51話 仙人④
「ふぉふぉふぉ……丸本さんはどうお考えですかな?」
爺さんは慎太郎の問いをはぐらかして、なぜか丸本に話題を振った。
「……私も同様の意見です。話を聞いている限り仙人が使用してきたクスリは、効果も身体的なダメージも合法とは比べ物にならないものばかりだったはずです。もちろん仙人がウソをついているとは言いませんが……元々体質的にかなり強いタイプで、影響をそれほど受けいていないのかと思われます」
「ふぉふぉふぉ、そうですのう……正解は半分ほど、といったところですかな。むろんジジイがある程度体質的に強かったことは確かでしょう。また、皆さんが思うほどはクスリに溺れてきたというわけでもないでしょうなぁ。……丸本さんも言っておられましたが、クスリというのはある程度の期間を空けないと効果が半減しますでな。一般的にイメージする中毒者、のような人間はクスリに溺れているだけで楽しんでいるとは言えんでしょうなぁ。……しかし根本的な勘違いを皆さんしてなさる。合法の方が安全で違法の方が何倍も危険だという思い込みです。実はこれが大きな勘違いなのですじゃよ」
「……どういうことだ?危険だから規制されるんじゃないのか?」
爺さんの話の真意がいまいち掴めず、俺は混乱しそうだった。
「ふぉふぉふぉふぉ、お上は何も使用者の身体を気遣って規制をしているわけではありませぬぞ。危険だから規制しているという図式は成り立ちません。……今は違法になっている薬物も、元々は医療目的の正当な薬品として大手の製薬会社が開発したものです。それが発売されてから月日を経て、乱用する人間が増え、社会問題となって初めて規制が入っていったのです。……しかし一方でそれとは別に、どれだけ使用者が多く、社会問題が大きくなろうと規制が入らない薬物も存在します。……無論丸本さんの言う合法ドラッグとも別の物です」
爺さんが何やら不穏なことを言い出し、座の空気が少し固くなった。
「それは、今現在の話ですか?この日本でも蔓延しているものだと仙人は仰っているのですか?」
謙太がいつになく真剣な表情で尋ねた。
「無論そうですじゃ。日本はかなり酷く蔓延しておる国ですなぁ」
爺さんが何のことを言っているのか俺にも皆目見当が付かなかった。
一座にしばらくぶりの沈黙が一瞬訪れる。
「ふぉふぉ、そんなに難しい問いではありませぬぞ。……丸本さんはお分かりですな?」
爺さんに指名された丸本は、例の無表情でぱちくりと目だけで反応を示してから口を開いた。
「……アルコール、ですね」
「ふぉふぉふぉ、その通りでございます」
爺さんの答えに一座はどこかほっとしたような、肩透かしを食らったような反応を示した。
「なんすか、仙人!アルコールって、要は酒ってことでしょ?ドラッグだとかクスリだとかって脅かさないで下さいよ~」
慎太郎が安い芸人みたいな声を出した。
「そうでっせ仙人、酒ぐらいは誰でも飲みますがな」
長田もどこか安堵したような声を上げた。
散々煽られたオチがアルコールではそういう反応になるのも当然だろう。
「ふぉふぉ、皆さんあまり分かっておられぬようじゃのぅ?……アルコールは立派なドラッグですぞ。それも最強にして最悪とも言われております」
爺さんの低い言葉に一座の空気はまた重くなった。
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