精神力

一技之長いちぎのちょう? なんだそれ」

「やっぱり靖弥は聞いていなかったんだね。一技之長いちぎのちょうってのは、この世界では誰でも使える魔法みたいなものだよ。精神力を利用し、武器に自身の属性を纏わせることが出来るんだ」


 確かそんな感じだったはず。刀に炎を纏わせたり、出来る人は式神に纏わせたりしていたはず。安倍家の陰陽頭である伸憲滋政しんけんしげまささんがやっていたな、その時琴平が妙技みょうぎについても教えてくれた。


 妙技みょうぎは、陰陽術と一技之長いちぎのちょうを組み合わせ技。

 出来る人は数少なく、精鋭が集まっているはずの安倍家でも陰陽頭しか出来ないと言っていた気がする。


「そんな技があるのか、知らなかったな」

「たぶん、道満は靖弥には必要ないと判断したんだろうね。それか、靖弥の身体には元々一技之長いちぎのちょうという概念がないとか?」

「どうなんだろうな、どっちにしろ俺には使えないだろうしどうでもいい。お前は使えるのか? 出し方とか、属性とか。今まで使っている所なんてなかったけど」

「…………話にすら出てこなかったな、そういえば…………」


 俺は、闇命君に一技之長いちぎのちょうについては何も聞いていない。属性も、出し方も。

 闇命君の場合、使いやすいとかではなく、単純に陰陽術の方が強いから一技之長を使ってこなかったんだろう。


「使わなくても、一応聞いておくんだった……」


 今後悔しても遅いか。えっと、一技之長の出し方はおそらく法力を使う時と同じだと思うけど、属性がわからない。

 一度使ってみればいいとは思うけど、俺には妙技みょうぎを使うことなど出来ない。刀や薙刀とかの武器が必要だ。


 闇命君は普段から陰陽術しか使っていなかったみたいだし、武器は持っていない。琴平が居れば武器を作ってくれるのに。

 なにか変わりになるようなものを周りを見回して探しても、暗闇なんだから木の棒とかがある訳──……


 いや。あるじゃん、武器。隣に。


 隣には周りを見回している靖弥、腰には愛刀なのかは分からないけど刀。


 武器じゃん、刀。


「ねぇ、靖弥。刀貸して」

「ん? 別にいいが、属性を知らない状態で使うのは危険じゃないか?」

「やらないでこのままより、出来る事は試した方がいい。これで駄目なら次、それでも駄目ならまた次を試す。何もない空間だけど、出来る事は沢山あるはずだよ。出来る事からやって行こう」


 言い切ると、何故か靖弥は目をぱちくりとし、何も言わず見下ろされる。なに?


「お前、変わったな」

「何が?」

「なんか、変わった。前を見ているような、必ずできると信じて疑わないような。俺達の世界にいた時のお前とは、なんか、違う」

「なんだそれ」


 靖弥が何を言いたいのかわからないけど、確かに変わったかもとは思う。


 琴平や紅音、夏楓や闇命君。今まで出会ったことがないタイプの人達とずっと一緒にいたからか、性格が移ったのかもしれない。それがいい方向に動いているのかもしれないな、そう思うとこの転生も悪い事ばかりではなかった。


「出会いが良かったのかもしれないな、羨ましい」


 靖弥が俯き、拳を握っている。思いつめているんだろう、俺と目を合わそうとしない。


「…………今からでも、遅くはないと思うよ。早くここから出よう、そしてこれからは一緒に旅をしよう」

「…………は? なんでそんなこと……」

「なんでって、当たり前だろ? 友達じゃん」


 目を開き、なぜか靖弥は驚いていた。いや、何でだよ、友達と思っていたのはもしかして俺だけなのか? 悲しい。


「お前、変わんない所もあったな」

「さっきから意味が分からん」

「わかんなくていいよ、ほれ。刀が必要なんだろ? 慣れていないからって怪我するなよ?」

「こんな見た目だけど、中身はお前と同い年だからっ――――おも!!!」

「だから言ったじゃん…………、鉄だぞ」

「確かに…………」


 闇命君、体を鍛えてないな? でも、結構動きやすいし、早く走れるし。まったく鍛えていないはないと思うんだけど……。


 んー、でも。結構式神に頼ったりはしていたなぁ、雷火とか百目とか。この二人には本当にお世話になっている、申し訳ないと思う程に…………。


「それじゃ、精神力を意識するね。何かあったら教えてほしい、こっちに集中するから多分気づかない」

「わかった、任せたぞ優夏」

「あぁ!!」


 よし、体の中に沈む液体を意識する感じでいいのかな。法力はそんな感じで出すから同じ感じで…………。


 息をゆっくりと吸い、吐く。


 ……………………何も変わらない。え、間違えているのかな。刀にも何も纏われないし、体も変化なし。

 間違えているのか? やっぱり法力とは感覚が違うのか。精神力って、どこに流れているんだ? あれ、頭がごっちゃになってきた。


「優夏」

「え、何かいた?」

「いや、うまくいっていないように見えるから。難しい顔を浮かべてるけど、できそうにないのか?」


 顔に出ていたのか…………。


「なんか、やり方が間違えている気がするんだ。法力と同じ感じにしてはいけないみたい、でもやり方が…………」

「法力は、心の内にある力を指先に集中するイメージだろ? 精神力は、その名の通り精神の力。メンタルとかの方を意識すればいいんじゃないか?」


 ……………………そういえば、俺達。学校のテスト、赤点を回避するので精一杯だったなぁ。授業は眠たくて、夢の中に入らないようにするので必死だったし…………。


「なんで俺、哀れみの目を向けられているんだ?」

「いえ、何でもありません」


 法力と精神力の違いか、でも、それは本当に関係ありそうだな。


 仮に法力がゲームで言うMPなんだとしたら、精神力はHPみたいな違いか? 体力ではないような気はするけど。


「…………誰か助けて。俺の体のうちに潜む安倍晴明は今、何をしているんだよぉ、今こそ出番だろぉ…………」

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