呆れと疲れ
氷の柱により動きを封じる事が出来た。体は動かないみたいだけど、目線はこっちに向けられていて気持ちが悪い。
「道満はもう、動くことが出来ないでしょうか」
『琴平はどう思う』
「正直、このままで終るとは思っておりません。何かありそうです」
『僕も同じ意見だよ』
あの、蘆屋道満だ。そこまであいつの事を知っているわけではないけど、気配や力だけは感じ取っているつもり。ただならぬ気配、今までの行動。
蘆屋道満の怨みの炎はこんな事では鎮火など出来ないだろう。警戒だけは怠らないようにしなければ、次の手を考えっ――……
――――――――――ドサッ
……………………ドサ?? 後ろから何かが落ちる音が聞こえたような。
「重い重い重い!!! ギブギブギブギブ!!!!!!」
「あ、わりぃ」
「謝っている暇があんならさっさと降りろやぁぁぁぁああ!!!!」
………………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ。
何をやっているの、何をやっていたの。
後ろから聞こえた何かが落ちる音、それは優夏が異空間から戻ってきた時の音だったらしい。ついでに、やっぱりというか。
異空間に閉じ込めておくことはせず、セイヤも一緒みたいだな。
セイヤは、中身が僕じゃないからって堂々と僕の身体の上に落ちやがった。
体格差とかいう意味では、優夏が悲鳴を上げるのも仕方がない。だって、体は僕だからね、中身が同い年とか知り合いとかだろうと、体は僕だからね。
「き、きききき、きさまぁぁぁ!! ああ、ああああ、闇命様の身体に今落ちなかったか!? ふざけるな!! 今すぐ殺してやるからなぁぁ!!」
「待て紅音、殺す事には賛成だが、まずは動きを封じてから――……」
『二人とも、一回黙ろうか』
「「はい」」
二人の動きが予想通り過ぎて逆に驚いたよ。
それより、セイヤは今は何を考えているのだろうか。見たところ、特に怪しい動きはない。
落ちてきた二人の上を見ると、空間を切り裂いているような裂け目がある。おそらく二人はそこから落ちてきたんだろうな、距離的にはそこまで高くない。その辺に立っている木から落ちた程度の衝撃だったろう。
今は体をどかし、地面につぶれている優夏に手を差し伸べている。伸ばされた手を、優夏は疑うことなく礼を口にし掴んだ。
空気はそこまで悪いものではない、演技をしているわけでもないだろう。
セイヤはともかく、優夏は絶対に演技だった場合ぼろが出るはずだし。
僕が二人に近づこうとすると、もちろん琴平達が止めてこようとしてきたけど、それを制し歩く。
途中で優夏が僕に気づき、安心したような笑顔を向けてきた。そんなあほ面を浮かべないでよ、その体が僕のだって事本当に自覚して。
「闇命君!!! 大丈夫だった!? 怪我はない?」
『今の僕がどうやって怪我をすればいいのさ、しっかりと考えてみて』
「…………普通に大丈夫だったの一言でいいんだけど」
『見ればわかるでしょ』
「はいはい」
なに呆れたようにため息を吐いているの、優夏の癖に生意気なんだけど。今回の事は後でしっかりと怒るとして、今はもう一人の方を警戒しないと駄目だね。
今の僕達の会話を隣で眺めていたなんて、余裕じゃん。無表情で警戒の瞳を向けてくるセイヤ。何かしようと企てているのかもしれない、警戒しなければ。
「あ、靖弥、刀をありがとう。これのおかげで出る事が出来たよ」
「俺もあそこの空間からは出ないと困るからな、利害が一致しただけだ」
「うん、そうだね、利害は一致していたね。ところで靖弥、闇命君が凄く気になるのはわかったけど、手を指し伸ばしている先に何か見えるの? 俺はこっちだよ? さすがに怖いんだけど」
「……………………あ、そっちか。刀をどーも」
「うん、周りはしっかりと見ようか」
「気を付ける」
…………何この二人、気持ち悪いんだけど。
セイヤは僕を警戒して目を離さなかったみたいだけど、そのせいで優夏がどこから声をかけているのかわからなかったみたい。優夏のいる方向の反対側に手を伸ばしていた。いや、視線を僕に向けていたところで、気配や声、視線とかで優夏の方向くらいはわかるでしょ。今までどうやって道満の従者をしてきたの、さすがに困惑なんだけど。
「闇命君も警戒しなくていいよ、今の靖弥は多分大丈夫だから」
『多分という事は、確実に大丈夫ではない何かが優夏の心の中に潜んでいるんだ。なら、警戒を怠ることは出来ない。何をされるかわかったもんじゃないからね』
「いや、何もないから!! 言葉の綾だよ!!」
『僕が安全だと思うまで警戒は解かない、優夏がなんと言ってもね』
靖弥も僕から目を逸らしていないし、警戒を解いたら何されるかわかったもんじゃないね。どう動いても対応できるようにしているのかもしれない。まったく、刀もなんで返してしまったのか。
「…………俺は、何もしない」
『それを素直に信用すると思うの? あんたはそこの馬鹿より頭を使うのは得意だと思っていたけど、もしかして本来は相当の馬鹿? 馬鹿発言の連発は優夏だけで十分だよ』
拳を握っている優夏が視界に入るけど知らない、事実を言っているだけだもん。
「別に、信用されたくて言ったわけではない。ただ、言いたかったから言っただけだ」
『無意味な言葉をありがとう。僕はあんたが何て言おうが信用しないし、する気はない』
「だろーな、別にいいよ。俺は――……」
ん? どうした。いきなり僕から目を逸らして隣を向いた。そこには僕の言葉で怒りを堪えている優夏の姿。
『俺は、なに。はぁ…………。これだと、僕の方が悪者みたいじゃないか』
何その優しい笑顔、優夏に向けている温かい瞳。なんとなく、琴平が僕や優夏に向けているまなざしに似ているようなな気がする。
そんな顔を浮かべるなよ、本当に調子が狂う。
『……………………もう、いいや』
無駄に疑うのも疲れるしね。
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