いるだけで安心
「それじゃ、水神からの許可も得た事だからな。早速始めたいと思う。いいか?」
「あ、はい!!」
水分さんの視線を追うように、水神様も俺の方を向く。こっちを向いていなかった時でさえ、体が拘束されているような感覚だったのに。こっちを向けられると、無意識に後ずさってしまう。
い、いや、ここで後ろに下がってたら駄目だ。俺は強くなるんだから。
闇命君に頼らなくても強く、そして百目達が安全に戦えるようにするんだ。ここで怯むな、俺!!!
水神を震える体で睨み返していると、感心したような声が聞こえた。手を叩く音も聞こえ、そちらを向くと水分さんが今まで見せた事がないような笑顔で俺を見ていた。
な、なんですか?
「ここで怖気付いたらそれまでと思っていたが、睨み返したかと思ってな。これは、俺も本気で指導してやろう。楽しそうだしな」
「は、はぁ…………」
なんか、怖いな。これから俺は何をやらされるのか。でも、確実に強くなるのは確かだ。
闇命君の力が無くても戦えるようになれば、作戦の幅も広がるだろう。別行動という作戦も立てられるし、なにより闇命君自身が自由に動けるようになれば、確実に有利に戦える。
頑張るぞー!!!
『ちょっと、何勝手なことを言っているの?』
「口には出しておりませんよ、闇命君」
『馬鹿なことを考えないで。僕が体に入れば君より強いけど、今の僕は何もできないんだよ。役立たずなの。だから、僕が自由に動けるようになるからって、戦況が変わるわけじゃないんだよ』
…………あれ? 何だろう。今の闇命君、なんか落ち込んでる? いや、落ち込んでいるような気がしないな。なんだろう、悲観していると言うべきかな。
「闇命様はいるだけで安心できるので、気にしなくていいと思います。いるだけで、私達は嬉しいです」
『ありがとう、夏楓』
「闇命様…………」
夏楓の言葉でも、闇命君の元気は戻らない。これは、何かあったな。何だろう、やっぱり琴平が居なくなって悲しいのだろうか。
「…………闇命君が近くにいるだけで安心するのは本当だよ。的確な指示、情報把握能力、今まで培ってきた知識。それが無ければ今までのどこかで確実に俺は死んでいたかもしれない。それがあるから、俺も夏楓も。闇命君が近くにいるだけで安心するって言っているんだよ」
肩に乗っかっている闇命君を見ながら、俺の思っていることを伝える。これは今までの実績と、単純なる思い。嘘も何もないんだよね。だって、何かあれば必ず頭に浮かぶのは、琴平か闇命君だもん。
なぜ琴平も浮かぶかというと、闇命君に言うと馬鹿にされる可能性があるから出来る限り避けていたからだ。
琴平は眉一つ変えずに丁寧に教えてくれるから、良かったんだよなぁ。
『君の心の声、僕にも聞こえているのわかる?』
「…………何か言うことあるのですか?」
『ないと思う?』
「いだだだだだだだ!! ごめんごめんごめん!!! だってだって!!! いつも嫌味言ってくるじゃん!! 避けたいと思うじゃん!! 琴平の方が優しんだもん!!!!」
首を噛んできやがった!!! めちゃくそ痛い!!!
噛まれた個所を摩っていると、肩にいる鼠姿の闇命君がさっきとは違い、なんか、呆れてる。呆れている分にはいいけどさぁ。もう…………。
元気になったみたいだからいいけど、結局さっきまでなんで落ち込んでいたのか。
謎が多いな、闇命君。俺も闇命君の心を読めたらいいんだけどさぁ。
『落ち込んでいないし、心を読んだらもう助けてあげないから』
「ごめんなさい」
闇命君の助けがないのは、俺の死を意味する。嫌味や毒舌があっても、助けてくれないと俺が困る。それくらい、闇命君は頼りになるし、これからも一緒にいてくれないとこまっ――……
『うるさい黙れ早くしろ』
「…………~~~~~~わかったよ!!!!」
もう、闇命君なんて知らない!!!
☆
まったく、何を言っているんだろうか優夏の奴。それに、心からの言葉だっていうのがわかるし、なんだったら心中聞こえているし。
嘘がついていないのもわかるし、嘘ついてもすぐに分かるし。だからこそ、今の言葉には困るんだよ、反応に。
……………………僕は、役立たずじゃないのかな。理由も一緒に言ってくれていたし、一緒にいるだけで安心すると言う言葉も嘘じゃない。
僕は、邪魔ものじゃない。一緒に居てもいいのか。
『…………ばーか』
「耳元で堂々と暴言ですか?! 聞こえているからな!!!」
……………………うるさっ。
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