第7話 男女逆転※性転換って意味じゃないよ

「貴様らぁ!!一体何をしている!!何故柵から勝手に出ている!!」


その時、パンイチの男性だけが集められた家畜小屋に女性の怒号が鳴り響いた。


異世界にやってきた私に与えられた異能の力“リロール”を駆使すれば、生きとし生ける男性にとって地獄でしかないこの世界を変革できる。それを他の男性たちにも理解してもらい、やっとこれからと始まるといったタイミングで早速最初の難関が立ちふさがった。


当初の予定であれば、先ずここに集められた雄ブタと女性たちに蔑まれる男性たちをリロールして彼らのレア度のランクを“N”から“R”以上に上げ、戦力が整ったところで一気にこの牧場と呼ばれる施設を制圧する魂胆であった。


だが、その準備もままならぬ状態で異常を察知した女性監視員たちがこぞって家畜小屋へとやって来てしまった。


「カーシャ!また貴様かっ!施設長である私の許可なしに雄ブタども好きにするなといつも言っているだろう!!」


「ち、違うんです!ビローゼ様!こ、これは…!!」


「言い訳するな!…やはり貴様はレア度だけで選ばれた所詮は辺境出身者のようだな。そんなに雄ブタどもに囲まれるのが好きなら、貴様は今日から雌ブタ送りにしていやる。そこで好きに雄ブタとまぐわって孕むといい!!」


「そ、そんな…雌ブタなんて…!」


「…チッ!何をいつまでぼさっとしている雄ブタどもっ!!理由はどうであれお前たちには仕置きを決行する!!領主様の遣いの方々が来られるまで、お前たちを徹底的に躾直してやる!!」


こうなってしまった以上、最早考える余地はない。


どかどかと乱暴に家畜小屋に入り男性たちを取り押さえていく女性監視員たちを横目に、私はタクジさんへと駆け出して自分の右手を彼の胸へと押し当てて叫んだ。


「リロール!!」


あの“鑑定紙”と呼ばれる異世界アイテムに書かれていたことを信じるのであれば、私の右手には『上方修正アッパー』の効果、触れた者のレア度を上げることができるはずだ。


となれば、レア度が“R”のタクジさんであれば“SR”以上に成長するはずであるし、この中では一番の肉体派でもある。レア度と身体能力、それが合わさった時にこの状況を打開できる策が生まれると信じ、私はタクジさんに託した。


「「……」」


しばしの静寂、見つめ合うパンイチの男二人。しかも片方の男はもう片方の強靭な胸筋に手を触れている始末。このままこの男二人に何も起きないわけなく…というか、実際に何も起きた感じがしない。


「お、終わりか?」


「…おそらく」


もっと派手で神々しい演出があってもいい気がするが、どうやらこれ以上のものはないようだった。何とも発動したのかどうか分かりにくい能力である。


「だぁっ!!一か八かだっ!!こうなったらお前を信じるぜ、イッパツ!!」


確証も得られぬまま、状況が手遅れになる前にタクジさんは覚悟を決めると女性監視員たちへと駆け出した。


「ビローゼ!!今日でお前たちの支配から抜け出してやる!!」


「“ビローゼ”だと?“様”を付けろ雄ブタ野郎ぅっ!!」


タクジさんが拳を突き出し、ビローゼが持っていた鞭を振るう。


そして、拳と鞭が衝突した瞬間、そこからまるでアクション漫画の様な衝撃波が生まれ、周りの女性たちはたじろぎ、男性たちはモブのように辺りへと吹き飛んでいく。


まさに異世界ワールドといった迫力のある光景に驚いたが、他の人たちは私とは異なる理由で驚いていた。


「な、なんだと!?雄ブタの癖に私の鞭を受けきった!?」


本来であれば虫を払うが如く、男性などは軽く払うだけで吹き飛ばせて当然だったようだが、その目の前に立つ筋骨隆々の男は微動だにもせずに無傷でその場に立ち尽くしている。


その光景に夢でも見ているのかと唖然とするビローゼの一方で、タクジさんは自らの拳を見つめ半信半疑だったレア度上昇がその身に馴染んできたのを実感しているようだった。


「は、ははははっ!!いける!いけるぜ、イッパツっ!!」


私に感謝と喜びの声を上げると、タクジさんは拳を構えて、今度は地面目掛けて振り下ろす。


「『アースシェイク』!!!」


「「「きゃああぁぁぁっ!!!??」」」


タクジさんの振り下ろした拳は軽々と地面を粉砕し、隆起した地面は波となって女性監視員たちへと襲い掛かり、ビローゼ共々彼女らを家畜小屋から押し流した。


「イッパツ!!今の内に他の奴らをリロールしろ!!このスキルがあればいける!あの女どもと戦える!!」


それだけを言い残すとタクジさんは意気揚々と家畜小屋を飛び出して、吹き飛ばされた女性監視員たちへと追い打ちを仕掛けに駆け出した。


しばし皆がポカンとした顔をしていたが、現状の理解が追い付くと今度は我も我もと家畜小屋に閉じ込められていた男性たちは我先にち私の下へと殺到した。


こんなに多くの男性から求められるのも、その彼らの胸筋に触れたのも前世も含めて初めて経験ではあったが、私は流れ作業で彼らをリロールすると、彼らは次々に勇猛果敢に家畜小屋を飛び出していた。


そして、最後の一人をリロールした後に家畜小屋を出ると、晴れやかな晴天の下、パンイチの男たちは喜びに天を仰いで涙ながらに叫び、一方で多くの女性たちは未だに信じられないといった表情で荒縄で拘束されていた。


遂に、男性が女性に勝てる日が、男女逆転の日が到来したのであった。

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