9話 柳沢⑦
柳沢は続けた。
「最初はあまり気持ちが乗らなかった熟女ものだったがな、冷静になってみるとそれほど嫌悪感なく観られるようになっていった。……いや、正直に言うと次第に興味は強くなっていったんだ。ただあまりに高齢の女優が出てくるものはムリだったし、リアルなおばさん感が強いものも好きになれなかった。40~50代くらいの綺麗目なおばさんではイケることが分かってきたんだ」
「ふ~ん、そうか。……ってあれ?AV観ても、オナニーはおろか勃起もしないって言ってなかったか?」
柳沢の話のトーンが少しだけ変わったことを俺は感じていたが、最後の言葉でその意味が理解出来た。
「ああ、そうなんだ……AVで性的に興奮するという実に久しぶりの体験だった。毎日AVを2本観る生活を始めてから1年ほど経った頃のことだ。……射精した日の夜は嬉しくて泣いてしまったよ」
多分コイツと同様の経験をした人間など日本中探しても一人もいないだろうが、そこに至る苦労を聞かされていただけに不覚にも俺は少し感動しそうだった。
だが最も肝心な所を聞かされていなかった。
「……でも、なぜ熟女ものでイケたんだろうな?」
よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりの柳沢の表情だった。
「ああ、俺もそれが気になって考えてみた。……そして多分それは俺の育ちと関わりがある。……母親は10代で俺を産んだんだが、ロクに子供の世話もせずに遊び惚けているような女だった。父親は父親で仕事漬けの毎日だった。結局両親は俺が小学校に上がる前に離婚して、父親に引き取られるんだが、それまで俺を世話してくれたのは主に母親の母親、つまり祖母だったんだ。……そして、多分子供の頃のそうした記憶が無意識の内に残っていたんだろうな。……俺もこうしたAVの特殊な見方を始める前は派手なギャルが一番興奮したんだ。そこにはまだ20代で派手な格好をして遊び回っていた母親の影があったのかもしれない。そこから一周して、綺麗目な熟女に一番興奮するようになったのは幼い時に俺を世話してくれた祖母の影を追い求めていたのかもしれない。……いや、もちろん本当のところは分からない、でも俺はそうだと思ったんだ」
「……アンタ自身のことだ。アンタがそう思ったんなら、それが事実だろ」
不思議な熱を帯びた柳沢の話に、そしてこの柳沢という男に俺はいつの間にか引き込まれていた。
もしかしたら……これは完全に想像の範疇だが……派手な格好をして遊び回っていた柳沢の母親は、このいかにも風采の上がらない醜い彼のことがどうしても好きになれなかったのではないか?自分の息子として認められずに、育児を放棄したのかもしれない。……そして、柳沢本人も薄々それを感じていたのではないだろうか?そんな悲劇の上にこの柳沢というAVモンスターは誕生したのかもしれない。
邪推だが、そんなことを思った。
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