天才なのに
地下から出て、屋敷に戻る琴葉。
『今からどこか話しやすい所に移動してほしいんだけど』
「それは構わないが、用事があるのはお前一人か?」
『そのはずだけど、何?』
「いや、珍しい事もあるんだなって思ってな。いつもお前、自分の身体が心配でずっとあいつの肩に乗っていただろう。肩に乗れない時でも、必ず目の入る位置にいるようにしていた。なのに、いきなりどうしたんだ? 今更」
へぇ、よく見ているな。
『うん、今までは法力を使うにも何をするにも。優夏には僕が必要だった。僕の法力が必要で、制御が必要。でも、今は僕が居なくても法力を使えるようになっている』
「なるほど、それで?」
『僕が必要なくなった今、僕は、何をすればいいのかわからない。鼠の姿では戦う事なんてもってのほかだし、手を貸すことも出来ない。僕は天才と言われてきたのに、天才のはずなのに、何も出来なくなった』
今は、何もできないただの役立たず。法力が使えないのが一番の致命傷だな。
「嘆きを聞いてほしくて俺の所に来たの? それは人選を間違えたんじゃないか? 俺はそんな事を言われて可哀そうにとか言うと思ったか? そんな話を聞いてほしかったら、他の奴に頼んだ方がいい」
『そんなわけないでしょ。僕が嘆くわけないじゃん、この僕が』
「自信あるんだな、自分に。なら、なんだってんだよ」
『ねぇ、今の僕でも、何かできる技とかないの? 例えば、半透明の僕にあんたが触れた時の技とか』
人の姿になると、どうしても僕は実態を持つことが出来ない。物に触れる事も出来なければ、人に触る事すら出来ない。そのはずなのに、琴葉は僕の頭を撫でる事が出来た。それって、幽体に触れる事が出来るって事だろう。
僕も、物や何かに触れる事さえできれば、少しでも役に立つことが出来るはず。これからの戦闘は苦しく、辛いことが沢山待ち受けているはず。
あの、優夏が倒れ、気絶した時、僕は何も出来なかった。無力で、何もできない役立たずだった。あんな思い、もう二度とごめんだ。あんな思いをするくらいなら、死んだほうがまし。
「…………なるほどな。なにも出来ない自分に嫌気がさしたのか。今までやろうと思ったことが出来ていたのに、今はやりたい事ややるべきことはわかるのに、出来ない。精神的に追い込まれているんだな」
『黙れ、何か方法はないの?』
「方法なぁ…………、なくはないが、結構きついぞ? それに、今からすぐ出来るようになるには、結構追い込めなければならん。それでも、やるのか?」
『内容になる』
「そこは何も考えずに頷いておけよ。覚悟の無さが伝わるぞ、それ」
『覚悟がないとかは関係ない。出来ない事を提示される可能性がある為、内容を確認してからの判断にしただけ』
「慎重だねぇ」
『当たり前、早く答えて』
やれやれと、肩をすくめる琴葉。わざとらしくてむかつく、早く答えろよ。
「まぁ、いいけどよ。お前がこれからやることは、法力を指先に集中する事、それだけでいい」
『…………はぁ?』
☆
起きたら何故か、闇命君が居なかった。靖弥に聞いても「知らない」と言い切られてしまったんだよなぁ。
いつも俺から離れず一緒に居たのに、一体どこに行ってしまったのか。これから修行を始めたいのに…………。
「…………靖弥、修行に行こうか」
「子孫はいいのか?」
「多分大丈夫だと思うよ。闇命君だし、無駄な事はしないと思う。俺から一定の距離を離れる事も出来ないし」
「信頼しているんだな」
「信じてるよ。だって、闇命君だもん」
……え、なに? なんか、ジィっと見られているんだけど、何かを訴えているような瞳だし。何か言いたいのなら言ってよ、気になるじゃん。
「これが、本物の相棒なんだろうな」
「本当に意味が分かんない」
そのまま廊下に出たし。俺を置いて行くなよ、なんなんだよ。
先に出て行ってしまった靖弥の後をついて行き、何時ものように水分さん達を呼びに行こうと部屋に行ったんだけど……。
あれぇえ? 中から人の気配を感じない。いつもなら二人は、俺達がわかりやすいように気配を消さないでおいてくれているのに、今回は全く感じない。
「あの、水分さん! 琴葉さん! 準備は出来ておりますか?」
・・・・・・・・・・・。
返答がない? 靖弥も呼びかけるが同じ。襖を少しだけ開けると、中には誰もいなかった。
「え、みんなどこに行ったの?」
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