30話 謙太⑪

「まあとにかく、ドライオーガズムというものの存在を知った以上、自分でもそれを味わわなければいけない!って強く思うようになったんだよ。それで色々調べて風俗に行ったんだ」

「え、風俗?……なんで風俗なんだ?」

 話の飛び方に俺は当然の疑問を口にした。

「もちろん風俗って言っても普通の風俗じゃないよ?あ、僕は風俗を利用したことがなかったからそもそも普通の風俗ってのが何を指すのか分からないけど。……ドライオーガズム専門の風俗っていうものがあるんだよね」

「そんなものがあるのか?」

 俺自身も風俗を利用したことは若い時に数回ある程度だったから、初めて聞く話だった。……にしてもドライオーガズムとやらはそんなにメジャーな存在なのか?俺が単に性に対して無知だっただけか?

「あるんだよね。ドライに至るためには色々な開発方法があって、もちろん自分で開発して辿り着くことも出来るらしいんだけどね、やっぱり最初はプロに頼んでみるのが良いかな、と思って特に予備知識もなしに行ってみたんだ」

「おお、それでどうなったんだ?」

「……全然ダメだった。プレイ中は『女になりきると良い』っていうことを言われて、そのつもりで臨んだんだ。『アナルを女性器だと思え』ってこともお姉さんに言われた。自前の女装のコスチュームも用意して、メイクもそのお姉さんがやってくれた。……プレイが始まった瞬間の気持ちは最高だったんだ。だけど、アナルに指を入れられた瞬間にどうしても違和感から固くなっちゃったんだ。アナルは柔らかくないと全然気持ちよくならない。『もっとリラックスして』って何度も言われるんだけど、そう言われる度に緊張しちゃって余計に固くなる……そんな繰り返しで時間が来て終わりだったよ」

 謙太は両手を上に向けて、外国人がよくやる「オーマイガー!」みたいなポーズを取った。

「ほー、中々難しいもんなんだな」

 言うまでもなく俺には未知の領域だったからその程度の相槌しか打てなかった。

「そうなんだよ!……でもすぐに僕も悪かったと反省した。何にも準備しないでそのお姉さんに『さあ気持ち良くしろ!』なんて最悪の相手だよね?セックスは二人で作り上げてゆくものだ。風俗とはいえ、僕は自分の態度を反省してリベンジを誓ったよ」

「……リベンジ?」

「ああ、そのためにどうすれば良いのかを徹底的にリサーチして準備した。一番の問題はアナルの開発が全然進んでいなかったことだ。少し指を入れられるくらいで拒否反応が出るようじゃ話にならない。処女の女の子にセックスを楽しめって言うくらい無茶なことだ。……だから僕はすぐにアダルトショップに走り、自分のアナルの開発のための道具を買ったんだ」

「……そんなものも売ってるのか。ヤバイな……」

 アダルトショップというのは、まあその名の通りの店だ。AVなども置いてあるが、コスチュームだとかそういったアダルトグッズも置いてある。……くらいは知っていたが、アナル開発のためのものも置いてあるとは知らなかった。……って言うか開発って何だよ?


「僕は最初は細めのアナルスティック……まあシリコン製の棒なんだけど、団子みたいに球が幾つも付いていて徐々に大きくなってゆくもの、それからアナル用のローション、あとは浣腸用のシリンジも買ったんだ」

「……浣腸って何のためにするんだ?」

 浣腸という用語を聞いた途端に、どこがとは言わないが一段とむず痒くなってきた気がする。

「アナル開発のためにはアナルの洗浄が欠かせないんだ。感度を高めるって意味合いもあるし、浣腸という行為自体が前戯みたいな意味合いもあるんだけど、単純に使ってるスティックが汚れてたらテンションだだ下がりで一気に気持ちも萎えるじゃん?結構そういう心理的な部分が大事なんだよね」

「……まあ、そういうもんかもな」

「でもやっぱり、最初のうちは浣腸も上手くできなくて、どうしてもプレイしているうちにお尻の中の物が付いてきちゃうんだよね。……となると、日頃のお通じの調子がイマイチだったんじゃないか?とか思って、食生活を見直したりサプリも取るようになって、その点は改善していったんだ。結果的には健康面も大幅に改善したから、アナル開発は身体に良いと思うよ!」

「……そ、そうか」

 またしても話があさっての方向に飛んで行った。



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