29話 謙太⑩

 だが長田のそんな言葉にも謙太は微笑んだ。

「神様はそんなケチな風に人間を作っちゃいないよ。……それに最新の科学的研究によると男と女、オスとメスっていうのはスペクトラム的(連続的)な存在だって言われてるんだよ」

「……スペクトラム的?どういうことでっしゃろ?」

 長田が間抜けな声で尋ねた。もしかしたらここまでの話は初めて聞くのかもしれない。


「性別っていうものがオスかメスかの2つだけじゃなくって、その間に無数の中間があるってことさ。0か1かだけじゃなくて0.1、0.2……いやもっと細かく0.001、0.002とか無数に細かく性別ってものがあるってこと。つまり完全に男だとか完全に女と呼べる人間なんてのは実際には存在しなくって、人間誰しもが中間のどこかの性で生まれて生きているってことさ。男とか女っていう性別はあくまで便宜上の区分でしかないってことさ」

「ふぉふぉふぉ、確かに人間以外を見渡せば、処女懐胎したコモドオオトカゲや、成長の途中で性転換するクマノミ、オスの遺伝子を持たないのにオスを産むトゲネズミなどが知られておるのう。オス、メスというものにこだわるのは人間だけかもしれんのう」

「お、流石は仙人!よく知ってるねぇ。生物界ではデフォルトはメスとも言われてるよね。数百万年単位で見ればオスというのは滅びゆく存在かもしれない……なんていう話もある」

 何だ何だ?話が一気にアカデミックになって来やがったな。さっきまでAVの話に情熱を燃やしていた空間とは思えない変容っぷりに、頭がくらくらしてきそうだった。

「……そりゃあ人間以外の動物の話でっしゃろ」

 長田が反論したが、その声は珍しく弱々しいものだった。

「……俺はバカだから難しい話はよく分かんないけどよぉ、それが謙太さんの女装オナとどう関係してくるんだよ?」

 続く慎太郎の声はいかにも粗野なもので、空気にそぐわないものであったが、それゆえに話を本筋に戻すものだった。

「ああ、ごめんごめん!でも全然関係ある話なんだよね。そしてそれが机上の空論なんかじゃなくて、僕は女装オナを続けるうちにそれを実感していったんだよね」

 ……また大きく風呂敷を広げたものだな!本当に女装オナがそんな壮大な話に繋がるのかよ?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る