第3話 意外と理解しやすい異世界の設定はありがたい

「いいか、明日には迎えの方々が来られる。それまでここで他の男どもと一緒に大人しくしているんだ!」


「逃げ出そうなんて考えるなよ~。まぁ、私らとしては逃げ出そうとしてくれた方が言い訳出来てまたボコれるから歓迎だけど、あははは!」


先程のよってたかって私刑された場所から引っ張られること数十秒、私は何やら家畜所のような場所へと連れて来られた。ここは薄暗く、汚く、そしてほのかに汗臭い。


私をここまで連行して来た彼女らの服装や施設の様子から見るに、明らかに私が生きていた世界と比べて文明は低そうである(パンイチの私が言えることではないが…)。地球の歴史から比較するとよくて中世の時代の文明水準といったところであろうか。ただし、会話の中に出てきた“すきる”やら“れあど”などの言葉を聞く感じと私の体が自然治癒したことに対する反応からも、俗に言う魔法やそれに類するものがあるとみて間違いはなさそうである。


「いやー、困った…。どうしたものか…」


私を私刑した彼女らの言葉を信じるのであれば、これ以上変な気を起こさない限りは彼女らに危害を加えられる心配はないということになる。ただし、時間が来れば私を何処かへと輸送する者たちが現れ、おそらくその輸送先で私はこの国の女王?に死ぬ程の拷問をされるようだ。


しかも、幸か不幸か私には中途半端な治癒能力があるせいで、おそらくは他人より死ににくい体になってしまったようだ。普通のRPGならありがたい話なのだが、一方的に痛めつけられるこんな状況でならこれ以上の地獄はない。


地獄…。


あの女神様が地獄と言ったのはこのことだろうか?死んでも死にきれない体で、一方的な暴力を受け続ける。おそらく体は死ぬことはなくとも、たぶん心がじわじわと死んでいくのであろう。


困ったものだ。前世で数人の女性と関係を持っただけでこの様な始末であれば、前世で殺人や放火、大罪を犯した人間はどれほどの酷い目に遭わされているのだろうか。彼らが私以上の酷い目に遭ってくれていないと割に合わないという話だ。


「…おい。おい!あんた大丈夫か?」


「おや?あなた方は?」


家畜小屋の様な広いが粗末で薄暗い小屋の中、気が付けば私がぶち込まれた柵の中には他にも男性たちの先客が居た。天井からぶら下げられた微かな蝋燭を頼りに目を凝らすと、近くには3人の男性が居ることに気が付いた。


「さっきの悲鳴…あれ、あんたの悲鳴だろ?」


「いやーお聞き苦しいものを聞かれてしまいました…」


「何を呑気なこと言ってんだ。怪我…とかはないのか?」


一見強面な筋肉質の男性が心配そうに私の体を見渡したが、そこにあってしかるべき傷がないことに少し不思議そうな顔をしたがすぐに納得した表情に変わる。


「そうか、あんたは自己回復系のスキルか何かなんだな。可哀想に…」


その話を聞いて、また闇の中から男性がひょっこりと顔を出す。今度は真面目そうな顔をした男性である。


「傷が癒えているということは私のスキルの出番はなさそうですね。とは言っても、私のスキルで癒せるのはかすり傷と筋肉痛ぐらいですが…」


「何言ってるんですか。コリアさんの回復スキルのおかげで、僕たちは助かってきたんですから」


そして、同じ柵仲間の最後の一人が自然な流れで私の近くへと集まった。


ぽっちゃりした私に、筋肉質な男性、真面目そうな男性に最後は美形の男性。


家畜を飼育するような簡素な柵の中に集められた顔立ちや体格も全く違う4人の男たちであったが、共通する点が1つあった。


皆、パンイチである。


…これがこの世界に住む男性の普段着なのであろうか?ともかく、パンツ一枚しか着る物がない私にとっては逆に好都合とも言える。


「えっと、こんな姿でなんですが自己紹介を…私は佐藤壱発と言います」


「サトウイッパツ?不思議な名前だな。俺はタクジ」


「私はコリアです」


「僕はミナナ。この中だと最年少、よろしく~」


筋肉質な男性がタクジさん、真面目そうな男性がコリアさん、美形の男性がミナナくんというらしい。皆さんの名前を聞いた後だと、私の名前は明らかに浮いてしまった。苗字がないのがこの世界の通説なのだろうか。


「すいません。私が居た地域ではこう呼ばれていたのですが、長いのでイッパツでお願いします」


「それではイッパツさん。あなたは何処から来たのですか?見た感じですと他の“牧場”から逃げ出して来た…ようには見えませんが」


また“ぼくじょう”という言葉が出た。おそらく豚や牛、羊、馬などの家畜を飼う“牧場”のことだろうが、この世界では人が住む場所を牧場とでも言うのであろうか。


「それが…あまり明確に覚えていなくて」


「覚えていない!?おいおい、記憶喪失ってやつか?」


「何か目的があってこの付近まで来たはずなんですが、あの方々に殴られたり蹴られたりする内に…自分の名前以外を上手く思い出せなくて…」


多少無理がある設定のような気がしたが、おそらく異世界という単語を出してもピンと来てもらえなさそうであるし、一先ずはそういうことにしようと咄嗟に思いついた。


「それで、皆さんには申し訳ないのですが、我々が置かれている状況やこの場所や私を私刑した彼女たち、それに“すきる”や“れあど”といった話もお伺いできると助かるのですが」


「マジか、そんなことまで忘れてしまったのか!?全くあいつら男にはひでぇことしやがる…!よし、分かったイッパツ!どうせ夜は長いんだ!俺たちが分かることなら何でも教えてやるよ!」


そう意気込むタクジさんと、その両隣で頷くコリアさんとミナナくん。


どうやら異世界にて巡り会った女性は酷い方ばかりであったが、男性は良い方々と出会えたらしい。


そうして、私の異世界での一夜が始まろうとしていた。


まずはこの世界について理解しなければならないだろう。

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