三角関係?

 部屋を出ると、廊下が左右どちらにも続いてる。


 天井には俺の知っている電気はなく、ロウソク。だからなのか、周りは薄暗い。


 気をつけて歩かないと転んでしまいそう。


「………えっ……と?」


 左右どちらの廊下を何度も繰り返し見ているけど、特に変わったものは無い。だから、とりあえず左に行く。


 行く場所に迷ったら勘に頼るしかない。地図アプリとかないし。


「──にしても、すごく大きな屋敷なんだなぁ」


 廊下は人が二人、横並びで歩いても余裕な程に広い。飾りとかもなく、シンプルな廊下が続く。


「…………」


 なんで俺がこうして異世界転生? してしまったのか、靖弥はどうなってしまったのか。分からない事だらけだな……。


 それに、俺が死ぬ前に聞こえた子供のような声。その声の主って、もしかして闇命君、とか?


 まぁ、とりあえず。ここの人達に俺の存在を疑われないように、話し方や距離感を気をつけて関わっていこう。


 琴平達から聞いた闇命という少年は、わがままで自由奔放。それをイメージして行動しないとな。


 気が引けるけど、人が嫌がる事を子供っぽくやればいいかな。



 ────っ、おっと!



「っ、おい、どこを見て──」

「あ、すいません。考え事をしていたのでよそ見をしてしまいました。大丈夫ですか?」


 やべ、曲がり角から人が来ていたみたい、咄嗟に避けられて良かった。


 怒りそうだったけど、前から出てきた男性に俺が直ぐ謝ったからか、「お、おう……」と困惑気味にこの場を去った。


「危ない危ない」


 考え事をしながら歩くのは危ないな、人とぶつかってしまう。

 周りを見ながら歩かないとな。


 ────えっと、闇命君になりきるには、まず人に嫌われることだったな、考えていたこと。


 まずは、自分の意志を何を言われても通せばいいのかな。

 漫画では、よく理不尽に怒ったりしていると嫌われてたな、確か。


 例えば、曲がり角でぶつかりそうになったら理不尽に暴言をはっ──


「────あ!!!!!」


 振り返るが、気づいた時には遅かった。

 さっき、ぶつかりそうになっていた人はもう居ない。


 …………あぁ、なるほど。


 さっきの人、なんであんなに困惑していたのか今わかったよ。だって、ワガママな嫌われ者が、自分の不注意だと認め、急に謝ったり心配したのだ。そりゃぁ困惑するよ。


「俺のばがぁぁぁあああああ!!!」


 何やってんだよ俺!! ここで俺の性格の良さは出さなくていいからさぁぁああ!! 演じるなら暴言吐くところだろぉぉおお!!


「…………なんて言えばいいんだろう」


 暴言を吐くと言っても、何を言えばいいんだ? 現実の世界だと、面倒事に巻き込まれたくなくてすぐに謝ってたから本当に分からない。


「貴方が琴平の言っていた、ユカという奴か?」

「っ、え、あ、はい。牧野優夏です。よろしくお願いいたします?」


 頭を抱えていると、廊下の先にある曲がり角から綺麗な女性が来て、話しかけてきた。


 赤い髪を後ろで一本に結んでいる。

 つり目の赤い瞳の巫女さんだ。現代だったら上司にいそう。


 立ち上がり腰を折ると、巫女さんはその場にしゃがみ、顔を覗き込んできた。


 もしかして、この人がさっき琴平が言っていた、三人目の従者かな。


「…………」


 …………え、何。めっちゃ見てくるんだけど。つり目だから睨まている感覚があって、正直、少し怖い。


「────ワタシは、信じない」

「…………ん? 何を?」


 なぜ、いきなり俺は「信じない」って言われたのだろう。

 さすがに悲しいのだが。挨拶に何か不備があったかなぁ。


「あの、何を信じないの?」

「お前の存在を信じない。何を企んでいる、何がしたい。お前は何者だ」


 鋭い目を向けながら、次から次へと質問をぶつけてくる。


 うん。怖い、普通に怖い。けど、これがもしかしたら普通の反応なのではないか? 

 さっきの人達が冷静過ぎたのではないか?


「聞いているのか貴様!」

「ひっ、き、聞いておりますよお姉さん!!」

「お姉さん、だと?」


 あ、死んだ。


 巫女さんが顔を引きつらせ、低音ボイスで怒り始めた。


 いや、なんで。

 そんなに「お姉さん」ってフレーズ嫌いだったの?! それだったら本気で謝るから許して!!


「貴様……」

「ひゃい……」


 両肩に手を置かれた、逃げられない。

 これは、俺、殺されてしまうのか。転生してすぐに殺されてしまうのか。短命関係無しに死ぬのか……。


「もう一度、呼んでくれ!!」

「────ん?」


 え、今なんて? もう一度呼んでくれって言ったのかな。えっと……。


「お姉さん?」

「もう一回!!」

「お姉さん」

「もう一回!!!」

「お姉さん」


 何故か何度も何度も「お姉さん」と呼べと言ってくる。挙句の果てに「紅音あかね姉さんと呼べ」とまで。いや、呼ぶけど。


「紅音姉さん」

「〜〜〜闇命様!!!」

「ぐえ!!」


 ちょ、く、苦しい。強い力で抱きしめないで!! 何でこうなるの!? 本当に女性なの!? めっちゃ力強くない!? 


