26話 謙太⑦


「僕は系統的にはちょっとギャルっぽい派手目なファッションが好きなんだ。だから当然自分の女装もそういうファッションで揃えていったんだ。……もちろん最初のきっかけになった男物のジーンズを切ったやつは捨てて、すぐに通販で女物のショートパンツを買い直した。季節は夏場だったからキャミソールに薄手のカーディガンを羽織って、足元はハイヒールのサンダルも買ったんだよね~」

「……謙太さん脚フェチですもんね」

 柳沢の陰気な声も久しぶりに聞いた気がする。だが当時の状況を懐かしく思い出している謙太には、そんな陰気な声でも追い風になるようにテンションは上がって行った。

「そうなんだよね!サンダルはヒールが12センチの高いやつを買っちゃってね、実際に歩くのはちょっと怖かったね。それにペディキュアも思いっきり塗って……最初の時は本当興奮したなぁ」

「ペディキュアってなんすか?」

 慎太郎が間抜け面で尋ねた。まったく、最近の若い奴らはペディキュアも知らねえのか……ってペディキュアって何だ?俺も知らねえや。

「ペディキュアってのは足のマニキュアのことだよ。手のマニキュアを塗るのは普段の生活にも差し支えるから出来なかったけど、足の方を見られることは滅多にないからね。自分で塗ってる時も楽しかったよ」

「……スゲーな、そこまでやるのかよ」

 女装という言葉に最初は俺も抵抗を持っていたのだが、ここまで徹底した謙太の話を聞いていると楽しそうという気にさせられていた。

「いやぁ、僕なんかまだまだだよ。僕は体型的には恵まれていたけど、かなり気合を入れてダイエットに臨む人もいるしね。……もちろんどれだけ頑張っても男と女では骨格が違うから、厳密な意味で女の子になることは難しいんだけどね」

 謙太は男としてはやや背も低く骨格も華奢だ。謙太の言う恵まれていたとはそういった意味だろう。


「まあ、もっといけば豊胸手術とかホルモン注射とかそういうことになっていくんだろうけど、そこまでいっちゃうと女装じゃなくて性転換になってくよね。僕は別に男としての自分の性に違和感を覚えたことはなくて、単に趣味として女装オナを楽しんでいるだけだから、不可逆的なそういったものに手を出す気はなかった」

 また話がディープに一周し過ぎて見落としてしまいそうなところで、俺はとても根本的な疑問に気付いた。


「いや、でもさぁ……そんなに色々な準備をして自分を興奮させて結局はシコるだけだろ?なんかめちゃくちゃコスパが悪くねえか?」

 核心をついた質問でバッサリ一刀両断!ぐらいの気持ちで放った一言だったが、謙太は不思議そうな顔をしてこちらに微笑んだ。

「え?やだなぁ、それだけやってペニスをしごいて射精だけするなんてことしないよ?」

「……え?今ってオナニーの話をしてるんだよな?」

 謙太の心底不思議そうな顔が俺を混乱させた。

 そして俺のそんな混乱が謙太にも伝わったようで、ようやく具体的な説明が聞けた。

「ああ、アナルだよ。お尻を開発するに決まってるじゃん。もうやだなぁ!」

 謙太はやや恥ずかしそうに手を振り、俺に教えてくれた。



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