第12話 オークと学ぶ、この世界の種族と国家について

「さてさて~、何から話そうかな…」


「ちょっと待ってください。1つどうしても気になることが…ハルカさんのさっき言った私たちの“たち”はハルカさんと…スマッシャーさん?」


話の本題に入る前に先程から凄く気になっていることがあり、私は失礼ながらも挙手してハルカさんの話を遮った。


「私たち」


私の質問に屈託のない笑顔で自身とスマッシャーさんを交互に指差すハルカさん。


「ハルカさんと…スマッシャーさん」


「そう、その私たち」


「そのお二人で私を助けてくれた…と」


「そうそう」


「ハルカさんが川で私を発見し、スマッシャーさんが引き揚げ洞窟に連れて行き、ハルカさんが裸で温めてくれた…ですよね?」


「ううん」


「…え?」


「私が川でイッパツを発見して、私とスマッシャーで君を引き揚げて洞窟に運び、私とスマッシャーで君を温めた。だから、私たち」


「…スマッシャーさんも私を温めた?」


「うん」


「裸で?」


「勿論」


Oh…。


もし異世界に行ってオークと裸で同衾した経験のある人がいれば、是非とも連絡先を教えていただきたい気持ちになった。間違いなく、私とその人は意気投合できるそんな気がした。


「俺たちオークは体温が高いからナ。貴様らヒューマを温めることぐらい容易イ」


「うん…。あ…うん、その節は…本当に…ありがとうございました」


「質問はそれだけかな?」


「あ、はい。すいませんでした。本題に入ってください」


裸で寝た者同士、この二人とぐっと心の距離を縮められた。…そう結論付けることにして、私は本題に入ってもらうようにハルカさんを促した。


「じゃあ、丁度ヒューマやオークの話も出たことだし、この大陸に存在する種族について大まかに説明しようか。それでいい?」


そのハルカさんの提案に異論はなく、私はこくりと頷くと彼女の説明が始まった。


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この大陸で生活を営む種族は大きく分けて5種存在する。


先ずは、『天人族』のヒューマである。ヒューマには男女の性別があり、その比率はほぼほぼ一緒だ。大陸上で最も数の多い種族であり、その外見や髪の色、瞳の色、背丈などは分布する場所で多少異なるが大きな違いはない。

その見た目はこの世界を創造した女神に酷似しているらしく、他の種族とも比べても知能も高く、単純な力の差では多種族に劣るかもしれないが道具や結束力で力強く反映し、今では大陸の広い場所で実権を握っている種族となっている。


次に、数の多さでいえば『獣人族』のビースターが続く。ビースターもヒューマと同じで男女の性別を持つが、その外見的特徴で区別するのであれば多種多様の姿がある。多く見られるのが犬の特徴を持つ『犬人』や猫の特徴を持つ『猫人』であり、中には『蜥蜴人』や『鳥人』、『魚人』などもおり、最も珍しいのは『竜人』だと言えるだろう。

ビースターはそれぞれで見た目が大きく異なるが、その身体的ポテンシャルに関しては皆高水準であり、彼らは自身の特徴である動物に体を近づけることで生身でも強力な戦闘能力を兼ね備えている。


その次に数の多い種族は『土人族』のドワーフである。彼らもヒューマやビースターと同じで男女の性別を持つが、比率で言えば男性の方が多い。身体的特徴は低身長であり、男性のドワーフはごつごつとした筋肉と生え散らかした髭が印象的である。一方で、女性のドワーフは高身長から低身長まで様々であるがやはり男性と同じく筋肉質な肉体を持つ。

ドワーフのほとんどは山で生活しており、それ以外の場所で彼らに遭遇することはあまりない。逆に、縄張り意識が高いので不用意に近づくと攻撃的に排除しようとしてくるので注意が必要である。


続いて、『戦人族』のオークである。彼らはヒューマやビースター、ドワーフとは違い男性しかいない種族である。単純に知能や技能、筋力などを個別に見ればヒューマやビースター、ドワーフにやや劣るが、その全てが高水準にあるおかげで戦闘に特化した種族となった。かつてはどの国家間の戦争にも必ずオークは参加しており、彼らの数の差が勝敗を分けるとまで言われた根っからの戦闘種族でもある。

ただ、そんなオークの弱点はなんと言っても繫殖能力の低さであり、どうしても多種族の力を借りないとその種を残すことはできない。そんな中でかつて大陸全土で戦争が起こっていた時代においてやむを得ずに多種族を襲っては女性を攫っていたオークの姿がしばしば見られたために、今ではその多種族の女性を攫う印象ばかりが強く持たれてしまった不遇の種族でもある。


最後に、最も数の少ない『精人族』のエルフである。他の種族は幾つかのコミュニティを大陸中に点々と持つが、エルフのコミュニティは大陸に一つしかない希少な種族だ。ヒューマと同じで男女の性別を持つが、その比率は女性の方が多く、男女ともに細長い耳を持ち皆見惚れるほどの美形である。

他の種族と比べると身体的な特徴では劣るが、知識や知能はずば抜けて高く、これまで細々と、しかし決して滅びることなく逞しく生き延びてきた。また、エルフのコミュニティについては大陸の何処にあるのかは判明しておらず、エルフ自身も他種族と交流を持とうとしないので一生涯の内でエルフに会える者はごく僅かしかいない。


以上の『天人族ヒューマ』、『獣人族ビースター』、『土人族ドワーフ』、『戦人族オーク』、『精人族エルフ』の5種族が大陸に存在する代表的な種であり、しばしばヒューマを“人間”と呼称し、他の種族をまとめて“亜人”と呼ぶのがヒューマの習わしである。


