ママを取り戻して!

ロック

第1話 ―ママが連れ去られた!―

――AD1100年

アルドの住む時代よりもずっと未来の世界―

汚染された地上では暮らせなくなった人類がとった手段は



―大地ごと空へ浮かべる事だった。

空の上に作られた街にはドローンが飛び、人間に混ざりアンドロイドが歩く。


―曙光都市エルジオン―

―ガンマ区画 <イシャール堂>前

炭酸の空気が抜けるような音と共に、ウェポンショップ イシャール堂の扉が開く。


「お待たせ、アルド サイラス。」


「ああ、大したことないよ。」


「ところで、いきなり 家に寄らせてと言っておったがどうしたのでござるか?」


「親父に頼まれてた物を届けたかったのよ、丁度通りかかったし

今新しい武器の開発で忙しいみたいなの。」


「新しい武器……でござるか

どんな武器でござるか?」


「今度は爆発するみたい……使う方の身にもなって欲しいわ。」


「ハハハ、そりゃすごいな!」


「じゃあアンタ使ってみなさいよ。」


「え!?いや、俺はいいよ……剣だし。」


へそ出しスタイルにホットパンツ、左腿に巻いてある包帯が特徴的な赤いジャケットを羽織ってる女ハンター―エイミ―


二足歩行で武士言葉を話す、左眼に傷のあるカエル―サイラス―は、言葉遣いの通り侍の恰好をしている。



「ちょ、ちょっとアンタたち!!!」


「ん?なんだ?」


「そのカッコウ、ハンターでしょ!」


「え?うーん、まぁそういう事になるかな?」


通りを走って向かってきた少女に

大剣を腰に佩いた黒髪の青年―アルド―は困惑しながらも返す。


「わたしのママが連れ去られちゃったの!おねがい、助けて!」


「それは一大事でござるな!

早く助けに行かねば!」


「連れていかれたって、目の前で?」


「ううん、目をはなしたすきに いなくなってたの!」


「それでは犯人の特徴とかも分からんでござるな……。

無論、どこにさらわれたかも。」


「ねえ、警察EGPDには相談したの?」


「そ、相談したわよ……!でも、相手にしてもらえなくって……。」


「お父さんに相談は?」


「父上はまじめに とり合ってくれなかったわ……。」


「ねえ、おかしくない?自分の奥さんが誘拐されたのに、平気でいられるかしら?」


「うーん、確かに……。」


「フクザツな家庭……でござるな。」


「それでもEGPDが相手にしないなんておかしいわよ!

合成人間が化けてるかもしれないわ。」


「何よ何よ!なんなのよ!さっきからコソコソと!早く行きましょ!」


「行くってどこによ?

それよりあなたの素性が気になるわ。

一緒にEGPDに行ってあげるわ、ちゃんと説明すれば分かってくれるハズだから

それとも、行けない理由でもあるのかしら?」


「ぇ、う……。

し、知らないわよ!気づいたらいなくなってたんだから!!」


「それでなんで 連れ去られた なんて言えるのよ。

アナタが迷子になっただけじゃないの?」


「お、おいエイミ こんな子供相手に……。」


「アルド、エイミの言い分も一理あるでござるよ。」


「けど、今にも泣きそうじゃないか……。」


小刻みに震える少女を指さすアルド。


「演技だとしたら?」


「いくら何でも、疑い過ぎじゃないのか?」


「疑い過ぎて丁度良いのよ!

歩くお人好しのアルドは黙ってなさい。」


「あ、歩くお人好し……――」


「何よ!!!この、オバサン!!!!!」


「オバっ!?

…………………………――――」


「!?

(エ、エイミってオバサンって歳でもないと思うけど……。)

(というか、ものすっごい怒ってるぞ!)」


「!?

(なかなか肝の据わった 女子おなごでござるな)

(しかし、エイミはまだ ぴちぴち でござるが……。)」


「だ……だ……だ!!!

だぁれがオバサンよ!!!!!

てか私、まだそんな歳じゃないわよ!!!!!

この!!!!!!」


「キャア!」


「わあああー!!!

サイラス!止めるぞ!!!!!」


「お!?応!!!」


拳骨を作ったエイミが少女に襲い掛かるところで、アルドとサイラスが必死に止める。

少女はその場でたじろいでしまう。


「何よアンタら!!!この子の肩を持つつもりなの!?」


「い、いや待てエイミ!!!

ほら、相手はまだ子供だし!」


「カンッケー無いわよ!!!

そこをどきなさい!!!!!」


「ほら!サイラスも何とか言えって!」


「む!エイミはまだまだ若くでござるよ!!!」


「サイラス……」


アルドは何かを諦めたようにため息交じりでサイラスの名を溢した。




「%#△■◎$\♪×■▽+?!!!!」


「うわぁあああ!?!?!?」


「ぬ、ぬおおぉお!?!?」


怒り狂ったエイミ一人相手に、アルドとサイラスはじりじりと下がり始めた。

2、3歩後ずさりする少女。


「ふ、ふん!わたし一人でも助けに行けるわ!アンタ達をたよったわたしがバカだったのよ!」


エルジオンの西側―廃道ルート99―の方へと、少女は走り去っていく。


「あ!?お、おい!ちょっと待ってくれ!!!

っく……サイラス!!!大変なことになったぞ!」


「で、ござるな!」


「ござるな!じゃない!!」


「■◎#△%×$\+♪!!?」


「ううっ……!」


「ぐおぉおお」


「サ、サイラス!ここは一旦、エイミの正気を取り戻すのが先決だ!」


「承知!!!」


アルドとサイラスは腰を落とし、エイミを押し始める。



ずりずりと押し切り、見えないところから3人の会話が道に広がる。


「と、とりあえず落ち着いてくれよエイミ!」


「落ち着いてなんかいられないわよ!ったく!」


「まあまあ、子供のやった事でござる

ここは大人の女性らしく、どうか穏便に――」



「ええ、そうね。

わたしも大人げなかったわ。」


「「エイミ!」」


「でもね……。


サイラス、アンタは別!!!!!!!!!!」


「!!!!!」



程なくして、サイラスとエイミの恐怖の鬼ごっこがエルジオンを騒がせる。

すごすごと歩いてきたアルドは、目を閉じサイラスの名をポツッと呟く。


――まるで、安らかな眠りを願うかのように。



「はっ、こうしちゃいられない!あの子を追いかけないと!!!」


廃道ルート99へ続く道沿いにはEGPDの制服を着た隊員が首を傾げて立っている。


「うーむ、さっきの少女と良い 今の青年と良い……。

一応報告をしておこう。」

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