泣き声
「――――っと、こんな感じだったんだよ、あいつ。馬鹿が付く程優しいだろ? 自分の出来る範囲などを考えずに、近くにいる大事な奴を必死に守ろうとした奴なんだよ」
哀し気に話を締めくくった琴葉さん。
「だから、まぁ。そうだなぁ~~、ん---…………。俺を最後まで諦めず探し、あんなことをしてでも俺を兄だと思っていた琴平は、俺の最後の家族でもあった。だから、最後の家族が死んで、月花家で残ったのは、俺みたいな最低長男。笑えるよなぁ、いい奴が最初に死に、最低人間が最後まで生き残ってんだぜ?」
乾いたような笑いを零し、話は締めくくられた。この話は夏楓も初耳だったらしく、少し驚いたような顔を浮かべている。
闇命君も表情は変えないが、真剣に最後まで聞いていた。
『なるほどね。つまりは、最後の家族が死んで、あんたも悲しいって事か』
「”も”って事は、お前も悲しいという事か?」
『どうでもいいでしょ。それより、今その話をし何になるの? 感傷に浸りたかったの?』
「そうだな。感傷に浸りたかった、それだけだ」
『…………ふーん』
本当にそれだけなのか、今の話は、本当にそれだけが理由なのか。
「…………泣かないんですか?」
「ん?」
「貴方は、最後の家族と言っていた琴平を失う結果となってしまった。そうさせてしまったのは俺です。俺が靖弥を助けたいと言ったから、革命を起こしたいと言ったから。だから、今俺達は旅に出て、結果。こんなことになってしまった。恨んだり、泣いたりしてもいい立場だと思うのですが…………」
俺の言葉に、琴葉さんは顎に手を当て考えている。
「んーー。泣くのは俺の仕事ではないし、恨むのも、現在相手がいないから特になぁ」
「…………は? いや、恨む相手ならここに…………」
「ん? なに? 自ら恨まれたいと? もしかして、そういう趣味があるんか? 確かに今まで出会った女の中にはそんな奴もいたが、さすがに俺にはそんな趣味はないからなぁ。上手く断っていたんだが、まさかここでそんな趣味をさらけ出されるとは思わっ――……」
「ちげぇよふざけるな」
「怖い怖い!!」
本当にこいつ、わからない。結局は何がしたいんだよ、何が言いたいんだよ。
「まぁ、俺はもう流す涙なんて枯れちまっているし、流したくても流す事が出来ないんだよなぁ。あーあ、俺の代わりに泣いてくれる人がいたらなぁ、俺も少しは気持ちが落ち着くかもしれないのになぁ。あーあ、誰かいないかなぁ」
うわぁ、わざとらしい。何この演技下手、俺より酷くない?
『…………泣かないよ? 今はそんなことをしている暇はない。早く次の行動を考えないと』
「あーあ、俺は何も出来ないなぁ。何も考えられないなぁ、悲しいなぁ、悲しいなぁ。このどうしようもない感情はどうすればいいのかなぁぁあああ」
『うっざ』
「おい」
何この人、泣かせたいの? なんで? 泣いたところで今までの出来事がなくなる訳でも、琴平が生き返る訳でもない。それに、俺には泣く権利はない。悲しがる権利はないんだ、俺が引き起こした事態なんだから。
「もっと素直に言ったらどうだ、琴葉」
「なぁにがぁ?? 紅音ちゃん」
「…………はぁ。素直に言え」
「はい」
紅音からの圧、強すぎる。琴葉さんも苦笑を浮かべているし。
「まぁ、つまりはなぁ」
よいしょと立ち上がり、琴葉さんが俺と闇命君の前に立ち止まり座った。何だろうと思っていると、頭に温かいものが乗せられ──え。
「―――――え?」
『なっ、なに? なんで?』
頭に乗せられたのは、何故か琴葉さんの手。俺だけではなく、半透明の闇命君の頭にも乗せている。乗せる事、出来るの? 今まで誰も闇命君に触れる事すら出来なかったはずなのに。
「俺は結構色んな術を習得しているからなぁ、これくらいは朝飯前よ。それより──……」
頭に乗せられた手がゆっくりと動き、優しく頭を撫でてくる。暖かい、なんで。
「俺達が涙を流せない分、お前らがこの淀んだ空気を涙と共に洗い流してくれないか? じゃなければ、琴平も逝くことが出来ないだろ」
「いや、俺は悲しむ権利なんて…………」
「お前は琴平の気持ちを無視するつもりか? お前らは、琴平が全力で守った者達を疑うのか? それこそ、琴平を侮辱する行為だと思うがな?」
今までとは違う口調、声色。優しく微笑まれ、温かい手で頭を撫でられる。隣にいる闇命君も言い返そうとしない。手を振り払おうともしない、ただただ撫でられている。
今の琴葉さんの言葉、なんて返せばいい。疑う訳ではない、侮辱しているわけがない。でも、このまま受け入れてしまえば、俺はまた人に甘えてしまう。
人に甘え、弱いままでいる事になってしまう。そんなの駄目だ、俺は強くならないといけない。
でも、この温もりを感じていたい。優しい温もりに、甘えたい。いや、駄目、それは駄目。
甘えるから、弱くなる――……
「餓鬼は餓鬼らしく、感情のまま行動しろ。お前らには、それが許されているんだからよぉ」
頭に乗せていた手を下ろし、俺達二人を抱きしめ、諭すように言い放つ。その言葉に、俺の心に閉じ込めていた感情全てが溢れてしまったのか。決壊したように目から涙が次から次へと零れ落ちる。嗚咽でうまく話せない、のどが絞まる。
「お、俺は、俺が、弱いから、仲間一人、守れない…………」
「まだ子供なんだ、仕方がねぇよ。これから強くなればいい、お前も、お前の本体もな」
隣を向くと、闇命君が琴葉さんの肩に顔を埋めていた。肩が震え、嗚咽が微かに聞こえる。
これから、強く。俺は、強くなれるのか、また大事な仲間を失ってしまわないか。怖い、怖いんだ。俺は、まだ、怖い。
――――――――――お前なら大丈夫だ
っ、今の声、聞き覚えのある声。今、一番聞きたい声が、頭の中に聞こえた。
「っ――……」
俺達の部屋に響く、二人の泣き声。こんなに泣いたのは、久々だ。
琴平、頑張る。俺、頑張るから。だから、安心して、空から見ててくれ。
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