第18話 相手が強いのなら、Nにすればいいじゃない
「全人類を…“N”にする?」
開幕冒頭に発した私の言葉にレジスタンス『オッス・オトコノハナゾノ』の団長であるキキョウさんも副団長のウララカさんも顔を見合わせて首を傾げた。
とはいえ、この反応は予想通りである。むしろこれだけの情報で成程な、と納得されてはちょっと勿体ぶった言い方をした私が恥ずかしくなってしまう。
先程レジスタンスの皆さんの前でも話をした私のここまでの異世界での体験の中で少し触れた話でもあったが、私のスキル「リロール」について、特に今回の作戦の鍵を握る左手の能力「
つまり、簡単に言えば私に与えられた力で女性も男性もレア度“N”にしてしまえばこの世界は均衡を取り戻すわけである。そもそもスキルというのは女神様から与えられたという人智を超えたものであり、それが失われたとしても現在の人々の生活に大きな影響が及ぶわけではなさそうだった。勿論、レア度やスキルに頼った生活をしていたわけだから多少の悪影響が出るかもしれないが、私が元居た世界ではそんな超常的な力など無くても人類は発展して来ていた。であるならば、全人類を“N”にしたところで問題はない、というのが私の出した結論である。
「……」
だが、私のスキル「リロール」の能力の1つ「
「確かに、イッパツさんの言うことは分かりました。そのリロールというスキルの力を信じるとして、でもそれはあくまで“手段”であって“作戦”ではない。例えば、イッパツさんのお話にもあったように、そのスキルの発動条件にはかなりリスクが伴いますし、相手が油断でもしていない限り…いや、“SSR”以上であれば油断していたとしてもイッパツさん相手だったらその左手が届く前に…最悪殺される可能性だってあります」
「…その通りですね」
「もし、“手段”ではなく“作戦”の段階までお考えになっているという話であれば、話を続けていただきたい」
「分かりました。このリロールは手段だとして、果たしてどうやってレア度無き男女平等の世界を創るのか。…それは、男女が平等に暮らせる国を創ることから始まります」
「国を…創る…?」
辺りを見渡すとキキョウさんを始めとしてウララカさんもスマッシャーさんも怪訝そうな表情をしていた。でも、何故かハルカさんだけは嬉しそうというか、楽しそうというか、独り感心したように微笑んでいた。
「私のもう一つのスキル、右手のスキルの『
「ちょ!?ちょっと待ってください!?」
すると、具体的な作戦の説明に入る前に、慌てたようにしてキキョウさんが私の話を遮った。
「イ、イッパツさん。先程国を創ると言われましたが…一体何処に創ろうというのですか?既にこの大陸には巨大な四国が睨み合っている状況なんですよ?そんな中で我々が『建国だ!』と叫んだところで一瞬にして周りから潰されるだけです」
「あぁ、すいませんでした。国を創るというのは最終的な話で、作戦の話にも繋がりますが、まずは“国を盗む”んです」
「く、国を…盗む…!?」
「はい、国盗りです」
「ど、何処の…?」
「ここです」
私はそう言いながら地面を指差した。
「ここって…サイハテを!?」
「はい」
「そ、それはどうしてですか?」
どうして。そう尋ねられると少し頭を悩ませた。どうしてと聞かれてもあまり厳密な理由は存在しなかった。なので、思いついたことを口にした。
「…うーん、ちょうどサイハテの中に居る…からですかね?」
ヽ(・ω・)/ズコー
…という音がしたわけではないが、それに似た音を立ててキキョウさんが椅子から滑り落ち、そんな彼女をウララカさんが急いで抱き起す。
「あっははははは!!相変わらずイッパツは面白いな!!国盗りなんて、普通の人が思いつくもんじゃないよ!!それも“N”や“R”が“UR”の女王が支配する国を盗ろうだなんて…くくく、正気の沙汰じゃない!あははは!!」
その一方で耐え兼ねたハルカさんが天井を仰いで大声で笑った。その横のスマッシャーさんも流石に驚いた表情をしていたが、しばらくすると彼も愉快そうに笑みを浮かべていた。
「イ、イッパツさん…。話は分かりました、ですがやっぱりそれは作戦ではありません。もはや、大それた自殺計画と言っても過言じゃないですよ!」
「そうですか?でも、それすらできないとこの世界を変えることなんてもっと無謀な話ではありませんか?」
「そ、そうかもしれませんが…しかし…」
流石にここまでの話だけを聞いて「それも面白かろう!」なんて言われてノリで私たちの作戦に同意してもらう方が心配だったので、これまでのキキョウさんたちの反応は予想の範疇内として、私は構わず作戦の概要を説明することにした。
レア度の中でも最上位に位置する“UR”を持つ女王が支配する国、ここサイハテを奪い取るにあたり重要な点が3つある。
先ずは、戦力の確保である。
