頼ってばかりでは

 眉を顰め考えに考えるが、弥来は琴葉の言いたいことがわからず答えを導き出す事が出来ない。

 数分は経ったが、琴葉も口を閉ざし続けている。答えへの道しるべなどもなしなのか、ここまで来たら手がかり程度は言ってあげてもいいと思うんだけど。


「…………水分様…………」


 っ、今、こいつ。自分の主の名前を口にした。琴葉も気づき目を細める。あと、もう少し、もう少しで答えを導き出す事が出来る。

 諦めるなよ、それがわかれば、おそらくこいつも見る世界が変わるかもしれない。



 今まで見ていた世界が全てではなく、他にも様々な人の世界がこの現実には転がっている。視野を広げる事で戦略や今後の行動の幅を広げるだけではなく、他の人の人生も知る事が出来る。


 僕は自分の世界しか見る事が出来ていなかったけど、今は違う。ある奴のおかげで目が覚めた。人の世界を見る方法を。


 こいつはわかるだろうか、お前の主である水分が、今までどのような人生を送ってきたのか。理解出来るだろうか、水分がお前をどう思っているのか。


 あの、もう助からないであろう村人達ですら見捨て、切り捨てる事が出来なかった、心優しい人物の心情が。


「…………水分様は今、何をしておられるのでしょうか。やはり、私の事を憎んでおられるのでしょうか。私を、許してはいないでしょうか」

「それは本人に聞いてほしいものだが、まぁいい。それは事前に聞き出しているから」


 え、聞き出している?


「あいつは全く怒っていなかったぞ。それより、何故あのようになってしまったのかを考え、答えを導き出そうとしていた。お前の事は被害者の一人で、守るべき村人の一人と考えている。じゃなければ、今頃お前はここにいない。あいつの性格上、いらなくなった危険な奴を放置することはない。必ず、すぐに処分するだろう。危険な人物は排除、予め村への危険はなくす。それがあいつだろ? それがわかった今、最初と意見は変わらないか?」


 淡々と、抑揚がない。感情をあえて乗せないようにしているのか、声質ではわからないな。表情もなく、感じ取れない。

 こういう所が、琴葉の怖い所だ。感情を相手に悟らせない。それは、自分の手の内を晒さないともとれる。


 琴葉の言葉に、弥来は目をゆっくりと開き、琴葉を見上げる。やっと、この人が何を言いたいのかわかったみたい。


「水分さんは、俺の事をまだ…………」

「だと思うぞ。じゃなかったら、今頃お前はここに居ない。俺が殺してるっつーの」


 つまり、琴葉は水分の気持ちを一番に考え行動していたという事か。こういう所は琴平の兄なんだなと痛感する。


 やっぱり、大事な者とそうでない者。見極める力はすごいみたいだな。


「んで、お前はそこから出るか? 出ないか? 牢屋の中に居てもいいが、俺はこの後もまだやる事はある。どちらにしろ、他の奴と変わる事になる、答えを出すのは早くしてあげろよ」

「え、それって――……」


 後ろから、人の気配と足音。この流れで来る人って――……


「まったく、もう少し早く説得してくれ。あと、あまり余計な事まで言うな、約束が違うだろう」

「なんの事かわからんな。俺が頼まれたのは、こいつが落ち着いて話が出来るまで宥める事。何を話すかまでは指定されていない」

「屁理屈言うな」

「へいへい」


 奥から来たのは、呆れ顔を浮かべている水分。今の会話から察するに、前もってこの状況を作り出す事を話しあっていたな。いつ話していたんだよ、いつも修行の相手で昼間は離れているし、それ以外でも僕達は一緒に居た。話し合う時間なんてなかったはず。


 もしかしてこの人達、夜寝てないの? 話せるのは夜しかないと思うけど、まさか睡眠を削ってまでこんなことを? この人達、馬鹿なの?


「ここからはお前の番だ。俺は予想外に行動を起こしたこいつの話を聞かんと行けない。人気者は辛いねぇ」

『いいから早く。寝る時間が無くなる』

「はいはい」


 そのまま琴葉は、水分を地下牢に置いて上に歩いて行く。後ろから話し声が聞こえないけど、今の弥来なら大丈夫だろう。気持ち的には落ち着いていたし、人の話もしっかりと届いていた。

 後は、水分がなんと声をかけるのか。結果は明日分かると思うし、これからは僕のやりたい事をこいつを利用してやって行う。


 僕だって、もう、自分の身体に頼ってばかりではいられない。

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