33話 謙太⑭
「……何かスゲェ話だし、なんならもう神秘的な感じすらあるけどよ、それってヤバイんじゃねえのか?ゲイの人の中にはそうやって覚醒してく人もいるんじゃねえのか?」
謙太の話が一息つくと俺にはそんな疑問が浮かんできた。至極もっともな疑問だろうと思ったが謙太は首を振った。
「そう思うのも無理はないよね。僕自身もひょっとしてその素質があるのかな?とも思ったよ。……でもさ、別に男の人を見て『エッチしたい!』とは思わないんだよね。ゴツい男に触られるのなんて、想像しただけで鳥肌が立っちゃうよ、ははは!……ま、初体験以降もその風俗は時々利用してるんだけど、自分が女になるようなエッチをするのは風俗のお姉さん相手だけだよ。……もちろん、家で一人でエッチする時は女の子になりきってゆったりと楽しむけどね」
「……あ、結局オナニーの話だったのか。でも、風俗の快感を知っちゃったらオナニーなんて味気ないんじゃないのか?」
俺の疑問に謙太はチッチッと指を振った。
「そんなことはないね。全然別物だとも言えるし、どちらも補い合っているとも言える。……時間を気にしなくて済む女の子になりきってのオナニーは最高さ!アナルも乳首も、それ以外の性感帯も開発すればするほど感度は高まっていくし、開発の方法も様々ある。……でも自分一人で開発していると少し方向性に迷って進まない時期もある。そういった状態を打破してくれるのが風俗のお姉さんたちだ。彼女たちはプロだから知識も豊富だし、どんなリクエストをしても決して笑ったりはしない。どちらも必要なことだね」
「ほーん、せやけどそんなに女になりきってのオナニーばっかりしてはって……でもゲイでもニューハーフでもない、っていうのはどういう感覚なんでっか?」
長田の問いに謙太は軽く笑った。
「いや、僕もそんなに四六時中女の子になりきってる訳じゃないよ。普段は普通に男として女の子とエッチしてるしね」
「待て待て!普通に女ともセックスしてるのか?」
謙太の言葉に頭がこんがらがってきそうだった。長田の言う通りこの男はどんな感覚で生きているのだろうか?
「そりゃあするよ!だから言ったじゃないか、僕は女の子が大好きだって!それにホストの仕事をしているとそういう機会も多いしね。……ま、エッチのことばっかり考えてるのも疲れるから、最近は自制するようにしてはいるさ」
「アンタ、頭おかしくなりそうに……いや自分が男なのか女なのか分からなくなることはないのか?それこそセックス中に迷ったりしないもんなのか?」
俺の問いにまたしても謙太は軽やかに微笑んだ。
「だからさ……男とか女だとかにそんなことにこだわることが無意味なんだよ。女の子が相手のエッチの時は女の子ために僕は男の役割を全うするし、風俗のお姉さん相手にはわがままで淫乱な女の子になりきる。TPOに合わせて自分の演じる役割を変えるなんて、みんな普段からやってることじゃないの?それと一緒だよ」
いや、それとは流石に全然違うと思うのだが……
「でも不思議なものでね、女の子のイク感覚が分かると女の子の感情もすごくよく分かるようになるんだよね。だから女の子が次にどうして欲しいっていうのが、手に取るように分かっていったんだ。ホストでナンバーワンになり始めたのもその頃だったね」
「ふぉふぉふぉ、まさかの歌舞伎町伝説のホストが上り詰めた秘密が『女になりきること』じゃったとは、誰も想像せんかったことじゃろうなぁ」
……爺さん一人が謙太の話に上機嫌に相槌を打っていた。
謙太自身もその空気を察したのだろう。一座に向かって軽く頭を下げ、話を締めることを示した。
「僕の話はだいたい以上です。もちろん細かくもっと話したいことは一杯あるけどね。まあ、あんまり男だとか女だとかそんな固定観念は忘れて、自由にエッチを楽しんでいけばいいんじゃないかな?まあ男女だけじゃなくて、色々な区別っていうものは人間が便宜的に決めたものがほとんどだと思うんだよね。もちろん人それぞれ事情は違うけど、人間は自由な存在だってことは忘れずにいたいな……って僕は思っています」
生まれついてのルックス強者の勝ち組で、いかにも無邪気そうなこの男からこんな多方面に渡る話が聞けるとは思っていなかった。理解出来ない部分は数多くあれど、理解の及ばない部分がそれだけ広がっていることに、どこか俺は感動して拍手を送っていた。
他の連中も同様の感想を持っていることはその表情から見て取れた。
……いや、正確に言えばあの薄気味悪いのっぺらぼうのような男、丸本だけは例によってその感情が見えて来なかったのだが。
(つづく)
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