変装
闇命君が今までの出来事を軽く、言葉を濁しながら俺の代わりに話してくれた。
「つまり、今の貴方達は蘆屋道満に命を狙われながらも、陰陽寮の規約を改変するため、旅をしているという事でしょうか」
『簡単に言えばそんな感じだよ』
「なるほど。…………それにしても、蘆屋道満に命を狙われている…………ですか。私からすれば信じられないですね。私は今でも、蘆屋道満の子孫にあたる、蘆屋藍華ちゃんと一緒にお茶をしたり、お話をしています。見た目も可愛く、おじさんではないですよ」
『信じろとは言っていないよ。ただ、こっちは聞かれた事を話しただけ。信じるも信じないもあんた次第だよ』
「そのように言われても…………」
闇命君はいつもの言葉を放つ。
いつもそうだ、闇命君は無理やり相手に自分の言っていることを信じ込ませようとはしない。いつも、相手次第と口を閉ざす。
少しも後ろめたいことが無いから堂々としており、気配に変化もない。だからこそ、相手は困惑してしまうのだろう。
『僕の話を信じるか信じないかは別として、こっちも話を聞いて信じられない部分があるんだ。やっぱり、自分の目で見たのが正しいからね。お互いの話が本当だとしたら、何か仕掛けがあるはずだよ。そこを突き止めたいねぇ』
珍しく闇命君が面白そうに笑いながら言っている。こんなめんどくさいことが起こっているのに、なんで楽しそうなのか。今までなら、絶対に不機嫌になりそうな案件なんだけど。
『修行もしないといけないから、動ける人で動こうか。女性同士の方が話しやすい事もあるだろうし、紅音と夏楓にそっちをお願いしようかな』
「ワタシも強く…………」
『紅音、僕のお願いは聞いてくれないの?』
「全力でやらせていただきます。頑張ります、おまかせください」
闇命君の首こてん、からのおねだり声で、紅音は一瞬にして落ちた。
いや、闇命君?? なんか、威圧的な態度がないけど、前と違うけど? もしかして、少し優しくなった??
『黙れ』
「口に出していないんだけどね」
でも、そう言うってことは、自覚ありなのかな。だとしたら、俺にも優しくしてくれると嬉しんだけどなぁ、無理だろうけど。
『わかっているなら何も言わないで』
「このやろっ…………ん? 今思うとさ、闇命君一人で話しているような感じだよね。俺の心の声に答える時」
思ったことを口に出すと、闇命君はぽかんとした顔で黙ってしまった。これは、もしかして気づいてなかったのか?
確かに、俺の声は闇命君の頭の中に聞こえているみたいだし、それが普通だから周りからの印象とかは気にしないか。今までも、何も言われなかったし。
「なるほど、一人で何かに答えているから。妄想とか何かが頭の中で再生されているのかと思ったよぉ。なるほどぉ、二人は心で会話をしていたんだなぁ」
琴葉さんからの容赦のない言葉。闇命君は黙って何も言わない、これはこれで珍しい。いつもの闇命君なら倍で返しそうな挑発的な言葉なのに。
代わりに紅音が暴れそうになっているけど、それは夏楓が何とか抑えている。俺も抑えようと動き出そうとしたら、やっと闇命君からか細い声が…………なんて?
『僕は、一人で話している訳じゃないから…………妄想、してないから…………』
か細く、今にも泣きそうな声。下を向いている闇命君の顔を覗き込もうとしたら――……
「…………え」
闇命君が、泣かないように頬を膨らませて我慢している。
「…………これは、さすがに可愛いかもしれない」
『黙れ』
☆
「おおぉぉぉおおお!!! すっごくかわいいよ!! 紅音!! 夏楓!!」
『悪くないんじゃない?』
二人は俺達の言葉に照れて、頬を染め掻いている。
二人は今、一般的な着物を着ている。
夏楓は落ち着いた濃い青に、蝶がちりばめれているもの。紅音は逆に、白地にボタンの花が大きく印刷されている着物だ。
こう見ると、本当に二人は美人さんだし、なんでも似合うんだよな。
着物だけではなく、髪もアレンジされている。
紅音の髪はお尻くらいの長さだから、結構アレンジを喜んでやっていたな。もちろん、やったのは冷菓さん、意気揚々とやっていたよ。
紅音の髪は編み込み。名前はわからないけど、みつあみで編み込みされている。お祭りにいる女性のような髪型。
夏楓も髪は肩より少し長めだからか、凄い凝られている。紅音とおそろいっぽい。
なぜ二人が凄いおしゃれをしているのか、それは――……
「では、行きましょうか」
「はい」
「…………闇命様」
二人は冷菓さんと一緒に、蘆屋道満の子孫である蘆屋藍華と一緒にお茶会をするため。簡単に言えば敵情視察。
仮に、見た目や口調が藍華さんだったとしても、意識は蘆屋道満かもしれない。そうなると、紅音達に気づいて敵意を見せるかもしれない。
それを避けるべく、少しでも気づきにくいような見た目に変装してもらったのだ。
俺達ならすぐに分かるけど、蘆屋道満の目標は俺と闇命君だったし、紅音達の事はあまり意識していなかったはず。だから、少しの変装で気づきにくいと思う。
仮に気づかれて何かあっても、紅音の戦闘能力だったら何とか大丈夫だろうという話になり――というか、紅音がごり押しした。
今は嫌がっているけど、役に立ちたい気持ちも強く、こんなことを言ったんだろうなという俺の解釈。
「では、行きますよ」
「はい」
二人はそのまま行く。闇命君は手を振って送り出し、俺も同じく三人を送り出した。
不安はあるけど、信じて送り出す。俺達はやらないといけないことがあるし、何より男である琴葉さん達や、命を狙われている俺達が行くと絶対にただでは済まないから動けない。
ん? あ、あれ? 琴葉さんが急に紅音達の方に向かった? 何かを話しているみたい。何を話しているんだろう。
「――――――何かを、渡してる?」
琴葉さんは何を渡したのだろうか。
「んじゃ、俺達はまた修行に戻るぞ」
「あ、はい!!」
何事もなかったかのように琴葉さんは俺達にそう言ってきた。靖弥も頷き、そのまま行ってしまった。
聞くタイミングを逃してしまった……。まぁ、琴葉さんは変な人だけど、人に害をなす人ではない。紅音も何もなかったかのように行ってしまったし、特に気にしなくてもいいか。
「―――――ん? 魔魅ちゃん??」
魔魅ちゃんに、袖を引かれた。
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