刺客

「なんか、ムカつくけどやっぱり上に立つ人間なんだな」

『…………ただの、年齢を重ねたおっさんでしょ』


 コラッ。鼠の姿だからってそういう事をぼそっと言うんじゃありません。あーゆーのは地獄耳な可能性大なんだから。


「…………ん? なんだ」

「どうしましたか、闇命様」

「分からない。分からないけど、何かを感じる。なんだこれ……」


 人の気配とはまた違う。でも、この村の中に二つ。何かがいる気がする。

 モヤモヤした何かが、身体をまとわりついてゾワゾワするな。なにこれ。


『妖気だと思うよ。でも、二つか。確かに感じるね、微かにだけど。地上と上空に』


 上空か。地上は恐らくヒザマだろうな。ニワトリは飛べないし。ヒザマが飛べないかは分からないけど。なら、上空には何がいる?


 上を向くけど、水人が屋根の上に乗っている事しか確認出来ない。


「っ、闇命様!!!」

「──えっ」


 いきなり琴平が動きだし俺の背後に。結界を張り何かを弾き飛ばした。


「あ、ありがとう」

「闇命様のお身体に傷を付けるわけにはいきませんので」


 振り返り言ってくれた琴平だったけど、少し顔が険しい。膝をつき、ハンカチを手にし何かを拾い上げた。


「これは──」


 ハンカチに包み込まれていたのは──気持ち悪いな!!! 百足じゃん!!!

 弾き飛ばされたからなのか、体の上半分が砕け散り絶命している。


「自然豊かだからだろうな。どこからか出てきたんだね」


 簡単に流そうとするも、琴平は険しい顔のまま百足を見続けている。そのうち紅音も覗き込み、上半身がない百足を目にして口元に手を当て顔を青くした。女性にはキツイって……。


「闇命様、これ」

『うん。間違いなくだね』


 蠱毒? 蠱毒って確か、陰陽師が使う呪いとかなんとかじゃなかったっけ? でも、なんでここにいるんだ。それに、今琴平がいなかったら、確実に俺の所に来てたって事だよね。え、まさか……。


「闇命様を狙った誰かの仕業ですね」

『間違いないね。まったく……。本当にめんどくさいな』


 何普通に会話しているのですか。

 その話から察するに、俺が何者かに狙われているって事だよね。嘘だろ。俺、短命だけでなく刺客にも狙われてるの。何この子怖い。


「しかし、なぜ今」

『さぁね。こいつがアホ面晒していたからじゃない?』

「……………」


 いや、なんか俺のせいにされてませんか。琴平も黙って俺の方を向かないでよ。


「と、とりあえず。蠱毒を放った人が近くにいるってこと?」

「そうだな。だが、もう離れてしまっている可能性の方が高い。放つだけでいいものだからな。ずっと近くにいる必要性はない」


 そうなんだ。なんか、引っかかるな。


 この村には一体何があるんだ。いや、村じゃ無くて──


「あの。あれは、なんですか?」


 ずっと村の安否を心配していた四季さんが、上空を指し問いかけてきた。


「あれって、確か輪入道??」


 大きな車輪の真ん中に顔がある。女のか男なのか分からない老けた顔だ。髪は黒髪で長い。その周りには赤く光玉──火の玉が浮いている。

 車輪も赤く燃え広がっているため、アニメとか漫画で見る輪入道と呼ばれるもので間違い無いだろう。


『地上はあいつが見に行ってるし、僕達は上空を見に行くとしよう』

「え、でもどうやって?」

『雷火を使う』


 わぁお、雷火大活躍。

 言われた通り、御札を取り出し雷火を召喚した。でも……。


「雷がバチバチとしていて俺、掴む事が出来ません」

『誰が掴むって言ったのさ。乗るんだよ』

「もっと無理だけど?!」


 しかも、大きさ的に今は普通の鷹くらいの大きさだし。無理やん、諦めようよ。


『早く、集中して雷火に法力を入れこめ』

「わかったよ……」


 やり方は前回、水人とやった時に教えてもらったから出来る、はず。


 深呼吸して御札を手にし、集中。雷火がどんどん体を大きくしていき、人一人乗れるくらいにはなった。なったけど、雷のバチバチも大きくなって近付くの怖いんだけど。


『式神は主に逆らわない。遠ざかってないでさっさと乗って』

「…………闇命君の言葉を信じます」


 意を決して、勢いよく雷火に飛び乗りました!!! おりゃぁ!!


 ────ふわっ


 あ、柔らかい。というか、ふわふわだ、なぜ。


「後はよろしくお願いします。闇命様」

『当たり前じゃん』

「あ、君が答えるのね」


 紅音も「お願いします」と頭を下げ俺達を見送る。その時、紫苑さんもこちらに一瞬目を向けたけれど、何も言わずにまた村へと視線を戻してしまった。


『早く行くよ』

「あ、はい」


 雷火に指示を出し、空高く飛んでもらう。

 大きな両の翼を広げ、すごいスピードで上空に向かった。


 体にのしかかる圧が酷い!! 落ちないようにするので精一杯だ。目が開けられない!!


 それから数秒後、スピードがやっと落ち着いた。そっと目を開けると、日は完全に落ち、辺りは暗い。星が落ちてきそうな、圧巻な夜空が広がっている。


「輪入道……。あれは、どうやって倒せばいいの。やっぱり、水でまず炎を消すとか」

『そうだね。それでまず戦意喪失させよう』


 あ、そういうつもりで言ったわけじゃないんだけど……。でも、やっぱり炎系の妖には水が一番有効的なんだな。


「水の妖って使役してるの?」

『そうだね。…………いや、水じゃなくてもいるな、適した式神。を出そうか』

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