第2話 異世界で男は生まれながらにしてブタ
眩い光が徐々に薄れ、漸く視界が晴れてくると、そこには美しい女性たちが居た。皆身なりは整っており、軍服にも似たお揃いの制服を着ている。
「……」
そんな彼女らは床に寝そべる私を冷ややかな目で見下ろしながら、何も言わずに私を取り囲んでいる。
「…あ」
おそらくここが女神様の言う異世界なのだろうけれども、とりあえずは人里離れた森の中や人喰い動物たちの巣でないことにほっと一安心し、言葉が通じるのかは分からないが異世界人との初めての交流を図ろうと口を開いたが、私の口から音が出るよりも早く側で控えていた女性の右脚の先が私のお腹に減り込んだ。
「んほぉおおおっ!!」
死にはしないが死ぬ程痛たい痛みに身を捩ったが、その時初めて自分が後ろ手に拘束されていることに気が付いた。
「ごっ…ごほっ!?ま、待って…っ!!話を…っ!!」
一体自分が彼女らに何をしたのかは全く見当もつかないが、どうやら彼女らの機嫌を損ねてしまったのかもしれない。
必死で謝ろうと口を開こうとしたが、1人遠くでじとっとした目で見つめる女性を除き、そこに居た残り3人の女性は寄ってたかって私を殴って蹴って踏みつけた。
「あはははっ!!喋るんじゃない!!このブタがっ!!」
「男であるお前が、私たちと対等に話せるとでも思っているのか!!」
「その頭にも脂肪がたっぷり詰まっているんじゃないのか、なぁっ?」
「んほぉおおおっ!!」
「「「あははははっ!!」」」
どうやら彼女らは怒っているわけではないようだった。日頃の鬱憤でも晴らすが如く、私をサンドバッグにして憂さ晴らしをしているような雰囲気であった。
それに、会話は成立していないが彼女らの言っている言葉は理解できる。それが日本語なのか都合よく異世界語が私の脳内で変換されているのかは置いておき、つまりは言葉が通じる相手で助かった。
とはいえ、相手にはこちらの言葉を聞く様子はない。
「…よし、教育はその辺にしておけ」
全身の痛みで気が遠くなり、口の中が血の味でいっぱいになった段階で、私の私刑に関わっていなかった最後の一人が他3名の女性を制止してくれた。いつの間にか壁際まで蹴り飛ばされて動けなくなっていた私に近づくと、彼女は片膝を付いて私の顔を覗き込むと軽く私の頬を叩いた。
「貴様、どこから来た?」
これは異世界に飛ばされた人間に尋ねられる王道の問答なのかもしれない。
「どこから来た?」→「異世界から来ました」→「何を馬鹿なことを言っている!」→ビシッ!バシッ!のパターンである。
なので、これ以上殴られたくない私はそこは曖昧に答えることにした。
「と、遠く…から…来ました…」
「“遠く”?何を馬鹿な事を言っている!どこの“牧場”から抜け出してきたのかと聞いているんだ!!」
「んほぉおおおっ!!」
どちらにせよ顔を殴られた。先程の私刑の所為で痛みは然程ではないが、とうとう視界までもが歪んできた。
「こいつ、管理番号の焼き印もないですし、もしかしたら“野生”の可能性もありますよ」
「え!?嘘!?“野生”の男なんて初めて見た!!」
後ろでよく分からないことをきゃいきゃい話す女性たちを放って置いて、目の鋭い監視員のような女性は私の体をじろじろと確認した後でスッと立ち上がる。
「どちらにせよ、男は管理対象だ。適当に小屋にぶち込んでおけ」
「えぇ~!せっかくの新顔ですし、もう少し痛め付けてからでもいいですか?」
「そうですよ、見てくださいこの顔と体形。肉体労働なんてできやしないですし、慰安夫なんてもっての外!私たちのストレス発散のための肉袋が丁度いいですよ!」
何やら不穏な会話をしている女性たちの話を聞きながら血の気が引く思いであったが、そこでふと自分の体の変化に気が付いた。
なんと先程まであんなにも痛かった体の痛みが無くなっている。それにあれだけ鉄の味がした口内もいつの間にかきれいさっぱりに完治していた。
そして、その変化に気が付いたのは私だけでなく、そこに居た4人の女性たちも驚いた顔をし、互いに顔を見合わせている。
「こいつ…スキル持ちだったのか!?」
「これは自己回復系ですかね。“レア度”は…“R”くらいはありそうです」
「…だとすれば我々が好きにはできないな。こいつは王都へと献上しなければ…」
どうしてか傷は自然に完治したし、彼女らの話からはどうやら私刑も免れることもできそうでほっと一安心した。
「どんなに傷つけても勝手に治る男なんて、女王陛下はさぞお喜びになるぞ」
「女王様は男を再起不能になるまで痛めつけるのが大好きですからね」
「磔、鞭打ち、水責め、睾丸潰し…あーあー、一体どんなことをされるのやら」
…安心したのも束の間。どうやらこれから今よりも酷い処遇が待っているようであった。
早くこの状況を何とかしなければならない。
だが、何とかしたくても何ともならないのが今の私の状況でもあった。
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