これは先程少し触れた点でもあるが、サイハテもこの大陸で鎬を削る強国の1つであることに間違いはない。それはレア度“UR”の女王の力だけでなく、それを支える人々の力も強いからであり、中でも“朱壁”のローザのようなレア度“SSR”の力を持つ権力者がこの国には4人居るらしい。そんな歴戦の彼女らと渡り合うためにも、こちらも十分な戦力が必要になる。
そこで、サイハテ中の雄ブタや雌ブタにされた人々が監禁されている牧場を襲撃し、彼らを解放するとともに戦力として加入してもらい、一人一人を私のリロールの力でレア度を上げていけば、即席ではあるがローザたちに引けを取らない大軍勢を揃えることができる。
次に、陣地である。
サイハテを盗るにしても、私たちが戦いに備えられる陣地が必要不可欠である。仮とはいえ、そこを男女平等に暮らせる場所にすることで私たちが成そうとしていることの実践例にもなるし、それを見ることで感化される人も少なからず出てくるだろう。私たちの活動の拠点にもなり、また私たちの考えの証明になると考えれば、この陣地は重要である。
現段階で、その陣地に相応しいのはまさにこの場所、この領地であり、サイハテの東部に位置し、他の国からの移動もあるこの場所はまさに最適の場所のように思われた。いずれ私たちがサイハテ国内から敵視された場合でも、この領地を拠点に貿易をコントロールできるようになっていれば物資には困らず、兵糧の面でサイハテ本国から脅かされる心配がない。
最後に、もっとも重要な点がタイミングである。
早かれ遅かれ私たちがサイハテ国内の牧場を襲って雄ブタや雌ブタにされた人々を解放すれば、当たり前だがその噂が女王の下に届き、まもなくして調査が入った後に私たちの決起が知られることとなる。女王の気付かぬままに王城まで攻め込んで一気に国を盗れると考えているわけではないが、できる限り女王に気が付かれるタイミングは遅いに越したことはない。
とするならば、行動を起こす前にこの国の内情を知る者、できれば政府組織の関係者内に私たちの目的を理解して手助けしてくれる存在の手助けが必要になる。だが、こればかりは今の私たちでどうにかできる問題ではなく、もはや運次第と言うしかなかった。
以上を説明して、もう一度キキョウさんたちの顔を窺ったが、今度は彼女らの表情には呆れも驚きもなく、私の話を真剣に聞いて真剣に実現可能かどうか考えてくれているようであった。
「いかがでしょうか?無茶な点は多いかもしれませんが、不可能ではないかと…。あとの問題はサイハテ国内の内情をある程度知る人がいれば万全なんですが…」
「いえ、その点は我々…というか私に当てがあるので大丈夫だと思います」
そんな私の心配事をキキョウさんは自信を持ってあっさりと解決してくれた。となれば、あとはキキョウさんたちが私たちに力を貸してくれるかどうかだけが問題であった。
「イッパツさんのお話を聞かせてもらって、皆さんがただの感情で動いているわけではなく、本当にこの国を、世界を変えようと思って行動されていることは分かりました」
「…」
「我々『オッス・オトコノハナゾノ』も元は雄ブタや雌ブタにされた人々を助けたいという考えから始まり、ここに居る者たちの多くは家族や知人を牧場に連れていかれた者たちばかりです。だからこそ何とかしたいと強く願いこれまで色々と行ってきましたが、それでも“N”や“R”しかない我々にできることはほんの些細なことばかりで、結局はレア度の差を見せつけられ歯痒い思いをする…そんなことばかりでした」
「キキョウさん…」
気付くと、キキョウさんの目の縁からはすっと細い涙が零れていた。その涙はレア度の前に何もできない自分の無力さを噛みしめる苦しみを経験したからこそであり、逆に私はその涙にキキョウさんの熱意を感じた。
「だから、イッパツさん!貴方の言う男女平等の世界を、レア度が存在しない世界を創れるというのであれば、我々は全力で貴方にお力をお貸ししたいと思います!いえ!むしろ、我々の方からイッパツさんの作戦に参加させていただきたい!どうか、よろしくお願いいたします!」
いつの間にか助力のお願いをしに来た私たちの方が、レジスタンスの団長であるキキョウさんからお願いされることになっていた。勿論、その願いを断る理由はなく、私はすっきりとした思いでキキョウさんに右手を差し出した。
「ありがとうございます!キキョウさん!必ず、必ず!男女平等の国を、世界を一緒に創っていきましょう!」
「はい!」
こうして、私たちに初めて大人数の仲間が増えることとなり、私の不安は少しかき消された。だが、それでも私の頭からはあの“朱壁”のローザの姿が消えることはなく、またしても私はこんな世界でも仲間となってくれる心優しい人々を傷つけてしまうのではないかという不安が、まだべっとりと私の背中に張り付いているようで晴れ晴れとした気持ちにはなれなかった。
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