44話 丸本⑪
「規制が入るということが告知されると、販売終了になる商品についてもアナウンスされます。……面白いもので合ドラ界でもアタリ商品とハズレ商品があります。アタリ商品が規制により終了になることが知らされると、客はこぞってそれを買い求めたりもします。……そして新たな法が適用され規制が実際に始まると、まだ規制の入っていない物質だけで作られた合ドラが『新商品』として発売されるのです。この一連の商品の交代を『世代』と掲示板では表現していました」
「ほーん……なんやドラッグ業界も普通の業界と変わらんみたいやなぁ。……ほんで丸本はんはどれくらいの期間ハマってはったんでっか?あんまり長い間やってたら廃人みたいになるでっしゃろ、ってことはそれほど長くはないってことでっか?」
丸本は確かに風変りな人間ではあるが、まともな知能を持っていることはこうして話を聞いていれば分かる。長田はそのことについて問うているのだろう。
「そうですね、私は4年近くですね。……『ドラッグに一度手を出したら人生終了だ!』みたいな謳い文句、あれは嘘ですよ、ははは。あれはお上が一種のパフォーマンスとして広めているだけです。実際には量や頻度を守って上手に付き合っている愛好家は沢山いました。私も「週に一度しかキメない」という自分に課したルールを破ったことはありません。……まあそれは意志が強いからとか、日常生活が大事だったというよりも、ある程度は期間を開けないと身体の耐性が出来て効きが悪くなる、そして金銭面を考慮して……という実に現実的な理由だったのですがね、くくく」
「へえ、じゃあ特に日常生活に支障もなく両立していた……って感じなのか?」
平日は普通に働き、土日にドラッグをキメる……そんな両立が可能ならば、なんだか悪カッコいいライフスタイルのようにも思える。
「そうですね。……まあ大学も一応卒業してバイトも卒業まで続けましたから、日常生活が破綻するほどではなかったということでしょうね。……でも地獄のようなキツさを味わったことは何度もあります。心臓の鼓動がとても速くなり死ぬかと思ったこともありますし、不安感が絶頂になり気が狂いそうになったことも一度あります。……でも、実はこれは規制による世代交代が原因なんですよね」
「どういうことだ?何故そうなる?」
柳沢が顔の脂で落ちてきたメガネをずり上げながら尋ねた。相変わらず眼光だけは鋭い。
「世代交代によって規制される物質は増えていきます。一度規制された試薬が解除されることは二度とありませんから、使える試薬はどんどん減っていきます。となると、まだ効果も副作用もあまり確認の取れていない試薬も商品として使わなければならなくなってくるのです。……その結果徐々に効果は薄く、副作用の強い試薬を用いたドラッグが蔓延することになっていったのです。……後に事故などが起きて問題になりますが、こうした問題は合ドラを面白おかしく取り上げて広めたマスコミ、それを見て知識もないのに使用して事故を起こしたバカども、そして規制を進めた政府の三者が悪いのです!……私たちは誰にも迷惑を掛けず密かに楽しんでいただけなのです。それを!!!…………おっと、過ぎたことを愚痴っても仕方ありませんね。くくく、これは失礼しました」
一瞬だけ狂気的な目を丸本はした。あれがこの男の本性なのだろう。
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