その他に、イレギュラーの存在となるが『魔人族デモンズ』と呼ばれる者たちもいる。彼らは時にヒューマやビースター、ドワーフ、オーク、エルフの全ての種族から突如として生まれ、無差別に厄災を齎す病気や災害のような存在である。

彼らはかつてこの大陸に居た魔王の残した呪いでもあり、必ず常に6体のデモンズがこの世界に存在してたとえどれかが死んだとしても、また何処かで新たなデモンズが血筋とは関係なしに生まれることとなる。


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「ちょっと待ってください」


「おや?何か分からないことがあったかな、イッパツ?」


正直異世界用語のオンパレードで説明していることが何一つピンとこなかったらどうしようかと不安に思っていたが、レア度といいオークといいどこぞソシャゲで使われているような言葉しかなくて逆に頭を悩ませていたが、最後の魔王という言葉には流石に口を挟まずにはいられなかった。


「魔王ってあれですか?魔物の王みたいな?ということは勇者とかもいるんですか?」


「へー、記憶喪失って割にはそこは何となく覚えていたんだね」


そう意外そうな顔をすると、ハルカさんはこの世界の勇者と魔王の話とそれに合わせて大陸に存在する4つの国の話を始めた。


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魔王と呼ばれる存在がいつ、どこで、どこから生じたのかは定かではないが、遥か昔、まだ現在の大陸を支配する4つの国が建国する前、大陸の北部では中、小幾つもの国々が争いを続けていた。そこに突如として数万を超える魔物の軍勢が現れ、彼らは次々に各諸国を崩壊させていき、その中心にいた人物が“魔物の王”つまりは魔王として恐れられるようになった。

数年も経たずして大陸北部にあった国々は崩壊し、大陸北部のほとんどが魔物が跋扈する大地となってしまった。それに危機を感じた残りの大陸西部、南部、東部の国々は小さな領地の奪い合いなどの小競り合いを止め、それぞれがその当時もっとも権力のある国へと合併し、そして現在の大陸西部、南部、東部を支配する3つの国の基盤が出来上がったのである。

大陸西部の国の名前は「サイハテ」。元々この土地に住んでいたヒューマと大陸北部から逃げてきたヒューマの種族が合併し、ヒューマが支配する大国となった。

大陸南部の国の名前は「ジャバンナ」。ヒューマを始めとしビースターやオーク、ドワーフといった様々な種族が合併し、多種多様の種族が支配する大国となった。

大陸東部の国の名前は「ワノクニ」。小国ながらも精鋭のビースターが揃ったビースターの支配する大国となった。

以上の3国が同盟を組んで魔王軍と対決することとなったわけだが、それで簡単に勝てる相手ではなかった。そこから長い戦乱が続き、突破口を開けないままに同盟3国が魔王軍の侵攻を止める巨大な城壁を大陸中央に建設するという弱腰な戦略を掲げる中、一人の少女が立ち上がった。その少女こそが勇者の呼ばれる存在である。

少女の名前はアンリといい、そんなヒューマの少女はビースター、オーク、ドワーフ、エルフのそれぞれの種族の仲間を引き連れ大陸北部を次々に解放していった。その雄姿に感化された3国は勇者を援護する形でそれぞれが大陸北部へと進攻し、最後は全ての国と種族の力を合わせて切り開いた活路を突き進み、勇者アンリは魔王を討伐、生き残った魔物も次々に滅ぼされ大陸に平和が戻ってきたのだった。

そして、その後、3国は勇者アンリの功績を称えて大陸北部の復興の代表者として彼女を選出し、彼女はそのまま大陸北部全土を支配する大国「グロリアスパルダ」の女王となり、現在においてもその勇者の血を引き継ぐ者が「グロリアスパルダ」の王族として国を支配している。


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「…とまぁ、大体はこんなところかな。それで、私たちの居るこの場所は話にも出た西側を支配する国『サイハテ』の端っこってわけ」


「成程…」


正直、魔王やら勇者やらはファンタジー世界なら特段驚くべき存在でもないし、それが昔の話というのであれば現状の問題にはあまり関係のない話のように思えた。


「ん?でも待ってくださいよ。その時からレア度はあったんですよね?」


「レア度自体はこの世界に私たちが生まれた時からあったんだよ。だからその当時も当たり前にあったんだろうし、伝説によると勇者御一行は皆“UR”の持ち主だったとか」


「じゃあ、そのレア度が今みたいな…。男性だけ“N”や“R”しか授からなくなったのはいつなんです?」


「それは…」


すると、今まではきはきと答えてきたハルカさんが顎に手を当てて言い淀んだ。それは、記憶を思い出しているというよりも何やら言いにくそうな様子だった。


「魔王が死んで勇者アンリが『グロリアスパルダ』を建国した後、勇者アンリが女神様に願ったんだよ。“この世界に生まれ落ちる雄の性を持つ種族に、未来永劫高いレア度を授けぬように”…って」


「…え?」


女神様に願うといった件は、まぁファンタジー世界なのだから突っ込んだところで仕方のないことだったが、勇者がこの今の世界を望んだという点に疑問を抱かずにはいられなかった。


魔王を倒してこの世界を救った勇者がこの女尊男卑の歪んだ世界を築き上げた。果たして彼女は何のために、何の思惑があってこんな世界を望んだというのか。


今の私にはそれは全く理解できないことであった。

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