第4話 トッシュはシルにシャワーを浴びせる
「朝食も済んだので、シャワーを浴びてもらいます」
「シャワー?」
「水浴びとか沐浴って言えば通じる?
その、ね、ほら、何処から旅してきたか分からないし、
部屋の前に座り込んでいたから、ね?」
「わたし、臭い?」
「臭くないよ!
人が気を遣って遠回しに言っているんだから、気付かないでいいからね?! シルは綺麗だけど、衛生的にね」
「わたし、綺麗?」
「綺麗だよ。だから、シャワー浴びようね」
「うん」
「こっち。ここがシャワールーム。服、脱いで」
「うん」
ポンッと音が鳴り、シルの着ていたクマのぬいぐるみが消えた。
シルの手元には、クレーンゲームで取ったようなぬいぐるみがある。
「あれ? 今の着ぐるみって、スキルだったの?」
「うん。着ぐるみにするスキル」
「へえ。面白いスキルだね。俺のもそのうち見せてあげるよ。
ささ、下に着ている服を脱いで」
「うん」
「エルフ的に、冷たい水って平気だよね?」
「うん」
「これが、シャワー。雨を降らす道具です」
「雨を?!」
「万歳して。こう、両手を上に上げるの」
「うん!」
「精霊へお祈りを捧げるから、よく聞いて覚えてね」
「うん!」
トッシュが操作しようとしているのは、現代日本に普及している普通のシャワー。
シルがいちいち大げさに驚いてくれるのが楽しくて、からかっているのだ。
「水の精霊シャワーよ。我に恵の雨を授けたまえ!」
トッシュがハンドルを回すと、シャワーヘッドから温めの水がシャワワァと出てきた。
「凄い! トッシュ凄い! 雨を降らせた!
凄い! トッシュは精霊使いなの?!」
「驚くのはまだ早い。炎の精霊よ、水を暖かくしたまえ!」
「わ、わ、水が温かくなってきた! 凄い! トッシュ凄い!」
シルが驚きのあまりに後ろに倒れそうになったので、トッシュはお尻を支えて助ける。
「ふっふっふっ。凄いだろう。我が精霊魔術は」
「す、すごい。温かい雨を降らせるなんて、長老もパパもママも出来ない……」
「髪がいい感じに水分を吸ったら、これだ。シル、目を閉じて」
「うん」
「泡の精霊シャン・プーよ、髪を綺麗にしたまえ」
「あ、あれ」
「さあ、驚け!」
「や、やあ! これ、やだぁ! 頭ピリピリするー!」
シルは頭をブルブルした。
思いっきり水と泡が跳ねてトッシュの顔にかかる。
「あー。男用のスーッとするシャンプーは、駄目かあ。
洗い落とすからジットして」
「やー」
シルが逃げようとするからアッシュは腕を掴んで阻止。
「洗い落とせばスースーするの収まるから我慢して」
「うー」
トッシュはシャンプーブラシを使おうかと思ったが、女の子の長い髪をブラシのツンツンでゴリゴリやってもいいか分からないので、シャワーを優しく当てて丁寧に泡を洗い流した。
「うー。シャンプーは良くない精霊。邪霊だよ……」
「ごめんごめん。別にシャンプーは邪霊じゃないから。
男用のを使った俺のミス。
あと、シャワーの精霊っていうのも嘘で、これは、日本の道具。
ここを回すと水が出て、こっちのを回すと温度が変わるの。
この青い方が冷たくて、赤い方が暖かいの。
すっごい熱いお湯も出るから、ゆっくり回して調節してね」
「お、覚える」
「うん。水が冷たくて赤が暖かいのは、だいたい日本の共通ルールみたいなところあるから、覚えておいて。自販機とかね」
「自販機?」
「いつか見せてあげるよ。というか、反応が面白いから絶対に見せる」
「??」
「自販機はまたこんどで、これ、ボディソープで、こっちがスポンジ。
スポンジに、少し出してこすると泡になるから、これで体を洗って。
これはスースーしないから安心して」
「うん」
「泡だらけになったら、シャワーで泡を流す。できる?」
「で、できると思う……」
「じゃあ、あとはひとりで頑張って。困ったら呼んで」
「う、うん」
トッシュはシルを残してシャワールームを出た。
洗面台の下の棚を漁る。
「シルの着替えは、買ったけど着てないアニメTシャツを渡すとして、
まずはバスタオル……。
何処かに新聞勧誘かなんかで貰った新品が有った気が……。
あったあった。
くくくっ。
バスタオルで拭いた後、炎と風の精霊ドライヤーを使うのが楽しみだ」
数分後、トッシュの期待通り、シルはドライヤーに驚きトッシュを絶賛してくれた。
トッシュはシルの髪にドライヤーを当てながら、ニヤニヤと笑う。
(くっくっくっ。テレビだ。次はテレビを見せてやる……!
その後はコンビニに行ってトイレのウォシュレット!
買ってきた弁当をレンチン!
いや、レンチンするなら冷凍食品か?
反応が、楽しみすぎる……!)
無職トッシュはちょっと調子に乗ってた。
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