出会い
余裕のある火事
馬車に乗って約三十分くらい経った頃。前方が赤く染っているのを確認出来た。
今は西に向かっているからかな。夕日……いや。あれは、夕日の赤じゃない!!
慌てて馬車のドアに備え付けられていた窓を上に引き上げ、顔を外に出し目を凝らす。嫌な予感が頭を過り、胸がざわつく。
赤く染っているのは夕日のせいじゃない、黒煙も見える。
風と一緒に煙の匂いが漂いむせてしまう。これは確実に。
「火事だ!!!!!」
村全体を覆うほどの大きさはありそうだ。嘘だろ、早すぎる。闇命君の読みが外れた? いや、今はそんなこと考えている暇はない。
四季さんは顔を青くしわなわなと震え出して、琴平も近くにある窓を開け外に顔を出し確認している。
「本当だ、あれは確実に火事だな」
あれはボヤ騒ぎなどと言う生易しいものでは無い、確実に燃え広がっている。
赤色が黒煙と共に空へと登り、晴天だったはずの空が黒く染っていく。
「急がないと……」
え、なんで琴平はそんなに冷静でいられんの? 村の人達がやばいのに。
「言ったでしょう。夜という言葉には正確な時間がない、と」
「紫苑さん……。確かにそうですね。いや、それより。もっと早く走れないんですか?!」
一番最初に確認したはずの紫苑さんは、額に一粒の汗を滲ませているだけで焦っている様子がない。なんで琴平と言い紫苑さんと言い、そんなに平然としていられるんだ。村が燃えているというのに!!!!
「なら、顔を引っ込めてくれるかい。危ないよ」
「わ、かりました」
言われた通り顔を引っ込め窓を閉めた瞬間、体が一瞬浮いたような感覚が、え?
うえ、胃の中の物が転がってる感じ。あれだ、遊園地にある大きな船の乗り物に乗った時の感覚、気持ちが悪い!!
「おい、何をしている優夏!! 早く手すりに捕まれ!」
「え、どわっ?!」
体が思いっきり浮いた?! 琴平が俺を引き寄せてくれたおかげで怪我せず済んだけど、いきなりなに?!
「中の人のことを考えないんだ、あの人は……」
「あ、あぁ。なるほど」
紫苑さんが俺の言った通りに馬車のスピードを上げてくれたのか。せめて一言、欲しかったよ……トホホ。
☆
怪我すると危ないからと、琴平が目的地に到着するまで俺を支えてくれていた。そのおかげで無事に到着。
「これは、酷いな……」
赤く染る村、火花がパチパチと音を鳴らし、崩れ落ちる屋根やドア。
早く中にいる人達を助けないと!!!
「待ってください闇命様!!」
「は、離してよ琴平!!! 早く行かないと中の人達が!! 逃げ遅れて人がいるかもしれないだろ!!!」
村の中に入ろうとしたら、なぜか琴平に腕を掴まれた。なぜ止める、琴平は心配じゃないのか。もしかして、村人より闇命君の体を気にしているのか?
確かに大事な人なのはわかる。でも、今はそんな事を言っている場合じゃないだろ!!!
「お、かあさん。お父さん……?」
四季さんが、フラフラと村の中に入ろうとしてる。さすがに駄目だろ!!!
「お待ちなさい。大丈夫、君の家族は無事だよ」
彼女の肩に手を優しく置き、温かい声で紫苑さんが宥める。
大丈夫? なんでそう言いきれるんだ。
「優夏、もう避難は完了している。中から人の声など聞こえないだろう」
え、完了している?
確認するため耳を澄ませてみると、確かに火の粉が飛び散る音や、家が崩れ落ちる音しか聞こえない。
もし人がいるのなら叫び声などが聞こえるはず。
「いつの間に……」
「琴平が頑張ってくれたからね」
琴平が頑張ってくれた?
────あ、もしかして。
「琴平、森の中でめっちゃ疲れていた理由って……」
「あぁ。闇命様達の任務が終わる前に避難を終わらせなければならなかっため、走り回った結果だ」
わぁお。あ、だから紫苑さんは慌てた様子を見せなかったんだ。それに、琴平も何も言わなかった。それならなぜ、事前に言ってくれなかったのだろうか。
「とりあえず、この現状をヒザマだけで説明するのは難しいでしょう。威力が桁違いだからね」
顎に手を当て、紫苑さんはそうボヤいている。
────ヒザマ?
「あ、闇命君。ヒザマって何?」
『そんなのも知らないんだね。本当に無知って可哀想だよ。仕方がないから簡単に教えてあげる』
くそっ。まぁ、知らないから仕方がない。
闇命君の簡単で、悔しいがわかりやすい説明でヒザマについて知る事が出来た。
そこも天才だからか、本当に分かりやすかった。悔しい。
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