いじめ
「どうしたの、魔魅ちゃん」
さっきからずっと静かに話を聞いていたみたいだけど、何かあったのかな。一緒に行きたかったとか?
「私も、強くなりたい」
「え?」
「私も、もっと強くなりたい。修行、したい」
え、強くなりたい? でも、確か魔魅ちゃんはもうただの少女。力は使えなかったはず、なのにそんなことを言うなんて。
『呪いの力を使えないだけで、法力は使おうと思えば使えるはずだよ。ただ、今すぐは難しいと思う。今まで扱っていた呪いと僕達が扱っている法力は、使い方が違うし、出し方やコツなども異なるはず。一から法術を練習する事になるから難しい。それでも、できないわけではないから、本気でやりたいのなら止める理由はないんじゃないかな』
「そんな…………」
でも、ここで良いよと言ってしまえば、魔魅ちゃんは本気で戦えるようになってしまいそう。そうなれば、これからの戦闘に自ら出て、危険な目に合ってしまう。
今までも危ない所はあったわけだし、これ以上危険な場面に送り出したくない。
「でも、魔魅ちゃん。これからは危険がいっぱいだよ? 確かに戦えるようになれば自分を守れるようになる。でも、魔魅ちゃんは戦えるようになったからと、自ら戦闘に繰り出すでしょ? 多分、俺が止めても、出てくような気がするんだけど、違う?」
問いかけると、魔魅ちゃんは気まずそうに顔を逸らした。これは、繰り出すつもりだな。
魔魅ちゃんが戦えるようになったら、それなりのメリットはある。
俺達が俺達の戦闘に集中出来るし、魔魅ちゃんに予想外の敵が向かってしまっても、自身を守ることが出来る。だから、強くなることに越したことはない。
越したことはないんだけど……。
「お兄ちゃん」
「っ、なに?」
「私、強くなりたいの。お兄ちゃんを守りたい。自分の身も守り、お兄ちゃんも守る。これなら、いいよね?」
「でも、それは口で言う程簡単じゃないんだよ? 相手は強い。頼りにしていた琴平も負けたんだ。俺の身体の中にいる安倍晴明さえも、殺すまではいかなかった。そんな相手をしなければならないの、わかってる?」
俺の質問に、魔魅ちゃんは小さく頷き答えてくれた。
わかっているという事か。でも、それでも強くなりたいと、役に立ちたいと思う気持ちが強いということだよなぁ。だから、こんなことを言ってくれている。
魔魅ちゃんの気持ちを無下にするわけにはいかない、か……。
「わかった、修行はいいよ、一緒に頑張ろう」
「っ、やった!! ありがっ――……」
「ただし、約束して。絶対に、前戦には出ないって。自ら戦いには行かないって。約束しなければ、許可しない」
今の言葉に魔魅ちゃんは顔が青くなる。この反応は予想していた。けど、それでも言わなければならない、じゃないと魔魅ちゃんは自分の命を安く見るから。
「ぁ…………ぅ、あ…………」
……………………なんか、今の俺、他の人からしたらいじめているように見えないか?
『安心しなよ、しっかりといじめているように見えているから』
「なんだ、いじめていたのか? そのように見えていたが、さすがに酷いぞ」
「小さい子を虐めるなんてさいてー。だめだぞー?? 優夏ちゃぁん」
……………………イラッ
「ひとまず、最後に話してきた琴葉さんは一回黙れくださいお願いします。俺はいじめておりません」
「他の二人と同じことを言っているはずなのに、俺に対しての当たりだけ強いのはおかしくないかい? あと、無理に敬語使わなくていいよぉ~」
「なら言い換えますね。黙れ」
「酷い…………」
闇命君に言い返しても倍で返されるのが目に見えているし、水分さんはふざけて言っているわけではなさそうだから。この場で何か言っても、俺に被害がないのは琴葉さん、貴方だけなんですよ。それと、一番イラついた。
「でも、私。役に、立ちたいの…………」
「前線に出なくても、魔魅ちゃんが強くなればそれだけで俺はものすごく助かるよ? 後ろからの援助とか。俺達を動きやすくしてくれると嬉しい」
「…………ほんと?」
「ほんとだよ」
これは本当に、まじで、援助は助かる。いつも助けてくれていた琴平がいないから、さすがに不安が残る。
今まで琴平がやっていたことをお願いするのは酷な事だと思うから、魔魅ちゃんが出来る事を全力でやってくれたら、それだけで嬉しいんだよ。
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