24話 謙太⑤
「……女になる?つまりニューハーフってことか?」
謙太の言葉に衝撃を受けて尋ねた俺だったが、実はどこか納得もしていた。
最初からこの男にドギマギしていたのは、そういうことだったのか、という納得である。
ニューハーフの人たちは、女性の仕草や話し方などを細かく研究し理想化して取り入れる。時にそうした行為が女性よりも女性らしい女性を作り上げるのだ……という話を聞いたことがあったからだ。
「まあまあ、そう結論を焦らないでさ、僕の話を最後まで聞いてよ。……僕自身は普段は男として生活しているからニューハーフとは呼ばないと思っているけれど、もしかしたら他人は僕のことをそう分類するかもしれない」
もちろん最近になってLGBTの問題が広く世に出てくるようになったことは知っているが(ニューハーフというものをそれと結び付けて良いのかは確信が持てなかったが)、俺が実際に接してきた人間の中ににそういった人はいなかった。だからまた別の意味でもこの男に興味が湧いてきた。
「もちろん僕はこのルックスだしさ……特に子供の頃はその辺の女の子の誰よりも可愛かったよ。だから大人になってからも、特に付き合っている女の子に『女の子みたい』って言われることも多かった。……でも流石にそこは男としてのプライドがあってさ、僕は滅多なことでは怒らないんだけど、唯一そう言われることだけは許せなかった」
人の地雷ってのは得てしてそういうものなのだろう。的外れな悪口を言われても何ら腹を立てることはないが、自分でも薄々思っていることを言葉にされると人は簡単に怒りの沸点に達する。
「でもさっき言ったみたいな、男のセックスの快感だとか、釣り合いが取れる女の子がいないっていう不満が溜まっている時期のことだった。あ、ところで新入りさん……佐藤さんだっけ……は女の子の何フェチ?」
今までこの場では『新入り』としか呼ばれなかったが、俺の名前を覚えているとは……やはりこの男は(男と呼んで良いんだよな?)一味違うようだ。
「そうだなぁ、ガキの頃はとにかく乳にばかり目がいっていたんだが……何て言うのかな、今は全体的なスタイルというかフォルムが良い女こそが、良い女っていうイメージに変わってきたな」
俺の答えに謙太は満足気に頷いた。
「良いねえ、佐藤さん!……概ね同意するんだけど、僕は強いて言うならば脚フェチなんだよね。細くてすべすべで真っ直ぐな脚こそが女の子らしさの象徴っていうかね、ミニスカートとかお尻の見えそうなショートパンツとかが一番エロく感じるんだよね」
そう言われると、俺にも何よりも脚こそが女の魅力な気がしてきた。この男の感情の乗せ方は嫌味がなく、エロいことを話しているにも関わらず不思議と下品さ感じない。
「でね、ある時洋服の整理をしていたんだよ。大学を卒業してすぐの時かな?あ、大学在学中から僕はホストで働いていたんだけどね。もう着なくなった服を捨てたり、ちょっと良い物は後輩に上げようと思っていたんだけどね。……で、古くなったジーンズを見てたら急に思い付いたんだよね。『もう捨てるんだし、ちょっとショートパンツみたいに切ってみようかな』って」
「それが女装……女装で良いのか?の始まりってことか?」
「そういうことだね。とりあえず僕はそのジーンズを思いっきり短く、お尻が見えそうになるくらいまで切ったんだ。そしてすぐに風呂場に行って脚の毛を全部剃った。そして履いて鏡の前に立ってみた。……はっきり言ってめちゃくちゃ興奮したよ!童貞を捨てた時よりも興奮したんじゃないかな?……もちろんその時の女装のクオリティは後とは比べ物にならないよ?でも、そこにあった女の子は僕の理想とするエロ可愛さそのものだったんだ!僕はその時、多分10年ぶりくらいにオナニーというものをした。相手のことを一切気遣わなくて良いエッチというものがこんなにも気持ちいいんだ!って感動したよ」
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