第4話 要するにソシャゲみたいな世界観ってこと

「さてと…何から話したもんかね…」


上半身裸の男ばかりが詰め込まれた家畜小屋のような場所。その一角に設けられたおんぼろな柵の中で、パンイチの男4人が顔を見合わせて話し合う。


何とも不思議な光景であったが、今はこの話こそが今後の私の人生を大きく左右するのだろう。他の3人が語ってくれるのをただただ待っているだけではいけない。私は逸る気持ちで口を開いた。


「すいません。自分は名前以外は本当に何も覚えていなくて、まずはこの有様を教えてもらってもいいですか?なんで男性だけがこんな場所に隔離されているんです?」


異世界の事情は知らないが、この現状はどう考えてもおかしい。どうして男性ばかりがこんな家畜小屋のような場所に居るのだろうか?彼らは何かの罪人なのだろうか?


そう思っての質問だったが、意外にもタクジさんたちは不思議そうな顔をしていた。


「えーっと…まずは俺たち男は女たちに逆らえないってことは…覚えているのか?」


「逆らえない?それは権力という意味でですか?」


「あー成程…まずはそこからか…」


皆の反応を見る限り、どうやら私はこの世界における根本的な常識というものを理解していないらしかった。


「これからすごーく当たり前のことを言うが、たとえ覚えているところがあっても口を挟むなよ…恥ずかしいから」


私は黙って顔を縦に振る。こちらはこことは違う世界から来ているのだ。元から覚えていることなど何もない。


「まず、俺たち人間は生まれてくる際に女神の加護を受ける。それが“レア度”と言われる聖痕だ」


そう言うとタクジさんはちょいと自身の鎖骨の辺りにぼんやりと見える痣をトントンと指差した。私もそれにつられて自分の鎖骨周辺を探したが、そのような痣はなかった。


「このレア度が刻まれる場所は人それぞれだ。手の甲や胸、背中…人によっては尻に出来る奴もいるらしいが…まぁいいか」


「それでですね。そのレア度は人の身体的能力を向上させ、またランクによっては人智を超えた能力を得ることが出来るんです。このランクは下から順に“N”、“R”、“SR”、“SSR”、“UR”と呼ばれ、後に述べた方に進むにつれて身体的能力の向上と特殊な能力が強化されていくんです」


成程。薄々は気が付いていたがやはり私が元々居た世界のゲーム内の設定がこの世界では常識として存在するようだ。つまりは、私はこの世界の女神様が決めた優劣の中では最下位から1つ上がった程度なのだろう。


「簡単にそれぞれのランクの差を説明いたしますと、その差が1つ差なら不可能とまではいいませんが相手に対抗するには数が必要になります。」


今度はタクジさんに変わって説明するコリアさんの説明に集中する。おそらくここからが重要な点である。


「そして、その差が2つ差なら…たとえ束になったとしても上位者からすれば雑魚当然。スキルを使用しなくても肉体差だけで一薙ぎで片が付くでしょう。それが“我々男性と女性の間にある絶対的な差”なのです」


つまり、どこからどう見ても私よりも細い腕と脚をしていたあの監視員の女性たちの一撃があんなにも痛かったのにはそういう理由があったのか。今の説明からすると彼女たちのレア度は私以上、私が一撃で肉片にならなかったということは“SSR”や“UR”というわけではなさそうだが…。


「…ちょっと待ってください。確かにここにいる我々のレア度のランクは彼女たちよりも低いかもしれませんが、ここ以外になら“SSR”や“UR”の男性もいるんでしょう?なら、男性と女性の間にある絶対的な差という程ではないような気がするのですが…」


