57話 仙人⑩
「ふぉふぉふぉ、そう言えばこの座のテーマはエロでしたなぁ。いつの間にかすっかり脱線してしまいましたわぃ。……そうなのです、咳止めでエロに持っていくのはかなりセッティングを念入りにしても難しいでしょうな」
……もう俺自身はこの場で語られることがエロだろうと、何でも構わない気持ちになっていたのだが、確かに当初はエロというかオナニーがテーマだったはずだ。
「ふぉふぉふぉ、まあ直接的なエロでなくともドラッグによる遊びは、広義のオナニーとも言える……ということでご容赦いただきましょうかのぅ。……いままで述べてきた通りドラッグというものは意外と日常に近いところにあるということですじゃ。咳止め薬でも1000円程度、他の物は数百円出せば酩酊というに十分なトビが可能ですわな、しかもそれがどこにでもあるコンビニやドラッグストアで買えるのですからのぅ」
「確かにドラッグ大国だね日本は……ああ、日本だけじゃなくて世界中なんだっけ?」
しみじみと呟いた後に謙太は尋ねた。
謙太のような異常にポジティブでナルシズムに陶酔出来る人間でもない限り、何らかのドラッグを使用したくなる気持ちは俺にも分かるような気がした。
「ふぉふぉふぉ、誤解しないで欲いんじゃが、ワシは全てのドラッグを絶対に避けるべきだということが言いたいのではないんじゃ。人類の誕生とアルコールの誕生の時にも言うたかと思うが、人類のそうした精神変容を求める力というのはとても根強いものじゃて。酒の歴史もそうじゃし、タバコやお茶というカフェインが入った嗜好品は大航海時代になってヨーロッパで大流行したんじゃ。……そうした需要が世界を動かし発展させていったことは疑いようのない事実じゃからのぅ。それを否定することは人類の発展を否定することになりかねんて……ただ現行の法律が絶対的なものではなく、お上の便宜的なものであることは知っておいて損はなかろうて。お上も本気でドラッグの類を根絶しようとしているわけでないことも、確かじゃ」
「……おいおい、そんなこと言って大丈夫なのかよ?」
誰か刑務官の連中がこの場に踏み込んで来やしないかと、俺は思わず入口ドアの方をおっかなびっくり見ていた。穏やかな語り口ながら爺さんの言葉は時々過激になる。
「ふぉふぉふぉ、今日だけは大丈夫ですぞ!新入りさん。『末端価格数億円のシャブが税関で摘発された』みたいなニュースは時々出ますし、未だに『合法ドラッグを製造していた業者が摘発された』ゆうニュースも出ますなぁ。……それならなぜ暴力団の存在が容認されておるんでしょう?ヤツらがシャブや大麻の流通を担っていることはどう考えても明らかじゃろう?本気で全てのドラッグを……言うまでもなく大麻をドラッグとして扱うなどということは馬鹿げておるが……根絶するつもりならそうした組織を一つずつ潰していくべきじゃろう?お上も結局は損得計算に基づいて正義を行使しておることは確かなのじゃよ、ふぉふぉ」
無論俺には爺さんの話がどこまで正しいのかは分からなかったが、ポリ公とは関わることも多かっただけに、彼らが善良な市民よりもヤクザに近い存在であることは嫌というほど承知していた。
だからといって何が変わるわけでもないのだが。
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