎる。」
「いやよ!早く会いたいもの!
それに、わたしだって役に立つわ!!!」
「それで怪我でもしたらどうするんだ?」
「その時は守ってよ!
そーんなに大きな剣を腰にぶら下げちゃって それはかざりなの!?」
「う、うーん、まぁある意味そうなんだけど……。
分かったよ、けど絶対そばを離れないでくれよ!」
「うん、分かった 気を付けるわ。」
「ところで、連れ去られるような心当たりとかは無いのか?」
「うーん……あ!
そういえば、ここ最近のことだけど ママとお散歩してるときに誰かに見られてるような感じがあったわ!それも1回だけじゃないの!!!」
手に力を入れて、続ける少女。
「でも、まわりを見ても そんな怪しそうな人はいなかったから、いつもあんまり気にしてなかったけど……。」
「それは怪しいな!」
「確かに 怪じいで ござぶな……。」
エルジオンの方から歩いてくるサイラス。
そして地面に膝をつく。
「ど、どうしたんだ!?その怪我!」
少女もサイラスを見て腰を抜かす。
「エイびに こっぴどくやられたでござぶ。」
「ハ、ハハ……それはそうと、エイミは?」
サイラスは立ち上がり、首を振る。
「拙者に大目玉を喰らわした後、どこかに行ってしまったでござるよ。
てっきりアルドのところに行ったとばかり思ったでござるが。」
「俺たちのところには来てないけどなぁ……。」
「ふん!ほらね!あの女は来ないのよ!!」
「ま、まぁまぁ……。」
「やはりさっきのことでかなり気が立っているでござるな……。
ときに、アルド達は何故ここへ来たでござるか?」
「多分、サイラスが火に油を注いだと思うんだけど……。
俺はこの子を追ってきたんだけど
確かに、なんで廃道ルート99に?」
「カンよ!」
「え、ええ!?」
自信満々に言い放つ少女を見て驚嘆するアルドとサイラス。
「ま、まあ女の勘は良く当たると言うでござる。
何か手がかりが無い以上 ここはこの
「エルジオンでは聞いてまわったけど、みんな見てないって言うから……。
とりあえず、このあたりを探すの!」
「探すって、何を?」
「うーん、何か手がかりとか?
とにかく、なんでもいいから探すの!」
「今はそれしかないか……。」
3人は歩き出す。
――廃道ルート99の一角
「何もないなぁ。」
思わず腕を組むアルド。
「なかなか 一筋縄ではいかぬでござるな。」
きょろきょろと探す二人。
「手がかりって言ってもなぁ……。」
「幸い、道の上はごちゃごちゃしてないでござる。
不審なものがあれば見つけやすいでござるな。」
「ああ、確かに……でもこの雨じゃあ流れちゃってるんじゃないか?」
「その時はその時でござるな……。」
「とにかく、今は何とか探すしかないな……。
ってあれ?あの子は?」
「む、拙者もしばらく見てないでござる。」
「お、おいおい こんなところではぐれたら危な――」
「キャァアアアアアアア!!!!!」
「――ほら、言わんこっちゃない!
行こう!」
「御意!」
声のする方へ駆けつけると、直ぐに見つけることが出来た。
両脇に機関銃を備えた飛行型ドローン ―サーチビット― に追い掛け回される少女の姿を。
「助けてぇーーーーーーーー!!!」
「片付けるでござる!」
一太刀でサーチビットはガラクタになった。
「キャアァアアアーー……ってアレ?」
「サイラスがやっつけてくれたよ。」
「あ、ありがと……」
「拙者一人で十分でござったなぁ。
さて、参ろうか。」
「え?」
「この辺は粗方探したけど、特に怪しそうなものは見当たらなかったよ。
それにしても、絶対に離れない約束だっただろ そんなんじゃエルジオンに置いていくぞ。」
「ご、ごめん……なさい。」
珍しくしおれる少女。
腕を組み怒気を露わにするアルド。
「まあまあ アルド。この子にもそれなりの事情があるでござろう。」
「どうしても手がかりを見つけたくて……ごめんなさい、もうしないわ。」
「うむ、何はともあれ、無事で良かったでござるよ。」
「はぁ……そうだな。
でも、次はないぞ!」
「うん!ありがとう!」
「よし!拙者達から離れないよう、気を引き締めて再開するでござる。」
「ああ、次行くか。」
歩き出す3人。
離れたところからついてくる1体のサーチビットには気づかずに。
――廃道ルート99の袋道
「こんなところにあるかなぁ?」
「探してみないと分からないでしょ!」
「そうでござるぞ。
こういうところにこそ、手がかりは眠っているものでござる。」
「う、うーん……まぁ確かに。」
3人はきょろきょろと辺りを探し出す。
「……ないぞ?」
「ないなぁ。」
瓦礫の方からサイラスが仰々しく叫ぶ。
「むむ!こ、これは!!!」
「何か見つかったのか!?」
「なになに!?」
「これを見るでござる!
