凡ミス

「それは、ワシの行動の邪魔をしようとしている言葉のように聞こえるが、違うか?」

「そんなことありませんよ。ここに水分さんがいないのは貴方もわかっているでしょう? 気配がないのですから。なので、いつまでもここにいても意味はないかと。そう思ったまでです」


 こんな言葉で帰ってくれるとは思わないけど、ここに水分さんがいないのだけでもわかれば。


「そうか。確かにここにいても意味はないな」

「でしたら……」

「だったら聞こう。今、水仙家の陰陽頭はどこにいる?」


 っ、聞いてきた。


 ここでわからないと答えればおそらく、俺達を邪魔者だと判断し襲ってくるだろう。だが、素直に教えてしまえば、この人は村の方へと行ってしまう。そうなれば、水分さんだけではなく、村の人達まで危険にさらしてしまう。絶対に、言うわけにはいかない。


「なんだ、今度はそっちが言えないのか」


 考えろ、考えろ。村の人達や水分さんを危険にさらさず、この場を切り抜ける方法を……。


「答えられぬのなら……」


 っ、まずい。刀を握り始めた。早く、早く答えなければ……。



 ――――あ、そういえば



「答えられぬようだな、よかろう。では、今ここで貴様らを葬り去る。自身の判断を後悔するがよい」


 片膝をつき、魕さんは刀を引き抜く。銀色の刀が姿を現し、切れ味のよさが輝きによって表されている。

 般若の面から覗き見えた薄紅色の瞳には、闘志が含まれ油断を見せない。


 いや、確かに闘志の炎は燃え広がっているようには見える。でも、なんか、迷いが……あるのか? 揺れてる。刀には迷いなんてないのに、なんで。


 俺の体にも伝わるこの違和感、怖いけど、今までの戦闘とはまた違う。なんだ、この変な感覚。


「終わりだ」


 っ、俺の目の前に、スローモーションのように動く刀。俺へと刃が近づいて来る。


『「優夏!!」』


 二人の声が聞こえる。


 だめだ、動かないと。動かさないと。俺はもう、守られるだけじゃない!!


「悪いけど、こっちだって簡単に死ぬわけにはいかないんだ!!」


 御札に一技之長である闇を纏わせる。あの時と同じように。これが出来れば、この人をどっかに移動させることが出来るはず。


 お願い、うまくいって!!


 御札に纏わせた闇で魕さんを包み込む。そのまま、どこか違う場所、何処でもいい。


 ここから遠くをイメージしろ!!


「な、なんだ!?」


 魕さんの驚きの声、刀で切ろうとするも靖弥の時と同じで斬る事が出来ていない。今だ声が聞こえる、飛ばせていない。


 集中しろ、焦るな。


 息を荒くしないように、頭の中でイメージをし続ける。


 徐々に魕さんの声は小さくなり、そのまま消えた。


「声が、消えた?」

『みたい、だね』


 消えた、消えたのか? 二人がそう言うという事は、本当に消えたのか。


 警戒を解かないよう、現状を確認。

 闇が徐々に薄くなる。そこには誰もいない。修行の時、靖弥を俺の後ろに飛ばした時と同じだ。という事は、成功したという事か。


「はぁぁぁぁぁぁああああ」

「お疲れ様」

「ありがとう靖弥。話は闇命君が進めてくれていたから、何とかなったよ。あれ、一言でも言葉を間違えたらさすがに危なかった」


 隣にいる闇命君は今も魕さんが居たところを凝視している。床を触ったり、空中を見たり。何が起きたのかわかっていない様子だ。


 そういえば、闇命君は今のを見たのは初めてだったか。


「闇命君、今のは――」

『僕の一技之長なんでしょ、それはわかった。君がまさかここまでの応用させるとは思わなかったから驚いているだけ』

「はいはい……」


 まったく、俺だって今までの俺とは違うんだからな。これを身に着けたのは偶然だけど。


『今のは使えるかもしれないね』

「でも、一回使っただけで結構精神力が削られるみたいだから、あまり使いたくない」


 今もものすごく体がだるいというか、眠い。やっぱり、人を一人どこかに飛ばすんだから、それだけの精神力は使うか。

 これはむやみやたらに使わないで、最終手段としてとっておいた方がよさそうだな。


『一技之長は他の応用方法はないの?』

「今のところはこれくらいしか見つけてないよ」

『ふーん』


 うわぁ、何その顔。それしか見つけていないのかよという目はやめなさい。俺だってもっと見つけたいけど、思いつかないんだよ。


『今はそれを考えるより、とうとう蘆屋道満が大きく動き出したことを警戒した方がいい。屍鬼家の、しかも陰陽頭が動き出したんだ。しかも、単独。急いでいたのか、他の陰陽助とかが使いもんにならないのか。どちらにしろ、これは水分に伝えよう』

「確かにそうだね。水分さんに命が狙われていることを伝えないと。それにしても……」


 さっきの人の目って、なんだろう。

 本当はこんなことをしたくないというような、そんな瞳だった気がする。


 屍鬼家は、蘆屋家の配下の寮。蘆屋道満から仮に今回の件をやれと言われたのなら、喜んで手を貸しそう。だから、今回の目はおかしい。


 あれ、どういえば。あの人は陰陽頭のはず。位が一番の上の人が、まさかこんな凡ミスをするか?


 俺達の気配と水分さんの気配を間違えるという、そんな凡ミスを――………

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