自分でそう質問しながら、ふと嫌な予感が脳裏を過り、まさにそれは的中した。


「ありゃりゃ、それも覚えていないのかー。知らぬが仏とは言うけど…」


「イッパツさん、残念ながら男性にはレア度ランク“SR”以上の人は存在しません」


「い、いないって…世界中の何処にも?」


「いねぇよ、例え草の根掻き分けて必死に探してもな。“SR”以上の男なんているわけがねぇ。男は生まれながらにして女に負けるのが決まった生き物なんだよ」


落胆した。いや、これは絶望と言っていい。


たとえこの異世界がありふれたゲームのような設定の世界観であったとしても、それはあまりにも男性にとって酷過ぎるのではないか?生まれながらにして敗北者であるならば、どうやって生きていけばいいのかと問いたい気持ちでいっぱいだった。


だが、その答えこそが今私の居るこの場なのだろう。


生まれながらにして決められた性別の優越。支配する性と支配される性。その結果が生み出した男性だけが収容されたこの家畜小屋のような粗末な場所。


ここがこの世界の男性が生きる場所なのだ。


「それじゃあ、男性は生まれてからずっとこんな場所に閉じ込められているんですか?」


「まぁ、それは国によって多少の違いはあるだろうけどな…。この辺だと牧場暮らしは基本だな」


「牧場暮らし」と聞けば何やら牧歌的で長閑なイメージではあるが、飼育されているのが我々男性となれば心穏やかではない。


「それで、この牧場で私たちはどうなるんですか?」


あまり聞きたくはない内容であったが、もう聞かずには要られない。


「まずは“N”から“R”への成長が主ですね。どこに出荷されるにしても“R”程度の能力がなければ働くこともままなりませんしね」


「レア度のランクというのは上がるものなんですか?」


「我々男性もたまにですが上がります。それこそ私たち3人のようにね。肉体労働、肉体奉仕…心身を追い込むほどランクが上がるといいますが…、正直根拠はないでしょうね」


「その点、女性は生まれた時から大体“R”だか“SR”だかあって、ちょっと努力すれば“SSR”だって夢じゃないんだから不公平だよねー」


「そんで話は戻るけど、この牧場で“R”になった奴は他の場所に出荷される。大体は権力者に売られてそこで死ぬまでここ以上の肉体労働だな」


「私は…肉体労働件、オス奴隷の治癒でしょうか」


「あー、僕は肉体奉仕だろうなー」


「あとは…」


そう言うと皆の視線が私に集まった。それと同情するような眼差し。


あとの仕事は、おそらく玩具であろう。日頃の憂さ晴らしとして、何の役にも立たない男をいたぶって楽しむのだろう。そして、万が一に死ぬようなことがあったとしても、代わりは幾らでもいる…そういうことだろう。


「まぁ…なんだ…。短い付き合いだけど、ここに居る間は俺らはイッパツ、お前の味方だからな!」


「まだ他に知りたいことがあればお話しますよ。それで記憶が戻れば…いいですね」


「僕は明日の餌を少し分けてあげる!」


皆の優しさが身に染みる。これだけがこの世界での救いかもしれない。彼らにはたとえ襲われても構わない。喜んでお尻を捧げよう。


「…おい」


「「「!?」」」


いつの間にか男性同士で和気あいあいとし、パンイチながらも心は温まり始めたその時。突如、氷で出来たナイフのように鋭く冷たい言葉が私の背中にぐさりと刺さった。


恐る恐ると振り返る。


すると、そこには先ほど私を私刑した女性の一人が立っていた。嬉々として私の腹を蹴り飛ばしていた小柄な女性だ。


「出ろ、ブタ」


「カ、カーシャ様…我々“R”ランクは出荷されるまでは手出し無用のはずでは…」


「あぁ?他の雄ブタは黙っていろっ!用があるのは新しく来たブタだ!ほら、早く出て来い!」


カーシャ様と呼ばれるその小柄な彼女に言われるがまま、私は柵の外に出た。


そして、心配そうに見守るタクジさんたちの視線を背中に感じつつも、薄暗い廊下をカーシャ様の後ろについて歩き出す。


出荷されるまではもう何もされない…はずだったのでは?

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