この首飾りはまさしく 手がかり ではござらんか?」
「おお!サイラス!でかした!
それで、これはどうなんだ?」
「ちがうわ。」
「そっ、即答……!?」
「即答でござるか……。」
「ママはこういうのつけてないもの。」
「そっかぁ……。
そういえば、なんで誘拐されたんだろう?身代金とか要求されたわけでもないんだろ?」
「うん……ママ、大丈夫かなあ?」
「目的も分からず、手がかりもなし かぁ……。」
「行き詰ってしまってるでござるな。」
「早くママに会いたい……。」
「拙者達に任せるでござる。」
「ああ、きっと 俺たちが見つけてみせるさ。」
「うん、ありがとう。
こうしてる時間ももったいないし、次行きましょ!」
スタスタと歩いていく少女に続く二人。
離れたところからサーチビットはついてくる。
――廃道ルート99の一角
ひとりであちこち見回すアルド。
「うーん、ないなぁ。」
「こっちも、それらしいものはなかったでござる。」
サイラスと一緒に少女が歩いてくる。
手がかりを見つけられずにいる少女はうなだれる。
「よく、ママとお散歩したり遊んだりしたわ。
たまにケンカしちゃうこともあったけど……。」
「まるで、友達のように仲が良かったのでござるな。」
「今は、信じるしかない。
きっと大丈夫だ って。」
「それにしても……すごい雨でござるなぁ。
拙者は快適でござるが、二人とも平気でござるか?」
「うーん、確かにひどい雨だ。
俺も平気だけど……こんな雨じゃ風邪ひいちゃうし、エルジオンに――」
「いーやーだ!」
腕を組み、頑として聞き入れない少女。
「やっぱり?」
「もし、何か見つけた時 それがママのだって分からないでしょ!」
「まぁ、それはそうかもしれないけど……。
君が風邪でもひいたら元も子もないだろ。」
「わたしなら へ、へ、へっくしゅ!」
「……平気じゃないだろ。」
「平気ったら平気なの!」
「まあまあ二人とも、ここは落ち着くでござる。
この辺は探し切ったし、こんなところで立ち止まるよりも次に行った方が良いのではござらんか?」
「確かにそうだな。」
「そうね、次行きましょ!」
サーチビットはつかず離れずのところに浮かんでいる。
――廃道ルート99の一角
「うーん、辺り一帯探してみたでござるが 収穫はなかったでござるな。」
「こっちの方には来てないってことなのか?」
「皆目見当もつかぬでござる……。
そもそも、廃道ルート99へ来たのも、この女子の勘に頼ったところでござろう?」
「確かに、そうだったな……勘が外れたとか?」
「うう……こうしてる間にも、ママは。」
「ひどい雨だし、エルジオンに戻って もう一度EGPDに相談してみるっていうのはどうかな?」
「またあの いじわるな人に相談しに行くの?」
「い、意地悪って EGPDが?」
「うん、全然相手にしてもらえなかったわ!!!」
「うーん、今度は俺たちも一緒だし きっと真面目に聞いてくれるよ。」
「雨も止む様子が無い様でござるし……
ここは一旦戻って 立て直すのが良いでござる。」
「それは困るね……。」
「む!?何奴!!!」
話し合ってる3人の後ろに、どこからともなく現れる。
鋼鉄の身体に敵意を感じる緋色のランプの眼、胸にもコアのようなものが紅く灯っている。
合成兵士はけろりとした様子で話しを続ける、まるで人間のように。
「おいおい、そんなに物騒になるなよ、怖いじゃないか……。
話を盗み聞きして悪いが、その探し物について心当たりがあってね。」
「本当か!?