「なにやってんだ、紅音」

「琴平が言っていた事を確認しに来た」


 力が緩んだのと同時に、後ろから琴平の声。た、助かった……。


 後ろには、琴平ことひが呆れた表情を浮かべ、見下ろしていた。

 あぁ、助かったぜ我が友よ。今日出会ったばかりだけど。


「駄目じゃないですか紅音さん、そんなに力強く抱きしめてしまってわ。闇命様のお体はまだ完治していないのです。貴方みたいに西瓜を簡単に潰せるほど力が強い人に抱き留められてしまっては、闇命様がまた倒れてしまいますよ」


 笑顔でなかなかゲスい事を言うな夏楓かえでよ。いや、ツッコむのはそこでは無い。


 今、俺を抱きしめている紅音姉さんは、西瓜を潰せるの? そこ、もう少し詳しく。


 琴平の後ろから夏楓が、一歩前に出てきて俺の肩を後ろから掴んできた。


 あれ、ちょっと自身に引き寄せなかった?

 なんか、引っ張られた気がしたんだけど……。


「ここでは強いモノが生き残る。ひ弱な貴様になど言われたくない」

「ですが、仲間を傷つけてしまっては元も子もないと思いますけど? それに、闇命様のお体なのですから、中身は違うにしろ、もっと丁寧に扱っていただけませんか? 正直、とても不愉快です」

「傷つけるほど力は込めていない。それに、闇命様の傷は貴様が治したはずだ。完治していないのは貴様の力不足が原因なのではないか? これだからひ弱な奴は口だけ達者なのだな」

「す、ストーーーーープ!!!」


 なんなんだこの二人。

 夏楓は笑みを浮かべ、紅音姉さんは無表情で淡々と言い合いをしている。


 なんか、普通の喧嘩を眺めるよりすごく怖い。これが、女子同士の喧嘩なのか、関わりたくないな。


 こんな争いを見るくらいなら、男子の殴り合いを見ていた方が怖くないわ。


 今なお、夏楓は俺の肩を掴んだままで、紅音姉さんは逃がさないというように腕を掴んでいる。


 に、逃げられん!!!! 動く事すら出来ん!!


「えっと、夏楓と琴平はなんでここに?」

「紅音に会わせようと思ってな。話だけ伝え、その後に用事を済ませたんだ。まさか、自ら会いに行こうとするとは思わなかった。しかも、こんな廊下でなぁ」


 あ、あれ? なんか、琴平の表情がみるみると怖い顔……に?


「優夏とやら。ここで遭遇するのはおかしいと思うのだが? 普通なら部屋まで紅音を案内するはずだが。いや、それが正しいはずなんだが、なぜここで会えたのだ? なぁ、優夏とやら」


 …………やべっ。


 そういえば、琴平には部屋から出るなって言われてたんだ。

 すぐに戻ればいいと思って出てきてしまったんだだけど……これは、終わったか?


 いや、まだだ、諦めるな俺。必ず、生還ルートは確保されているはずだ、それを探せ。


「…………か、厠にっ──」

「言い訳は聞かんぞ」


 言い訳は聞いてくれないそうです、オワタ。


 水色に鋭く光る片目で見下ろされているから、圧がすごい。


 これが、アニメとかでよく登場人物達が口にしている、殺気というものなんだな。

 確かに、こんなのまともに受けていたら動けなくもなる。


 今か今かと、何を言われるのか分からない恐怖を抱えながら待っていると、琴平達が来た方向から二つの人影が現れた。


 立派な髭を生やした細い老人と、厳格そうな男性だ。


 二人を確認すると、めっちゃ怒っていたはずの琴平達は身なりを正し膝をつく。


 こんな反応を琴平達がするということは、どうやらこの人達は、この陰陽寮の中では上位の人達なんだろうな。


「闇命よ、傷は癒えたらしいな」

「周りの方々の支援があり、なんとか」


 しわがれた声、見た目だけだと八十代ぐらいに見える。

 白髪に白い口髭。目元は窪んでおり見えにくい。頬などのシワが目立つ八十代くらいのじーさん。


 その隣の男性はまだ少し若く見える。それでも、五十代ぐらいの見た目だ。


 こちらはまだ黒髪がしっかりとして、耳が見えるほど短い。黒い瞳が鋭く光って、見下ろされるだけでめっちゃ怖い。


 ひとまず、荒波を立てないように返答したけど、そもそも闇命という少年の口調がよく分からない。でも、こんな感じで大丈夫でしょ。


 さすがにこんな怖そうな人達には、偉そうな態度しないだろう……。


「ふむ、今までより大分可愛げがある言い回しだな。今回の事件で学んだか」


 あれ、嘘だろ。まさかこの子、こんなに偉そうな人達にもタメとかで話してたの?


 確認がてら琴平を見ると、顔を青くし汗を流していた。


 あぁ、俺は間違えていたらしい。どうすればいいの……。


「貴様の普通の口調で話せ。その方がまだ怪しまれんだろ」


 紅音が耳元に助け船。二人に聞こえないように、ボソボソと小さな声で教えてくれた。


 そう言うって事は、やっぱりこの少年──この人達にもタメだったんだ!!!


 今から話し方変えても大丈夫かな……。


「傷が癒えたのなら、貴様の修行を再開する」

「え、修行?」


 困惑していると、琴平が焦ったようにバッと顔を上げ咄嗟に口を開いた。


 え、なになに? 何されるの俺……。

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