油断

 媒体に振り上げた刀を下ろした瞬間。


 ――――――――――ゴーーーン!!!!


 という、頭が割れそうになるほど響く音が辺りに走り、思わず目を閉じてしまった。その時、体に襲う浮遊感。そのまま落下したら、いきなり眩しい場所に叩き出された。


 そして、体に強い衝撃。めちゃくそ痛かったし、怖かったよ。何が起きたのか分からないまま、俺は今闇命君に見下ろされ蔑まされている。


「あ、あの……」

『なに』

「なぜ俺は、靖弥と共に地面に正座をさせられているのでしょうか」

『分からないの? あぁ、馬鹿二人組だから分からないのか仕方がないね。でも、少しは考えてみたら? 普段から人にばかり聞いているから馬鹿が加速して、現状すら理解出来ないほどおちぶれるんだよ』

「そこまで言わなっ──」

『文句ある?』

「ないです」


 腕を組み俺を蔑んでいる闇命君の瞳が、怒った時の紅音より冷たい。氷を通り越してる、顔を上げることが出来ない。何を言っても絶対に倍にして返されるし。


 これは、何に対して誠実に謝ればいいんだ……。


「…………なぁ、道満様は今どうなっている」

『お前の主様なら、今は氷の柱の中だよ。あれで見栄えが良かったら活用方法はあったかもしれないけど、ただのクソじじぃだからね、見た目。悪いけどどこにも売ることが出来ないよ、金にもならないなんて本当に迷惑でしかない氷像だね』

「…………怖いんだが」

『何が?』

「なんでもありません」

『そう、それならいいよ』


 そういえば前に、闇命君。君、絶対に紅音と夏楓は怒らせては駄目と言っていたろ。このメンバーの中で一番二番を争うほどの怖さはあると言っていただろう。

 確かにあの二人が怒った時は、なんか、言葉に表せない怖さがあった。体に鳥肌が走り、硬直するほどだったよ。


 でも、でもね。俺にとって一番怒らせてはいけない人物はね、君だよ、闇命君。

 君を怒らせてしまったら最後、体が氷のように冷たくなって地面に横たわることになるんだ。


 足が痺れてきて、もうそろそろ体の方も限界。心と体を殺される。


「闇命様、もうそろそろ」

『…………はぁ、そうだね。この二人に構っている時間は無い。道満になにか動きはある?』

「いえ、今も」

『そう』


 琴平が助け舟を出してくれたマジで感謝。靖弥も安堵の息をこぼしている。

 相当怖かったみたいだな、顔が青い。多分、俺も同じ顔をしているから何も言えない。


「あんっ──琴平、道満をこれからどうするの?」

「ひとまず今は何も出来ん。下手に動かせば、氷の柱が破壊され出てくる可能性があるからな。今は俺の式神と水分さんの式神で警戒中だ」


 闇命君の奥には、天高くと言っていいほど細長い氷の柱が立てられていた。その中には人影、蘆屋道満があの中にいるんだろうな。さすがに少し距離があるから見えないけど。


「もう少し様子を見て、大丈夫そうなら動かそうと思う」

「そうなんだ、ありがとう琴平」

「これくらいの説明なら問題は無い。それより、なぜ闇命様の名前を呼ぼうとしたのに、俺へと切り替えたんだ?」


 え、それあえて聞くの? そこは聞かなくてもいいじゃん、なんて答えよう。


『どうせ、怖気ついたんでしょ。弱虫』

「……………………そんなことないし」

『その間が物語っているよね。僕みたいな子供に怯えるとか、君はいくつ?』

「〜〜〜〜〜〜〜うるさいよ!!!! それより、今の俺は陰陽術を使えるようになったのかどうかが気になるんだけど」

『話そらすの露骨すぎ』


 闇命君は本当に意地悪だし、クソ生意気。無理やり話を逸らしたのもバレた、クソ。


『使えるかどうかは実際に使ってみればいいでしょ……………………。百目辺りを出せば?』

「百目、好きねぇ」

『式神の中で一番頭が切れるからね。あと、適度に自ら動いているから、楽』

「なるほど…………」


 なんだろう、闇命君今何かを考えていたような気がした。一瞬、靖弥の事を見ていたような気もしたし、まだ疑っているのかなぁ。疑うのは仕方がないから何も言わないけど。


「……………………」


 隣で靖弥が正座から動かない。足痺れない? 大丈夫?


『早くして、僕も繋がりがあるのか気になる』

「わ、わかったよ」


 百目の札を取り出し、法力を注ぐ。すると、いつものようにクールイケメン、百目登場。普通に出せた。

 あの闇の中での火花は本当になんだったんだろうか。


『百目、体は大丈夫?』

『問題ありません、主の仰せのままに行動するのが、式神の使命です』


 百目は胸に手を置き、腰を折った。今度は俺の方に顔を向け、同じくお辞儀。あ、ど、ども。

 なんか、久しぶりだからか緊張する。イケメーン耐性が無さすぎるよ俺。


『主、ご命令を』

「あ、えっと。特に今回はないんだよね。さっきまで陰陽術を使えなかったから、試しに式神を出そうってなったんだ。なんか、ごめんね?」

『わかりました、では、私はいかがいたしましょうか』


 いかがいたしましょうと言われても、このまま札に戻ってもらうのも忍びないなぁ。でも、「さみしいから一緒に居て?」とかも無理。どこの彼女だよ、恥ずかしいわ。


『百目はいつでも動けるように準備、まだ油断できない現状だからね』

『仰せのままに』


 あ、そうやって言えば良かったのか。って、当たり前か、今はまだ完全に終わったわけではない、どうやって道満を――浄化? 消滅? させればいいんだろうか。


「…………優夏とやら」

「あ、ご迷惑をおかけしました水分さん」

「それはどうでもいい。それより、さっきからこいつの様子がおかしいが、大丈夫なのか?」

「え?」


 水分さんが指を差している先には、まだ正座をしている靖弥。そういえば、本当にどうしたんだろうか。なんか、苦しそう。


「靖弥? どうしたの?」


 近くに移動して、顔を覗き込んでみると。え、本当にどうしたの!? 


 顔色がものすごく悪い。汗が滝のように流れているし、過呼吸気味。胸が苦しいのか抑えている、確実に様子がおかしい。


「靖弥!! 何があったの?! どこが痛いの、苦しいの!?」


 聞いても返ってくるのは苦しげな声だけ、どうすればいいの。

 早くどうにかしないと、このままじゃ靖弥の命が危ない!!


「優夏、少し距離を取れ。俺が見てみる」

「琴平、何かわかるの?」

「それを今から確認するんだ」


 琴平が靖弥の前に座り、手を伸ばし触れようとした。



 ──────────ドクン



「『――――っ!? 琴平、はなれろぉぉぉおお!!!!!!』」


 嫌な予感が走る。闇命君の声と重なり、二人で琴平を呼ぶと、首を傾げながら振り向く。その背後には、刀を構えた靖弥──……



 ――――――――――ザシュ

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