第15話 後手に回っていたとしても、最良の手を指す
あの洞窟での決意の後、私たちは荷馬車に揺られ晴れ渡る晴天の下を長閑にもゆっくりゆっくりと進んでいた。
「いんやー、助かったわー」
「私らだけだったら荷物置いていく破目になっとたがね」
「困った時はお互い様ダ。この程度の力仕事、造作もなイ」
「あんれまー!良い身体の上に良い性格ぅー!娶ってほしいわー」
「本当、本当!」
「…ぜ、善処しておク」
「「きゃあーー!!」」
洞窟から出た直後は徒歩で移動していた私たちだったが、道中路上にたくさんの荷物をばら撒いて立ち往生しているおばさま方二人が居た。少し警戒した私に対し、スマッシャーさんは何も言わずにドシドシと近づくと散乱した荷物らを次々と肩へと担ぎおばさまたちを手助けした。
どうも荷車に無理に荷物を積みすぎた所為で荷物が散らばったようで、バランスの悪い荷物をスマッシャーさんが担いで歩き、私とハルカさんはスマッシャーさんのおかげで空いた荷車の隙間に入り楽をさせてもらっている。
それにしても、このおばさま方は私やスマッシャーさんを見ても特に何とも思わない様で、ハルカさんの除いた今までこの異世界で会って来た女性と比較すると随分と普通であった。確かにあまり男性慣れをしている様子ではなさそうだが、男性のことを下に見るような気配はまるでない。
「…不思議かい?あの女性たちの反応が」
「え!?」
すると、ハルカさんが私の心を読んだかのように余裕のある表情でそう尋ねてきた。
「ま、まぁ…そうですね。あの人たちは私たち…というか男性に対する態度が普通というか、悪意がないというか」
「はははっ!この世に存在する女性の皆が皆男性を蔑視しているわけではないよ」
「私はハルカさんが特別なんだと思っていましたよ」
「うーん、まぁ私の男性に対する意識は確かに少し他の人とは違うかもしれないが…とはいえ、男性を格下に見ていない女性も少なくはないよ」
「…それは、やっぱりレア度の所為ですか?」
「ご名答」
私の導き出したその答えに、ハルカさんは満足気で嬉しそうな笑顔を見せた。
つまり、男性を下に見る風習の根幹はやはりレア度にあるわけである。
例えば、女性対女性の場合、パッと見では相手とのレア度の差は区別が付き難い。勿論、相手が“UR”や“SSR”ならあのローザから感じたような覇気の違いで察することもできるのだろうが、“SR”までなら正直見た目では分からない。現に私もこの世界に来たばかりの頃、おそらくカーシャちゃんを初めあの施設に居た女性のほとんどは“SR”に違いなかったが、それには殴る蹴るなどをされて初めて気が付けた。
であれば、女性対女性ではお互いに銃を隠し持った状態のようなもので、それを抜いて初めてお互いの力量が露呈する。だから、女性相手を格下に見る風習は生まれない。勿論、自分より上が存在しない“UR”だけはその例外だと言えるだろう。
次に、女性対男性の場合だが、残念なことに運命のいたずらにより男性はどんなに努力しても“R”までしかレア度は上がらないらしい。となれば、女性からすれば男性とは生まれながらの弱者であり、相手がどんな奴であろうとも、例えスマッシャーさんのようなゴリゴリの筋肉マッチョであろうとも勝てると思ってしまうのだろう。これがレア度の生み出した男性蔑視の状況である。
だがしかし、女性が男性を格下に見ることに対して1つだけ例外がある。
それは、女性が“N”の時である。“N”であれば自分より下は存在せず、周りの人は同等か多くの場合で格上である。つまり、レア度“N”の女性が見る世界は男性とほぼ同じ世界であり、そんな男性相手をわざわざ格下に見ることもないだろう。
そのレア度の低い女性たちが生み出した光景が、今、目の前に広がっている。
とはいえ、この光景は決して悪いものではない。むしろ、この光景こそが正しき世界の在り方なのである。世界はこうでなければならないのだ。
「ところで、私たちは今どこに向かっているんですか?」
ここまで流されるままに来てしまったが、私としては早いうちに元居た場所に戻らればならない。それが無駄な行為であったとしても、戻らないという選択肢は今の私にはない。
「まずは、あの女性たちにこのまま着いて行く。それでその先で旅の準備をする。イッパツもいつまでもそんな薄布一枚ってわけにもいかないだろ?」
「…そ、そうですね」
ハルカさんに指摘されて急に恥ずかしくなった。初めてスマッシャーさんに会った時は前世の記憶から彼を野蛮なオークとして認識してしまったが、片や紳士的にも大きな荷物を持ちながらおばさま方と楽し気に話をし、片や薄布一枚で荷車に乗っている。どこからどう見ても自分の方が野蛮人であり、それも相まってどっと恥ずかしくなった。
「その次に、仲間を探す」
「仲間?」
“仲間”という言葉に少し胸が熱くなった。やはり異世界ファンタジーと言えば仲間である。女剣士であるハルカさんと戦士であるスマッシャーさんときたら、やはりここは後衛系の仲間が欲しいところだ。魔法使いやシスターなんかが仲間になってくれたら戦力的にも見た目的にも申し分ない。だが、そんな面子の中で私に何ができるのであろうか…。
遊び人だろうか…?遊び人というか…ニート?
