第17話 すべてがNになる
「失礼しまーす」
そう言いながらレジスタンスの基地だろう立派な建物に正面入り口からずかずかと入って行くハルカさんとスマッシャーさんに続いて、私は言い知れぬ不安を抱えたまま二人の影に隠れてこそこそと建物内に入った。
中の様子は先程まで居た装備屋の店内と同じ木製の仕上がりで、入った正面に大きな空間が広がっておりその中央には何十人が掛けるのだろうかと思うような大きな長机が鎮座していた。
そして、やはりというか当然というかそこに居たのは女性たちだけであり、皆さん見目麗しくも逞しい出で立ちであった。
「あらやだん☆私の推しメンが牧場に拉致されちゃったわん☆彼が雄ブタになって阿婆擦れどもの足をペロペロする前に、私たちで助けに行くぞ、オラァァッ!!!」
…などと言いそうなオネェ系のガタイの良い男性たちが建物内にギチギチに居たらどうしようかと思ったが、取り越し苦労だったようだ。本当に良かった。
「ヒューマにオーク?それに男もいるぞ…!」
やはり男性が自由に歩き回っていることは珍しいのか、スマッシャーさんよりも私を見て皆が騒めき始めた。そんな中をまるで有名人が報道記者をあしらうような対応をしてハルカさんはどんどん前に進むと、レジスタンスの基地の大広間、その一番奥に位置する椅子に腰かけていた眼鏡を掛けた利口そうな女性の前で立ち止まった。
「貴女がここのリーダーさん?」
「そうですが…失礼ですが貴女たちは何者ですか?ここは雄ブタや雌ブタにされた人々の解放を目的とした『オッス・オトコノハナゾノ』だとご存知ですか?」
ここのリーダーらしき眼鏡を掛けた女性が少し警戒した目をして私たちにそう問い掛けた。また、気が付くと周りにいたレジスタンスの皆さんも各々警戒するような態勢を取っている。
「勿論、私たちも皆さんの目的を存じ上げておりますし、私たちの目的も同じです」
「そうですか、なら同志というわけですね。では『オッス・オトコノハナゾノ』に入りたりということであれば、数日後に行われる入団試験に…」
「あー、いえそういうわけではなく、皆さんが私たちの仲間に入っていただくんです」
「…どういうことです?」
「私たちはこれからこの国や世界を…レア度という概念そのものをぶっ壊して、女性と男性に差別の無い世界を創り上げようとしているわけです。そのための力を貸していただきたい」
「はいぃ?」
自信満々に説明をするハルカさんであったが、残念ながらその言葉はリーダーさんにも周りの皆さんにも届いていなかった。理解を共有している私でさえ、ハルカさんの今の説明はあまりにも突拍子も無く聞こえ、これ以上ハルカさんに語らせていると拳と拳の肉体言語で殴り合い…ならぬ語り合いが始まりそうな勢いだったので、厚かましいが私が前に出ることにした。
「申し訳ありません。私の方から補足で説明を…」
「…え、えぇ、頼みます」
「ちょっとイッパツ!邪魔しないでよー!」
「ハルカさんは…ちょっとそちらで待っていてくださいね」
少し強引にハルカさんを横にどかすと私はこれまでの経緯を語った。
私がここではない異世界からやって来たことはいつもの記憶喪失で誤魔化しつつ、私が居た牧場であったことやタクジさんたちとの友情、カーシャちゃんとの出会い、皆の決意、立ちふさがったローザという絶望、そしてハルカさんたちに助けられた奇跡。そこまでを若干脚色を加えつつも、涙ながらに大体文字にしたら5万字程度で話した。
すると、最初は興味なさげな表情をしていたレジスタンスの皆さんも徐々に私の下へ集まりだし、気が付けば私を囲んでリーダーさんも含めて皆さん涙ながらに耳を傾けてくれていた。
「そうですか…そうですか…。そんな苦労を味わってもなお、仲間のことが心配でもう一度元居た牧場に戻りたいと…。そして、仲間との約束を果たすために、雄ブタや雌ブタにされた人々を解放したいと…!」
「そうなんです。だから皆さんのお力をお借りしたいんです。どっちが上とか下とかではなく、肩を並べた仲間として、同じ野望を掲げる仲間としてお力をお貸しいただきたい」
「よし!分かりました!『オッス・オトコノハナゾノ』は一丸となってイッパツさんの野望成就のために力を尽くしましょう!いいですね、皆!」
「「「おおおぉぉ!!」」」
リーダーさんの音頭に合わせて、レジスタンスの皆さんも拳を上げて声を上げ、その気迫で建物内がビリビリと震えた。その光景を傍から見ていたスマッシャーさんは満足そうに頷き、しかしその一方でハルカさんは何故か拗ねた表情をしていた。
「ハルカさん、これで良かったですかね?」
「…まぁ上出来なんじゃないの。私よりも向いてるよ、こういった交渉事はさ」
「あの…怒ってます?」
「…別にぃぃ」
何やら不満事はたくさんあるようだったが、ハルカさんのことは一旦置いておき、漸く本題に入ることとなった。
具体的に言えば、これからどうやってレア度という概念を克服し、雄ブタや雌ブタがいない世界を創るのかである。
「それでは、イッパツさんの作戦をお聞きしましょう」
場所を移し、先程まで居た大広間から団長室へ移ると、少し狭い部屋に私とハルカさん、それにスマッシャーさん、それとレジスタンス側からはリーダーさんと副リーダーさんらしき女性の計5人が顔を合わせるようにして着席した。
「あぁ、すみません。それよりもまず我々の自己紹介から先でしたね。私は『オッス・オトコノハナゾノ』の団長を務めております、キキョウといいます。それでこちらは副団長のウララカです」
そう紹介され、ウララカさんはただ黙ってその表情の分からない畏まった顔でぺこりと一礼だけした。
「じゃあ、キキョウさんにウララカさん。私の話を聞いてください」
私の先程までの話を聞いて、キキョウさんたちの思いは大分私たちよりに動いてくれたはずであるが、ここからが本番である。ここから伝える私の作戦次第ではキキョウさんたちの熱意も揺らいでしまうかもしれない。どうしても私の目的を果たすには男性も女性も問わずに多くの仲間が必要不可欠である。その一歩となるキキョウさんたちには是非とも仲間になってもらわないと困る。
そんな緊張からか手にジトっとした汗が滲んできたが、それをギュッと握りしめて私は口を開いてこう言った。
「全人類を“N”にします」
そして、その出だしを皮切りに、私の考えた「レア度を持ってレア度を制す」作戦の概要を話す時が来た。
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