11話 長田①
「ふぉふぉ、柳沢さんのAV話は何回聴いても含蓄が深いのう……さて、次は誰がいくかの?」
周囲から『仙人』と呼ばれる爺さんが7人の車座を見渡すと、手を挙げたのは、俺の隣に座っていた例の関西弁筋肉ダルマ男、長田だった。
「そしたら、ワシがいこうか」
「ふぉふぉ、ええじゃろう長田さん。存分にやってくだされ」
爺さんは何が嬉しいのか分からないが、相変わらず上機嫌そうに笑っていた。
「これだけ含蓄のある柳沢はんのAV話の後では、ワシの話はつまらんかもしれへんが……まあ一つお手柔らかに聴いて下され」
そう言うと長田は、座に向かって軽く頭を下げて語り始めた。
妙に深いAVの話の後に、一体何を俺は聴かされることになるのだろうか?
期待ももちろんあったが、不安というか怖さの方が勝っていたというのが正直な所だった。
「柳沢はんのAVの話はもちろん深いものやったなぁ。ワシもAVは頻繁に観るが、そこまで深く探求したことはなかった……でもなぁ、柳沢はんのオナニーには大事なものが欠けているんや」
長田が何を語り出すのかと思っていたら……どうやらまたオナニーの話らしい。
ということは何だ?この座はオナニーを語る会なのか?それをもう何回も同様の
「なあ新入りはん、柳沢さんのオナニーに何が欠けているか、分かるか?」
「え、また俺?……さあ、何だろうな?」
恐らく柳沢は、ほとんどのジャンルのAVを観てきたはずだ。……それでも欠けているもの?それが何を指すのか、俺には見当もつかなかった。
「ま、新入りはんには難しかったかもな……ええか?オナニーってのは自分が自分の身体を使ってやるものなんや。AVってのはあくまで自分をいかに興奮させるかの手段の一つや。自分の好みのAVを知ることも大事なことやろう。……だが、それよりも自分の身体のコンディションを最高の状態に持ってゆくことこそが、根本的なことやとワシは思っとる」
「……なるほど、確かにそうかもな」
長田の言葉に俺は思わず、膝を打ちそうになる(恥ずかしいので実際の行為には移さなかった)。
だが、待てよ……。俺は長田のその話に納得しつつも、どこか違和感を拭えなかった。
オナニーってのは、溜まってきたムラムラを解消するための行為だ。オナニーのために自分のコンディションを整えてゆくってのは、ムラムラをより溜まりやすい状態に持ってゆくってことじゃないのか?
何だかそれはとても矛盾に満ちたことのように俺には思えた。
長田はなぜその考えに至ったのだろう?
改めて、隣で
身長自体は男としてはやや小柄だ。さっき部屋に入る時に立って対面した時の感じだと、恐らく170センチをやや下回るくらいだが、こうして間近で改めて見ると筋肉ダルマという言葉がとてもピッタリくる。
支給されている長袖シャツの上からでも隆起がはっきりと分かる腕や肩、それに太い首というのは最初から印象に残っていたが、間近で改めて見ると印象が強いのはむしろ下半身の方だ。でかい尻と太い太ももでズボンはぴちぴちに突っ張っており、胡坐をかくのもどこか窮屈そうだ。
そうした俺の視線を感じたのか、長田は俺の方に向き直ると口の端を歪めて軽く笑った。
「実はな……ワシも昔は貧相な身体で、ガリガリやったんや」
……意外な一言だった。
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