「さっきイッパツが気が付いたように、この世界の女性たちの中にもレア度が低い人も多数存在する。そして、そんな女性たちの中には男性や酷い扱いを受ける女性を救いたいって考える人達、つまりレジスタンスがいるのさ。彼女たちは力を合わせて幾つもの牧場を襲撃しては、そこに囚われていた男性や女性たちを助け出しているそうだ」
「レジスタンス…!それじゃあ、その仲間っていうのは」
「そう、レジスタンスである彼女たちに助力を求めるのさ。数は一人でも多い方がいいからね」
「成程…確かにそうですね」
「だけど、1つ問題がある」
「え!?問題!?な、何ですかそれは?」
ハルカさんの提案に光を見出したかと思いきや、彼女は自ら自分の提案に影を差すようなことを言った。
「それは彼女たちの目的と我々の目的に大きな差異があることだよ」
「差異…ですか?でも、レジスタンスの人たちもこの世界をどうにかしたいから活動をしているんですよね?」
「簡単に言えば終着点の違いさ。レジスタンスの牧場襲撃は半分男性や女性の解放が目的だけれでも、もう半分は正直言って嫌がらせなんだよ」
「嫌がらせ…つまりは、この国や社会に対して少しばかり反抗しているだけ…と?」
「そうだね。というか、それが精一杯なのかもしれないね。結局、“SSR”が出張って来てしまったら、幾らレジスタンスとはいえ尻尾を巻いて逃げるしかないだろうからさ。さて、そこでそんな彼女らが命を懸けてまで我々に付いて来てくれるか…が問題だ。相手は“SR”だけじゃない、“SSR”…いつかは“UR”とだって剣を交える日も来るに違いない。さぁ、どうする?イッパツ?」
そこまで言うとハルカさんは私に尋ねてきた。ハルカさんの目から察するに彼女は何かしらの答えを導きだしている。その上で、私を試そうとしているのだ。私の言葉がただの空論ではなく、決して譲れない思いがあると信じて、その思いを見定めようとしている、そんな目であった。
では考えよう。どうすれば命懸けの戦いにレジスタンスの皆さんが協力してくれるようになるか。
簡単な話で言えば、“目先の欲”が第一候補である。つまりは、お金や土地といった手に入れて役立つ物、利益に繋がる物だ。確かにそれで集まった者たちの統率が取れるかどうかは心配になるが、とりあえずは数は稼げる。
しかし、この案は熟考するまでもなく却下である。
理由は、前提条件としてあるべきもののレジスタンスを納得させれるだけの財力が今の私たちには無いことである。牧場を襲撃した際に得た金品や土地をレジスタンスに分配することもできるが、捕らぬ狸の皮算用、そんな馬鹿げた話に命を懸ける者はいないだろう。
次に考えられるのは“情”に訴えかけることだ。私たちが決起する前に、レジスタンスはもうこの世界の状況下で立ち上がり成果を上げている。そんな無謀とも言える行為を支えるのは信念に違いなく、欲で動いている者は少ないと感じられる。であれば、熱く説得することでレジスタンスの心を動かし、私たちに同調してくれるかもしれない。
ただ、この案は得策ではない。
一番の問題点は、私たちに革命するだけの力がないことを曝け出してしまっていることだ。どんな困難な場面であっても人々は力強く導く者が現れれば、その者について行き思いもよらぬ戦果を上げることもできるだろう。だが、逆にそのようなカリスマのある人物が現れない限り、誰しもがその場に踏みとどまってしまう。
つまり、レジスタンスを勧誘する私たちは彼らよりも優位な存在であり、彼らがついて来るだけの魅力を持ち合わせてないといけない。
それこそ“SSR”や“UR”のような女神様に裏付けされた絶対の魅力があれば…。
そこまで考えて、私は私の考えを恥じた。
レア度という概念を嫌い、それを何とかしようと立ち上がり、考えに考えた結果、結局は同じレア度に頼らざるを得ないという発想しか出ない自分を恥じた。
しかし、この発想は恥ではあるが悪くはない。
私は自分の両手を見た後に、答えを待つハルカさんに口を開き、思いついた案を説明した。その案にハルカさんは一瞬意外そうな顔をした後に、いつもの余裕のある笑顔に戻るとこう言った。
「いいね」
ただそれだけの短い言葉ではあったが、何故か凄く励まされたような気がして、私はレア度に支配された世界を革命するためにレア度を使う策でレジスタンスを納得させようと決意した。
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