第2記 蒼戦士への道

 身寄りも分からない僕の所に見舞いに来るのはカミヤ一人のみだった。退屈な日を過ごして退院することになった。

 一時的にカミヤに引き取られる。病院では引き続き僕の戸籍や親戚などを探し続けてくれるようだ。


「さあ、行くぞ。忘れ物はねぇか?」


 彼はそそくさと外へと出た。

 太い幹のイチョウの下に滑車のついた荷台がポツンと置いてあった。彼はそこへ荷物を置いていく。

「ほら、アンタも乗れよ」

 自分で歩けるのに。少し躊躇っていたが、彼がそれでも強引に乗せようとしたので根負けし僕は荷台の上に乗った。

 重いだろうに、心の片隅でポツリと罪悪感の根が生えてきた。


「じゃ、やるか。『軽くなれ』」


 一言。たった一言の後、ふと体が軽くなった気がする。あまりの出来事に驚きを隠せない。

「言霊についても忘れちまってんのか。こりゃあ、教えがいがあるなぁ」

 軽々と運ばれていく。

 軽くなれ、その一言で僕や荷物は軽くなったのだろう。


 人里離れた山奥に向かう。黄色と赤の葉っぱの雨をかき分けて進みゆく。幾ばくか歩いてようやく目的地へと辿り着いた。

 山奥のひっそりと聳える家。外見はシンプルな造りだが、内装は外見と比べると相当豪華であった。


「ここが俺の家だ。とりあえず、ただで住ませてやる代わりに条件がある」


 何か悪い笑みを浮かべているかのように頬が緩んでいる。恐る恐る「条件」とオウム返し。


「俺ァ、昔、蒼の国で一世風靡した蒼戦士なのよ。蒼戦士っちゅうのは、蒼の国を背負って戦う兵士達の中でも優秀な部隊で働くもののことよ」


 吹く風が木々を靡かせる。


「それに今も蒼戦士なんだよ。それで条件ってのはここにいる間は蒼戦士目指して修行に励むことだ。俺がビシバシ鍛えてやるからよ」


 マジかと言いたいけど文句など言える立場ではなかった。ただ、彼からは優しさが漏れていて悪い気にはならなかった。


「まあ、まずは病院食に飽きてたろ。退院祝いのご馳走振る舞うから、家ン中で待ってろ」


 使われなくなった部屋へと導かれた。そこは雑貨物がわんさか溢れる部屋だったが最低限そこで暮らせる程には綺麗に片付けられている。

 そこが、これから僕の暮らす部屋となるのだ。部屋を片付けながらご馳走が完成するのを待っていた。

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