日本酒を飲みながら


あかりだよ。


バスケの大会当日だってわかっているのに、頭が冴えているはずなのに、例の部屋。


お姉がいないってことは、先に起きてるってことだよね?早く起きなきゃ、起きなきゃ・・・うーん。ダメだ、起きられない。


「ちょっと、話し相手に付き合って」


「もう・・・」


畳の部屋は開け放たれていて、こたつはもう撤去されている。外からは月の光が差し込んで、室内は照明で明るいのに、一歩外に出ると静まり返って、変な感じ。


縁側に座る。作者の隣に。また、何か悩み事?


「月が綺麗だね」


「口説いてるつもりなら鏡見て出直したほうがいい」


「またまたー」


お酒を飲んでるから上機嫌なんだろうか?あかりがキツく言っても効果がない。


おちょこの縁が、月の光に反射して光ってる。


「お酒、ほどほどにね」


「学生の時にしこたま呑んだから、今はそんなには無理だよ」


「運動すればよろし。バスケ、やんないの?」


「コロナが無ければちびとやってたかな」


「コロナ?何?」


「こっちの話。大学4年あたりから、世界が変わっちゃったな」


「どんなことがあっても前を向く。そうでしょう?」


「あかりらしいね」


「あなたのせいでしょ」


そうだね、と笑う作者。もし作者があかりに何か託しているのなら、それは絶対叶わないよ。あかりは、もう自分で動けるから。


「どんなに切り離したって、俺は俺なんだなぁって。他人の視点が無いと自分が正しいのかもわからない、井の中の蛙だ」


「そこがどんなに狭い世界だろうが、全力で頑張ってる蛙に失礼」


「おっと、そうだな」


「ここで頑張ると決めた人は強いよ。まだ、迷ってるの?」


「大切なものが、たくさんあって困っちゃうよな」


「じゃあ、大丈夫だね」


「何が?」


「気持ちが後ろ向きじゃ無ければ、あなたは大丈夫」


ぱっとあかりの前に、手のひらサイズの牛乳パックが現れた。


「乾杯しよう」


「何に?」


「他の頑張ってる物書きの人たちにさ」


「そんなことしたって、あなたの作品は完成しない」


「言うねぇ。でも、今日ぐらいはいいだろう?」


おちょこに軽く合わせると、とぷんと牛乳パックの中で音がする。


じゅうううううう。一気に飲み干しちゃう。早く目覚めなきゃ。


「あかりを呼んだから、重症かと思ってた」


「リアルが忙しいから、重症っちゃ重症かな」


「そういうことにしとく」


ちょっとトイレに行きたくなって、立ち上がったら、くらっとして月が逆さまに落ちる。


んー、これって夢から覚める合図?


「また会おう、亜香里」


「今度は男だけで語って」


「なにそれつまんない」


月が海の向こうに沈むのを追いかける様に、わたしの意識はそこで途切れた。

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