どんな手がかりなんだ?」
「ああ、手がかり……というより、居場所だな。
何しろ、この俺が さらった張本人だからな。」
その場に衝撃が走り、3人はギョッとする。
「何だと!?今すぐ返せ!!」
いきり立ったアルドは、合成兵士に激しく詰め寄る。
「ふ、その前に……そこの少女に一つ聞きたい。」
「わたし?何よ!」
「コードは何だ?」
「コード?」
「コード?」
「こおど?」
3人はそれぞれ、考え込む。
自分のいた時代より遥か遠い時代にいるサイラスにとってはコードという言葉すら聞き慣れていない。
「おいおい、とぼけても無駄だ。
裏コードだよ……知っているんだろう?
それさえ教えてくれれば、人質は無事に返してやる。」
「なあ、裏コードってなんだ?」
「わ、わたし知らないわよ!そんなの!」
「知らないだと!?
そんなはずはない!隠しても無駄だ!!!
あいつが大事ならさっさと言うんだな!」
「卑怯な真似を……許せぬでござる!」
抜刀するサイラス。
「っふ……あらかじめ言っておくが、俺は用心深くてね。
良いのか?そんな態度を取って。」
「サイラス!ここは抑えよう!!!」
「っく……貴様……!!」
苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ納刀する。
「おお、怖い怖い。
それで、そっちの少女は思い出してくれたかな?」
「わ、分かんないって!コードなんて知らないわ!!!
早くわたしのママを返してよ!!!」
「……ふうむ。その様子を見るに、何か心当たりがあるわけでもなさそうだな
どうしたものか……。」
「その裏コードを聞いてどうするつもりなんだ?」
「ククク、まぁ教えてやってもいいだろう。
裏コードさえあれば、この世界は我々のものになる と言っても過言ではない。」
「な、何だと!?」
アルドと一緒に他の二人も愕然とする。
「まぁ、それは先の話だ。
まずは裏コードを使って、ゼノ・ドメインの機能を停止する。
ククク、そうすればエルジオンは混乱に陥り、その隙に攻撃を仕掛けるのさ……。
おっと、しゃべりすぎたが、今の話はもちろん他言無用で頼むよ。
ああ、EGPDにでも話したら、どうなるか分かっているとは思うがね。」
「……っ!
なんっとも卑劣な奴でござる!」
「ククク、用心深い と言ってくれ……。
さて……裏コードについてはどうしたものか。」
しばらく考え込む合成兵士。
「よし、やはりここはおまえらに探ってもらうしかなさそうだな。
何とか裏コードを探って来るんだ、もちろん監視しているし変な気を起こしたら……分かっているだろうな?」
「……一体誰に聞けばいいんだ!」
「それが分かれば俺も苦労しな――
――ん?」
急に動きを止めた合成兵士。
「―――……―――――――
ほう、それは興味深いな……ふむ、続けたまえ。」
「な、なんだ急に?」
「誰かと話しているようでござるな。」
「ふむ……なるほど、了解した。
――どうやら話が変わったようでね、そこの少女 工業都市廃墟に来てもらおうか。」
「何だと……?そんなの危険すぎる!認められないぞ!!!」
「ああ、確かに危ないな……見境のないサーチビットにやられでもしたら計画が狂ってしまう。
だから、特別にそこの人間とカエルには同行を許可しよう。」
「……なに?」
「安全に、そして確実にこの俺のところまで連れて来るんだ。
その恰好を見る限り、腕は立つようだからな……。」
「もとよりそのつもりでござる!
貴様が何をするか分からんでござるからな!!!」
「おお、なら丁度良かったな。
ククク、もうすぐ時間だな。
最後になるが……。」
合成兵士が現れたり消えたりする、まるで壊れかけのテレビ画面のように。
「これはホログラムだ。
俺はかなり用心深くてね……。
工業都市廃墟で待っているぞ、ククク、ククククククク。」
そう言い残し、合成兵士の身体は消える。
「っく!ふざけた野郎でござる!」
「ああ!
この子を連れて来いなんて、あんな用心深いやつ何かあるに決まってる。」
「急に様子がおかしくなったでござったな……。
しかし、盗み聞きのことと良い どこで見られてるかも分からんでござる。」
「EGPDに頼るわけにもいかないよな……。
俺たち二人とこの子だけでって言ってたし。」
「変に反抗すると、人質が危ないでござるな……。
どこまでも卑怯な奴でござる!」
「つれてって!
ふたりとも、強いんでしょ!?じゃあつれてってよ!」
「うーん……かなり危険だけど……。」
「選択の余地はなさそうでござるな。
虎穴に入らずんば虎子を得ず……いざ参らん!」
工業都市廃墟へ向かう3人
後ろからぷかぷかとやって来た1体のサーチビットには気づかずに。
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