14話 長田④
女、という話題が出たので、俺は改めて長田の顔をジロジロと眺めた。
第一印象だけで圧倒的な不快感を与える醜悪な面貌の柳沢や、極端に面長でのっぺらぼうのような印象の丸本とは違い、長田は評価のしづらい容姿だった。
男っぽい骨張った骨格に張り付いたやや神経質そうな表情が、どこかちぐはぐな印象を受ける。もし長田の顔面に、明るく豪放磊落といった表情が乗っかっていれば、誰からも信頼される男らしい人間、という好印象を与えていたかもしれない。
ちなみに同性の俺でもドキリとするほどの色男である謙太は言うに及ばないが、向こう側にいた慎太郎も若者らしいやんちゃさを湛えた、中々の良い面構えをしている。
俺も黙って大人しくしていればモテる方だったし、爺さんも……爺さんのニコニコ顔は、もうそういった次元を遥かに超えていた。
ともかく長田は、黙っていてもモテるというタイプでは決してないだろう。
「ワシは元々自分のコンプレックスを解消するためだけに筋トレを始めたんや。そこにそれ以上の打算みたいなものはなかった。……でも筋肉が付いてくると、女の方もイケるんちゃうか?という気になってきたんや。それまではコンプレックスが強くて、まるで女には縁のない生活やったが、ハタチの誕生日を迎える前に何としても自力で童貞を捨てよう思ってな、生まれて初めてナンパをしてみたんや」
「……へえ、ナンパね!」
ずっと密室感の強い柳沢のAV話を聞かされていたせいか、ナンパというものが何か異次元の祝祭のような明るい響きを持って新鮮に聞こえた。
「……まあ、ナンパなんて中々上手くはいけへん。ましてや19の
「女にのめり込んでゆく……って、何だかとってもいやらしい響きだね」
謙太がクスリと笑った。その言葉もこの男が言うと何か特別な響きを持ってきてしまいそうだった。
「いや、確かにそうやな……。あの頃は女を性的に利用しているだけだったように思う。今思い返すとホンマに申し訳ないな……」
そう言うと長田は少し言葉を切った。そしてまた続けた。
「まあ、そこからワシはより身近に目を向けることになる。具体的に言うならば、同じジムに来ている女や。ジムに通っている女は自意識が高いし、筋肉のある男が好きっちゅう場合も多い。その辺を利用してワシは同じジムの女に次々と手を出していったんや」
「……なんかゲスい話だな、まあ向こうも合意の上なら問題ないのか?」
柳沢のキワモノAVも想像したくないものだったが、ジムという閉鎖的な空間に男女関係が入り乱れている様はよりリアルなだけに、嫌悪感を抱かせた。
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