25話 謙太⑥

「そこから僕の女装オナは一気に加速していったんだ……遠い過去のようだし、つい昨日のようにも思えるなぁ」

 遠い目をした謙太は感慨深げなため息を漏らした。


「女装オナ……っつう単語も初めて聞いたんだけどよ、それがエスカレートしてゆくってのはどういうことだよ?」

 俺の質問で現実に引き戻されたかのように、謙太はやや大きな反応をした。

「……ああ、そうだね。自分が女の子になりきるってことだから色々あるね。ま、どこまでやるかってのは人によって結構差があると思うよ。女物のランジェリーを身に付けるだけって人もいるだろうね。……でも当然鏡の前に立つとムダ毛が気になるから処理するようになるよね?ムダ毛の処理をどこまでするかってのも、人によって結構異なる。当然普段の男としての生活の中で、つるつるのスネを誰かに見られた時に気まずいって人もいるだろうからね」

 ……うん、それがさも当然みたいな口調で語られても困るんだが……まあ言わんとしていることは分かった。たしかにスネ毛ボーボーのままよりも、つるつるの方が自分が女になった気分が味わえて興奮するだろう。そしてそれを、日常生活の着替えているタイミングなどで同僚や家族に見られたら、確かに気まずいだろう。


「ま、僕は当然全身を永久脱毛しているから、つるつるだよ。脚も腕もワキもVIOラインも全部ね」

 ……ニコリ、じゃねんだよ!何の自慢だよ!何だか興奮してきそうになるのを必死に抑えなきゃならねえだろ!

「あ、ワイも全身脱毛してまっせ」

 と思ったら、急に長田が話に入ってきて一気に萎えた。……入って来るんじゃねえよ、この筋肉ダルマ!ゴリラ!なんでテメェが全身脱毛してんだよ、気持ち悪いだろ!

「あ、そっか長田さんはボディビルの大会とかにも出てたんですもんね」

「そうなんですわ。本来は審査とは影響ないであろう下腹部周りは別に脱毛せんでもええんやろうが、他の箇所を脱毛すると、そこだけ残ってるのもおかしいっていう感覚になってくるんですわ。他のボディビル仲間も皆そう言ってましたわ」

「おい、毛の処理の話なんかはどうでも良いんだよ!もっとそこから謙太さんの女装オナがどうなっていったかを聞かせてくれよ!」

 口を挟んだのは慎太郎だった。

「そっか、そうだね。でも慎太郎君、あんまりがっつき過ぎるのは女の子に嫌われるから気を付けた方が良いよ」

 そう言うと謙太はまたクスクスと笑った。


「あ、ごめんごめん。……そうだね、女装オナでどこまでやるかってのはホント人それぞれだね。下着だけの女装は最も手軽なものだけど、鏡の前に立つとしたら当然顔の方も気になるよね?ロングヘアのウイッグを被るのが女の子っぽくなる一番手っ取り早い方法だと思うけど、ウイッグだけってのは逆にすごく違和感が出る場合が多いんだ。だから当然メイクもすることになる。下地からアイメイク、リップ……本当にこだわり出せばキリがない。それから、メイクをしてみて分かるのが日頃のスキンケアが一番大事ってことさ。僕はホストを仕事にしていたからもちろん普通の男よりは気にしていたけど、不規則な生活や不摂生で肌のコンディションがイマイチな時もあった。そこからスキンケアにはより気を遣うようになったね。自分でメイクをしてみて初めて女の子の苦労が分かったよ。」

「……スゲー話だな、よくそこまでやったな」

 俺の反応に謙太は軽く首を振った。

「やってる最中は面倒くさいなんて全然思わないよ。鏡の前の自分がどんどん本物の女の子になってくのが楽しくて仕方なかったんだ。ネットで色々化粧品だとかウイッグだとかを揃えるのも楽しくって仕方なかったよ。……あ、もちろんランジェリーとか洋服もね」

「下着だけじゃなくて洋服も揃えるんっすか?」

 慎太郎が興奮を若干隠し切れていない口調で尋ねた。

「ああ、その辺も人によるとは思うけど、僕はほらどう考えても元が良いじゃん?だからもっと女装を極めたくなっていったんだよね。……それにほら、最初からエロい下着をドンって見せられるよりも、洋服を脱がした時にエロい下着を付けてた方が興奮するでしょ?……洋服の下にすっごくエッチなランジェリーを付けている、そしてそれを知っているのは自分だけ……どう?興奮してこない?」

 確かに……想像していると興奮してくるような気もする。いや、だがそれはどう見ても女装の似合うこの男だからであって、自分がそれをしようとは微塵も思わないが……



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