第2話 私♂→私♀
「……生き返っちゃったものは仕方ないですよね……」
催眠魔術とやらをかけられ、眠ったかと思えば再び暗闇の中にいた。
目の前に「誰か」がいるのは分かるが、姿も見えなければ声の年齢や性別すら判断がつかない。
「んー……どうやら並行世界で同一の魂が同時刻に死にかけたせいで、変に接続しちゃったみたいですねぇ……それでこっちの世界のとあるマフィアのボス、いわゆるドン・ビアッツィなにがしがその脆さに目をつけた、というかなんというか……これだから暴力組織は嫌なんですよ……」
とある、もなにがし、もまったく意味を
何やら、うちの
「あ、『また』……なんですか……そうですか……」
生前から自由な方だ。奔放すぎて、色々とトラブルを起こしていたように思う。
「うへぇ……」
伝わってはいるようだが、私の声はしっかりとした声にはならず、身体も見えはしない。
が、「誰か」が途方に暮れていることだけは、何となくわかった。
「こうなったら仕方ないですね……。並行世界のあなたも、元の世界のあなたも生存を許可しましょう」
そうか。かたじけない。
ところで、並行世界とは一体なんのことだ。
「そちらの世界と異なる可能性を経て、異なる歴史を歩んだ世界です。管轄が異なるので詳しくは答えられません。……初めに行っておきますが、肉体は魂にとって一時的な器のようなもの。決して絶対の姿ではありませんし、多少の揺らぎで大きく変わります」
よく分からないが、そうなると私の腹部や胸部の変化にも関係があるのか。
「まあ……関係ありますね……。並行世界のあなた方は性別が違いますから……」
……そうだったのか……。それで、アルバーノに「彼女」と……。
「……それでですね、魂が……」
何やら気まずそうに口ごもっているが、何か問題があったのか。
気にせずともいい。元はと言えば、うちの首領が引き起こしたトラブルだ。
「あべこべに……入っちゃいまして……」
なるほど。
つまり、元の世界の私の身体に並行世界の「私」の魂が、並行世界の「私」の身体に元の世界の私の魂が入ってしまったと。
……。……大問題ではないのか?
「えっ? 当然大問題ですよ?」
だろうな……。
「でもまあ、戻し方が分からないというか……そもそも並行世界は不干渉であるべきなので難しい……といいますか……。ともかく、しばらくそのまま生活してください!!」
承知した。
元は死んでいたはずの身。特に異論はない。
迷惑をかけたな。
「今回は特例ですからね!」
分かっている。
ただ、ドン・ビアッツィには礼を伝えておいて欲しい。
「薄々感じてましたが……真面目ですね、あなた……」
***
視界が光に包まれ、肉体の感覚が取り戻されていく。
薄目を開けると、緑色の瞳がこちらを見下ろしているのがわかった。
「……! ま、まったく。ノロマな奴だよね。ボクを置いて死にかけるなんて!」
お嬢様は涙ぐんだまま、ぷいっと顔を背けた。
ファミリーが壊滅状態になり、その上私がいないことで苦労をかけてしまっただろうか。
「申し訳ございません、お嬢様……」
傷は塞がっているらしいが、まだ声を出すには少々苦しい。
厳密には別人とはいえ、再びお嬢様に仕えられるのは
……と、私の呼びかけに対し、お嬢様は怪訝そうに首を傾げた。
「ボク……男の子なんだけど……?」
リボンタイとフリルのついたシャツに、膝までのズボン。金髪のボブヘアー。お嬢様の好む服装、およびヘアースタイルと変わらないように見えるが、こちらの性別も変化していたということか。……服装ばかりか容姿もまるで変わっていないが、おそらくはそうなのだろう。
「……失礼いたしました。ぼんやりしていたようです」
「う、うわっ、いきなり起き上がらないでよっ! お……おっぱい見えちゃったらどうするの!?」
……? 見えてしまう……と言っても、包帯で隠されているが、何か問題があるのだろうか。
見た限り普段のお嬢様とそこまで差異があるようには感じられないが……やはり、細かな差はあるということか。
……いや、お嬢様もお嬢様で、偶然私の着替えを見てしまった際、真っ赤になっていたようにも思うが……
「ボクが男だって忘れてるでしょ! 早く服着て、服!!」
お嬢様……いや、坊ちゃまと呼ぶべきか。
彼女……いや、彼に投げつけられたシャツを手に取り、袖を通す。
なるほど、胸部が隆起し筋肉量が大幅に下がっている。骨格も随分と差があるようだ。性器もおそらく、女性のものとなっているだろう。
身体の傷を見る限り、戦闘行為を行っていたことは間違いがない。……ただ、少なくとも男体とは異なった戦い方をしなくてはならないようだが……。
考え込んでいると、バンっと音を立てて扉が開く。
「おう、無事かブラウ!! 爆発攻撃をまともに、しかも腹に受けたって聞いたが、よく生きてたな!」
黄金の髪に、褐色の肌。髭に覆われたスカーフェイス。
ビアッツィ・ファミリーの首領、グスターヴォ・ビアッツィその人がそこにいた。
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