君の優しさが痛い

そばあきな

プロローグ、私のルーティーン

 クラスメイトの島原かいりくんは、女の子にとても人気な人だった。

 おそらくこれは、学年の中でも周知の事実と思う。


 下駄箱にラブレターという、なんとも少女漫画チックなその風景は、毎朝私の下駄箱のちょうど真下で行われているので、登校するたびに嫌でも目に入ってくる。


 ああ、また今日も手紙がたくさんあるなあと他人事みたいに眺めてから、私は自分の下駄箱で靴を履き替え、毎朝教室に向かうのだ。

 私が彼のような経験をすることは、おそらく一生ないだろう。モテる人は大変だな、と私は手紙であふれた下駄箱を見るたびに思いを馳せるのだ。


 教室に入る前、担任の加治先生と廊下ですれ違ったので「おはようございます」と挨拶して、教室の扉を開ける。

 返ってきた「おはようございます、島岡さん」の言葉を背中に聞きながら、私は自分の席に向かった。



 島原くんの下駄箱に入っているラブレターの数だとか、私が先生とすれ違う位置のズレだとか、あるいは私が教室に辿り着くまでに出会う人数の有無だとか。

 そういった細かい違いはあれど、大体同じようなルーティーンを経て私は教室に向かうことになる。


 しかし今日は、少しの範囲で収まらない、それ以上の違いがこの後に待ち構えていたようだった。

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